金融教育フェスタ
金融教育フェスティバル2010
教員向けセミナー 講話
講師 : 大杉 昭英 氏 (岐阜大学教育学部 教授)
「新学習指導要領における金融教育の進め方」
生活経験や学習による知識を活用した社会形成をめざして
現代は「知識基盤社会」だという時代認識をもって新しい教育の中身をつくろうと、中央教育審議会で議論がなされ、来年から小学校、再来年から中学校、その次の年には高等学校で新しい教育課程が実施されます。ところで、日本の子どもたちは、外部の情報源から情報を取り出し、意味を理解する段階まではできますが、その情報を、生活経験や学習で身に付けた知識を使って熟考し評価し判断すること、そして考えを記述したり、述べたりすることが苦手です。知識基盤社会に対応してどんな子どもを育てるかということは、大きな課題となっています。
こうした課題を克服するために、新学習指導要領社会科では、例えば、小学校の5年生の農業や工業のところに、初めて経済の概念としての価格と費用を用いて考えることになりました。これからの社会科学習では、有用で活用されるべき経済、金融の知識を学び、いろいろ考えていくことが必要になっています。
このように、金融経済学習の充実がもとめられていますが、学校ではお金という言葉はタブー、とよく言われます。しかし、お金を合理的にどう使うかという問題は私たちの生活にとって大切なことです。それだからこそ、社会科や家庭科の教科書に真正面から出ています。金融教育によって、経済学や金融論から知識を得、生活場面で起こる課題を調べたりして、判断し、法や制度を利用することができるようになるのです。知識基盤社会では、知識を使って考えて、社会をみんなで形成します。実際の生活場面を考える金融経済に関する教育は大きな役割をはたすことができます。
諸外国では知識基盤社会に対応して様々な指導が行われています。例えば、フィンランドでは、あることについて意見を述べたら、「それはどうして」と3回ぐらい理由を聞く指導が繰り返されていると聞きます。3回ぐらいきちんと理由を言えれば説得力がある説明になりますが、その際どういう知識を根拠に考えているかということが重要になってきます。金融、経済の知識を使って判断する時には、「みんなにとっていいことなのか」という公正さを考えて頂けば、新しい指導要領における金融教育の進め方の指針になるのではないでしょうか。
プロフィール
昭和28年生まれ。
広島大学大学院修了、公立学校教員、広島県教育委員会指導主事などを経て、
平成9年
文部省(現文部科学省)初等中等教育局中学校課教科調査官(兼)高等学校課教科調査官、
平成13年
国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官
(兼)文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官(社会)、
平成15年
文部科学省初等中等教育局視学官を歴任し、
平成19年より現職。
『中学校学習指導要領<平成20年>全文と改訂のピンポイント解説』明治図書(平成21年)、『高等学校 新学習指導要領の展開 公民科編』明治図書(平成22年)ほか著書多数。