金融に関する消費者教育の推進に当たっての指針(2002)
4.わが国の金融に関する消費者教育の望ましい姿
(1)対象(だれに)
わが国における金融に関する消費者教育は、わが国在住のすべての人々を対象に行われるべきである。これは、わが国では、過去20年間漸進的に進められてきた金融自由化が、平成9年以降実施された日本版金融ビッグバンにより一気に加速し、新たな金融商品が次々と登場するとともに、すべての人々に自己責任が求められる時代となっているからである。このため、あらゆる立場の人々が、金融に関する知識レベルを高めることが望ましい。
海外においては、金融に関する消費者教育の対象を、取組み主体ごとに対象を限定する傾向がみられる(「児童・生徒および比較的教育を受ける機会に恵まれない人々」(英国金融サービス庁)、「高校生」(ニューヨーク連銀)、「中間または低所得層」(米国消費者連盟)等)が、金融を取り巻く環境の変化のスピー ド等からみて、わが国では全ての人々を対象とすることが必要と考えられる。
この点について、「金融に関する消費者アンケート」でも、「子どもたちを含め、基本的に全ての国民を対象に暮らしに身近な基礎的な教育を中心に行うべき」(91.5%)とする回答が圧倒的に多かった。
(2)範囲(何を)
わが国における金融に関する消費者教育では、金融商品・サービスの内容とともに、個人が生活設計に基づく健全な経済生活を営む上で必要な知識(年金、保険、税制、契約、消費者保護法制等に関する知識)が主な範囲となろうが、さらに自立した消費者に求められる自己責任の意識についても加えるべきであろう。
この点について、第1回「金融に関する消費者アンケート」(平成13年)でも、どのような知識・情報が暮らしに役立つかという質問に対し、「介護保険、年金、税金などの制度面に関する知識・情報」(64.1%)が最も多く、情報を希望する分野については「年金」(67.9%)、「預貯金」(51.3%)、「保険」(47.4%)、「税金(相続税等)」(35.6%)を挙げる回答者が多かった。
また、「団体・有識者アンケート」でも、消費者に必要と考える知識・理解について、「金融商品や取引のリスクの所在や内容」(85.3%)に続いて、「自立した消費者として必要な自己責任の意識」(65.5%)、「金融商品等の適切な選択能力」(55.2%)、「金融に関する消費者保護のしくみ、基本的な法制度」(49.1%)を挙げる回答者が多かった。
(3)内容(どのように)
金融に関する消費者教育においては、上記のように、わが国在住のすべての人々が、広範な内容を身に付けることを目指す必要があるが、そのためには、段階別に学習すべき内容を体系的に整理した基準が示されることが望ましい。
体系的な学習内容の基準を作成することにより、(1)指導者に対し教えるべき内容を示すとともに、(2)学習者に対し学習の進め方についてのモデル・ケースを示し、(3)学校をはじめとする教育機関に学習者の進捗状況を把握するための目安を与えることができるものと期待される。また、そうした体系的な学習内容の基準と、学習指導要領および既存の有益な教材との関連を示すことも、金融に関する消費者教育の推進に資するものと考えられる。
こうした基準は、さまざまな主体による教育活動をひとつの体系の中に位置付けることにも役立つものと考えられる。
金融広報中央委員会では、金融に関する消費者教育の対象領域を大きく5つ((1)経済のしくみと消費者行動、(2)貨幣の価値と機能、金融のしくみ、(3)金融商品・サービスの内容、(4)生活設計、(5)消費者としての自立)に分け、「金融理解度向上のための年齢層別カリキュラム」(別紙8)をとりまとめた。なお、体系的な学習内容の基準としては、基本型としての年齢層別カリキュラムの他、社会人向けの到達段階別の基準や、その応用型としての職業別(自営業者向け、雇用者向け等)基準の作成も必要と考えられる。
(別紙8)金融理解度向上のための年齢層別カリキュラム(素案)(PDF 20KB)
「団体・有識者アンケート」でも、先述の通り、「全国民対象に一律・均等に行うべきものはそのように対応する一方、対象者の特性に応じ、例えば、年齢層別に発達段階に応じて行うべきものがあれば、その特性に応じて教育内容を変えるなど工夫すべき」(95.7%)とする回答が圧倒的に多かった。