金融教育フェスタ
金融教育フェスティバル2009
教員向けセミナー 実践報告<1>
白井 智也氏 (埼玉県立大宮商業高等学校 教諭(商業科主任))
「高校生が取り組む金融教育」
地域と連携し、小中学生を対象に教室を企画。生徒の知的探求心にも火
本校は昭和19年に設立された商業の伝統校で、全日制18クラス、定時制8クラスを設けております。全日制は700人の生徒のうち9割が女性で、卒業後の進路は6割が就職、4割が進学です。
金融教育への取り組みは、平成19年度に埼玉県金融広報委員会から金融教育研究校の委嘱を受けたことをきっかけに始めました。委嘱は1年間で、教科のビジネス実務の中で進めましたが、それを部活動で引き継ぎ、20年度は小学生、21年度は中学生を対象に金融教室を企画、実施しました。研究だけでは生徒のモチベーションが上がりませんので、生徒商業研究発表大会を目標にして活動に取り組み、20年度は全国大会に出場することができました。
本校は地域と連携して商品開発に取り組んでいることもあり、最初は金融商品を作りたいということで研究を始めました。しかし、法律上それが難しいということがわかり、地元の銀行の協力を受ける中で、小学生3年生を対象にした金融教室を企画することになりました。生徒たちが紙芝居でお金と貯金の大切さを説明した後、小学生にはグループに分かれて貯金箱を作ってもらうという構成を考えました。各グループには、6、7人の小学生に対して2人の本校生徒を配置し、貯金箱作りを楽しんでもらいながら、本校生徒が銀行や金利について説明をするという方法で実施しました。これは大成功で、職員も生徒も感動して終えることができました。
21年度はこれをさらに発展させ、中学生を対象にライフプランニングの授業を企画することにしました。そのために、まず、本校の生徒たち自身がライフプランの立て方を学ぼうと、ファイナンシャル・プランナーを招いて講演会を開き、そこで学んだ内容を踏まえて金融教室の授業の進め方を考えました。そして、本番では表計算ソフトの「Excel」を使って中学生に説明をし、実際に中学生一人ひとりにライフプランを作ってもらいました。
さらに、これまでは3年生の総合的な学習の時間に県消費生活支援センターの方に年1回、講演をしていただいていましたが、21年度はこれを含む6時間の授業展開としました。具体的には、日本ファイナンシャル・プランナーズ協会の方による「金融に関するガイダンス」と「ライフプランニングの基礎」についての講演の後で、担任教師が自分の人生経験を交えながら話をしたり、Excelを使って生徒に自分のライフプランを考えさせるなどした後、最後に消費生活支援センターの方に「金融トラブルから身を守る」というテーマで話していただきました。
商業高校ですから、授業で簿記や経済に関するさまざまな知識を学びますが、そうした知識も、生徒たちの中ではそれぞれが独立して存在するだけになっていました。金融教育は、そうしたパーツを互いに関連付ける作業になるとともに、生徒の知的探求心にも火をつけることになりました。これからも地域の協力を得て、「明日をになう彩の国(埼玉県の愛称)の人づくり」に取り組んでいきたいと思います。
教員向けセミナー 実践報告<2>
三枝 利多氏 (東京都目黒区立目黒中央中学校 教諭)
「家計のシミュレーションゲームと模擬商談」
活動型授業で、生徒の経済活動への関心を高める
本日は、私が中学校で行っている実践をご紹介します。公民の授業での取り組みですが、家庭科の先生方にも使っていただける内容ではないかと考えております。この授業は、私が何年か「家計のシミュレーションゲーム」を授業の中で実践してきた成果と課題の分析に基づき、そこで培われた生徒の課題意識をさらに高めることをねらいとして、スタートした活動です。
授業は、「シミュレーションゲーム」に「ロールプレイングを取り入れた模擬商談」を加えた7時間です。模擬商談により、価格によって消費行動が影響を受けることを実感させながら、生徒が経済活動に関心を持ち、学んでいこうという意欲を持たせることを目標にしています。
まず第1時には家計の基本的な項目を押さえ、第2時は家計のシミュレーションとして、住居費、食費、衣料費などのさまざまな支出項目について贅沢、一般的、節約の3つのコースから生徒一人ひとりが選択をして自分の意思をはっきりさせた後で、グループで話し合ってコースを決定し、第3時ではシミュレーションゲームを行いました。
第4時は前時に行った家計に関する選択の妥当性を検討して、良かった点と改善すべき点を考え、家計を成立させるのに何が大切かを考えました。さらに第5時には、家計に大きな影響を与える住宅と自動車の購入を対象として行う模擬商談の準備に取り組みました。講師として来ていただく予定の企業の営業担当の方と私が事前の打ち合わせをする一方で、生徒はグループごとに住宅か自動車を選択し、資料をもとに商談の準備を行いました。第6時には講師の方に教室に来ていただき模擬商談を実施。最後の第7時では商談の結果を振り返るとともに、経済活動に対する自分の考えをまとめました。
生徒がまとめたワークシートには、「経済には全く興味がなかったけれど、これからは日本経済を支えていく側になるので、もっといろいろなことを勉強して社会に役立てていきたい」、「家計に対してのリアルな感覚を感じた」、「飛行機に乗って旅行にも行きたいし、車も欲しいし、服もたくさん欲しかったけど、限られた収入ではそう簡単にかなえられる夢ではないとわかった」などと書かれ、多くの生徒が経済活動への関心を高め、選択の重要性に気づくなどの成果が見られました。さらに、企業や金融の働きについての課題意識の形成の面でも成果が得られており、この活動型授業は有効性があると考えています。
この授業の模様は、金融広報中央委員会の『はじめての金融教育-ワークシート付き入門ガイドと実践事例集-』に載っておりますので、参考にしていただければと思います。