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著名人・有識者が語る 〜インタビュー、講演、寄稿〜

音楽は生きる力

ピアニスト 梯 剛之

音楽との出会い

「生後間もないころから音楽はいつも身近な存在でした」。朗らかな笑顔で、音楽との出会いをそう語り始めた梯さん。小児ガンにより生後1カ月で失明。手術後も治療や検査のたびに頭や体を押さえつけられ、まぶたを金具製の医療器具で開けられる日々。そのストレスのためか夜泣きも激しかったそうだが、クラシック音楽のレコードをかけるとぴたりと泣きやんだと言う。

「当時から難しい曲でも静かに聞き入っていたそうです。10カ月を過ぎたころには、お気に入りの一つだったリヒャルト・シュトラウスの『四つの最後の歌』の一節を、レコードに合わせ、非常に正確な音程で歌っていたみたいですよ」


そんな赤ちゃんにとっては、ピアノもおもちゃ代わり。積み木など普通のおもちゃには一切興味を示さないのに、お母さんに抱かれてピアノの前に座ると、手の平で鍵盤を叩いて何十分でも「熱演」を楽しんでいたのだとか。1歳になり、2歳になっても、飽きることなくピアノに向かう姿を見て、ご両親も「これだけ好きなのだからやらせてみよう」と決意。4歳半で本格的にピアノのレッスンを開始し、その才能を高めていくことになる。

ところで、楽譜を見ることができない梯さんは、レッスンの際にもあらかじめ暗譜をして臨んだそうだが、大変な作業ではなかったのだろうか?

「僕は小さいころから演奏を4回ぐらい聞けば、楽譜をほとんど覚えることができました。でも、倍音*の関係で音の響きが多かったり、録音環境によって弾いていない音が聞こえてきたりすることがあります。また、同じ曲なのに演奏家によって速さやアクセントが全然違ったり、音を一つ多く、あるいは少なく弾いているような気がすることもあります。そこで楽譜を正確に覚えるため、今もCDで演奏を聞いた後、母に楽譜を一つ一つ説明してもらっています。速さや表情、休符、アクセント、強弱など、楽譜上の細かな指示を何度も読み返してもらいながら、少しずつ確実に記憶していくのです」

こうして1度覚えてしまえば何年たっても忘れない記憶力と、驚異的な耳のよさ。「天賦の才」とは、まさにこういうことを言うのだろう。

*倍音 「基音(基の音)」の振動数に対して整数倍の振動数を持つ上の音のこと。例えばピアノで「ド」のキーを叩くと、その1オクターブ上の「ド」や「ソ」、2オクターブ上の「ド」や「ミ」などの「倍音」もかすかに鳴っており、これらは豊かな音色をもらたす効果も生む。