金融に関する消費者教育の推進に当たっての指針(2002)
1.はじめに
わが国における金融に関する消費者教育は、その推進に当たって、新たな対応を求められている。
かつてわが国では、金融取引等に関する様々な規制により、金融機関の競争が制限されていた。このため、消費者にとっては、金融取引・商品に対する選択の幅が狭い反面、リスクもそれだけ小さいことから、消費者が金融に関する情報を主体的に収集する必要性は乏しく、金融に関する消費者教育への認識もそれだけ希薄であったといえよう。しかし、1980年代以降徐々に進展しつつあった金融規制緩和が、平成8年に提唱された日本版金融ビッグバン構想を受けて、さらに加速するとともに、情報・通信の技術革新も急速に進展するにつれて、新しい金融取引・商品が次々と開発されるところとなった。他方、金融機関の破綻事例も増加してきた。その結果、消費者はより多くの選択肢を手にした一方、多様なリスクへの対応や自らの選択とその結果に対する自己責任が従来にも増して強く求められるところとなった。こうした自己責任を消費者が適切に果たしていくためには、消費者に対して必要な情報を提供し、消費者の自主的な選択能力を高めていくこと、つまり金融に関する消費者教育が必要不可欠となりつつある。
平成12年6月、金融審議会答申「21世紀を支える金融の新しい枠組みについて」において、金融に関する消費者教育の重要性が指摘されたのは、こうした消費者をめぐる大きな金融環境の変化を象徴するものであった。
このように金融に関する消費者教育の重要性が一段と高まるにつれて、金融に関する消費者教育の進め方についても、環境変化にふさわしい対応が必要になってくることはいうまでもない。この点に関し、同答申では、これまでの進め方が様々な機関・団体による個別の取組みにとどまっていたとの問題意識に立って、「先ずは、業界、消費者団体、地方公共団体、関係省庁等が参加する貯蓄広報中央委員会・都道府県貯蓄広報委員会のネットワークを活用して消費者教育を体系的・効率的に実施することが重要である」としている。そこで、金融広報中央委員会(平成13年4月、貯蓄広報中央委員会より改称)では、同答申の指摘を踏まえ、金融に関する消費者教育の体系的・効率的推進に資するべく、ここに指針を作成することとした。
本指針では、まず、わが国における金融に関する消費者教育の意義、目的を改めて確認するとともに、金融に関する消費者教育の現状を、国内のアンケート調査結果や英米における実情調査結果に基づいて概観した上で、その課題を整理する。次に、こうした現状と課題を踏まえ、消費者教育の対象、範囲、内容、推進主体等、基本的な望ましい姿、方向を示す。さらに、こうした基本的な方向性の下で、金融広報中央委員会の今後の活動の重点事項を挙げる。
なお、本指針は、わが国において金融に関する消費者教育を推進するすべての主体が共有することを想定したものである。今後の具体的な活動の重点事項については、金融広報中央委員会に関係した部分にとどめているが、当委員会以外の関係機関におかれても本指針の趣旨を十分理解され、わが国における金融に関する消費者教育の充実に向けて共に尽力されることを期待したい。