ディスクロージャー誌の見方・銀行編
健全性を知るポイント
6.自己資本比率とは
自己資本比率とは、リスク・アセット(総資産のうち、万が一の場合に貸倒れの可能性がある資産)に対して資本金等の自己資本がどれくらいあるかを示す指標(ルール)のことです。
この指標は銀行の健全性を示す指標として用いられ、その水準が高いほど、銀行経営がより健全であることを示しています。逆にその水準が低くなると健全性の度合いが減じられることとなり、銀行経営にも望ましくない影響を与えます。
自己資本の持つ意味を考えると、多額の貸出金の回収ができないというような場合には、その損失は、まず第一に自己資本の保有者である株主によって負担され、次いで他人資本の大部分の保有者である預金者によって負担されます。自己資本が十分にある場合には、万が一銀行に損失が生じても、預金者が直接負担を負う可能性が低くなります。その意味で、リスク・アセットに対する自己資本の厚みを示す割合である自己資本比率は、預金者保護の観点からも重要な指標ともいえるのです。
現在のように金融・資本市場がグローバル化すると、金融システムの連鎖的な破綻への対応が必要となることから、主要国の銀行監督当局・中央銀行の集まりであるバーゼル銀行監督委員会(バーゼル委員会)は、1988年に、国際的な金融システムの健全性強化と国際業務に携わる銀行間の平等な競争条件の確保を目的として、自己資本比率の国際的な統一規則(ルール)を定めました。わが国では、このルールにもとづき、海外に営業拠点を持つ金融機関の自己資本比率を8%以上とする「自己資本比率規制」が導入されています。また、海外に営業拠点を持たない銀行の場合にも、自己資本比率を4%以上とすることが求められています。
自己資本比率の国際的な統一規則は、2004年6月末に、バーゼルIIとして大幅にバージョンアップされました。特に、貸倒れの可能性を考慮した信用リスクの計算が精緻化され、外部格付をもとに計算する「標準的手法」および銀行自身の内部格付に基づいて計算する「内部格付手法」のうちから、選択することができるようになりました。このほか、新たに事務ミスや不正行為等により損失を被るリスク(オペレーショナル・リスク)が分母のリスク・アセットに加えられています。なお、わが国では、バーゼルIIによる規制は2007年3月末から実施されています。
現在、昨今の世界的な金融危機を踏まえ、バーゼル委員会において、自己資本比率規制の見直しを含む新たなルール作りの検討作業が行われています。
7.不良債権等の開示と残高等
(1)不良債権等の開示
銀行は、金融再生法(「金融機能の再生のための緊急措置に関する法律」)および銀行法の2つの法律によって、その銀行の保有する不良債権等の状況を開示することが義務づけられています。そして、銀行のディスクロージャー誌には、この両方が掲載されています。それぞれの開示内容は表1および表2のとおりです。
分類 | 内容 |
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1.破産更生債権及びこれらに準ずる債権 | 破産手続開始、更生手続開始、再生手続開始の申立てなどの事由により経営破綻に陥っている債務者に対する債権およびこれらに準ずる債権 |
2.危険債権 | 債務者が経営破綻の状態には至っていないが、財政状態および経営成績が悪化し、契約に従った債権の元本の回収および利息の受取りができない可能性の高い債権 |
3.要管理債権 | ・3ヵ月以上延滞債権(元金または利息の支払が約定支払日の翌日を起算日として3ヵ月以上延滞している貸出債権) ・貸出条件緩和債権(経済的困難に陥った債務者の再建または支援を図り、当該債権の回収を促進すること等を目的に、債務者に有利な一定の譲歩を与える約定条件の改定などを行った貸出債権)(注)いずれも1・2を除く。 |
4.正常債権 | 債務者の財政状態および経営成績に特に問題がないものとして、上記以外に区分される債権 |
分類 | 内容 |
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1.破綻先債権 | 会社更生法・民事再生法による更生・再生手続開始の申立て、破産法による破産手続開始の申立てまたは会社法の規定による特別清算開始の申立てなどの事由が生じている貸出金 |
2.延滞債権 | 元本または利息の支払の遅延が相当期間継続していることその他の事由により、元本または利息の取立または弁済の見込みがないものとして未収利息を計上しなかった貸出金(1および債務者の経営再建または支援を図ることを目的として利息の支払を猶予している貸出金を除く) |
3.3ヵ月以上延滞債権 | 元本または利息の支払が約定支払日の翌日から3ヵ月以上遅延している貸出金(1・2を除く) |
4.貸出条件緩和債権 | 債務者の経営再建または支援を図ることを目的として、金利の減免、利息の支払猶予、元本の返済猶予、債権放棄その他の債務者に有利となる取決めを行った貸出金(1~3を除く) |
(2)不良債権等の残高等
下の図は、全国銀行の平成12年度以降のリスク管理債権の残高等を示したグラフです。銀行は、不良債権を自己査定基準にもとづき評価・管理し、必要に応じて最終処理(法的整理等により不良債権を損失処理して銀行の資産から消してしまうことで、その分の不良債権が減る)しています。平成21年度のリスク管理債権の残高は約11兆4300億円となっています。
図 全国銀行の不良債権額の推移
注)金融庁HP掲載「不良債権の状況」より作成。
8.格付け
銀行の格付けも銀行の健全性を知るポイントの1つとなります。
格付けとは、債券等の発行体が負う金融債務の総合的な履行能力および個々の債務(債券やローン等)の支払いの確実性を、簡単な記号により表示したものです。すでにご存知かもしれませんが、例えば、当該債務履行能力が高い順にAAA(トリプルA)、AA(ダブルA)、A(シングルA)、BBB、BB、B、CCC、CC、C、D といった表示がなされます。また、プラスやマイナスの記号が付されることもあります(例 AA+、A-)。なお、BB以下に格付けされている債務は投機的要素が高いとされています。
こうした格付け情報は格付け専門会社のホームページや個別銀行のホームページ、会社四季報等で入手することができます。