個票データを用いた研究成果
家計個票データを用いた貨幣需要関数の推定
研究者:鈴木亘(東京学芸大学)
*カッコ内の所属は、研究成果完成当時
完成時期:平成16年12月
本稿は、金融広報中央委員会「家計の金融資産に関する世論調査」(旧貯蓄広報中央委員会「貯蓄と消費に関する世論調査」もしくは「貯蓄に関する世論調査」)の1990年から2003年までの14年間の個票データをプールして用いることにより、家計データからの貨幣需要関数の計測を試みた。これまでわが国で行われてきた貨幣需要関数の推定は、Fujiki and Mulligan(1996)などの少数の例外を除けば、もっぱら時系列分析により行われてきているが、本稿のように家計のRepeated Cross-Section Dataを用いる利点として、1)時系列データとは異なり1時点の情報量が豊富であるため、比較的短期間の弾力性やその安定性が評価できる。2)時系列データ上、同時に動いていて識別が難しい諸変数の識別可能性が高いことなどが挙げられる。
推定の結果、金融資産を考慮しない推定においては、所得弾力性(M1,M2)、金利の弾力性(M1)ともに、これまでの時系列データや都道府県別データを用いた推定結果に非常に近い値が計測された。また、金融資産を考慮した場合には、Sekine(1998)同様、所得弾力性が大幅に下がることが確認された。所得弾力性はM1は上昇トレンドを持っている一方、M2は単年度においてややばらつきがみられるものの総じて安定的である。また、資産効果を考慮した場合には、さらに所得弾力性の安定性が高まることが分かった。