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金融教育公開授業

平成20年度金融教育公開授業(全国リレー講座)

金融広報中央委員会
青森県金融広報委員会
弘前大学教育学部附属中学校

青森の実施報告

「金融教育公開授業 in 弘前(弘前大学教育学部附属中学校)」(10月3日開催)

弘前大学教育学部附属中学校は、青森県内唯一の国立大学の附属中学校として、常に斬新な授業を模索しています。生徒たちは、学校の教育目標である「自由、創造、気品」を実現するべく部活動と勉強の両立に励んでいます。

▼ 参加者内訳:

生徒77名、開催校教員5名、教育関係者5名、大学生11名、地域の方々22名、合計120名

1.公開授業Ⅰ

公開授業1「お金の機能~物々交換経済でのシミュレーション」の模様「お金の機能~物々交換経済でのシミュレーション」と題する3年生社会科の授業では、物々交換のアクティビティが行われました。生徒は4人のグループに分かれて着席し、最初は隣同士、次にはグループ間、最後は教室全体で、カードに配られた商品を、自分の生活を良くすることを目的に、また損をしないように気をつけながら交換していきます。

グループ間での交換を終えた時点で、一度、それぞれの商品の価値が発表されました。最も高価なのは大間産本マグロで500万円、安価なものは米・傘・時計などで1万円です。教室全体で交換した後、1年の時間が経た後と設定して1年後の商品の価値を改めて計算してみると、まぐろ長者を狙った生徒は、価値がゼロとなってしまったほか、得した人はわずかで、殆どが損をするという結果となりました。生徒たちはこのような交換の過程で、お金の3つの機能(交換機能、価値尺度機能、保存機能)を感じ取っていました。

2.公開授業Ⅱ

公開授業2「『みんなが共通の利益を受けられるために』~マンションの耐震改修を通して政府の経済活動を考える~」の模様「『みんなが共通の利益を受けられるために』~マンションの耐震改修を通して政府の経済活動を考える~」と題する授業(3年生社会科)でも、アクティビティを取り入れた授業が行われました。生徒は4人のグループで家族を構成し、住まいとしているマンションの耐震工事を行うための拠出金に賛同するかしないかの意思とその理由を提示していきます。拠出された改修一時金の総額の半額がマンション全体で守られる財産額となるルールであるため、改修費用を支出しない世帯の方が守られる財産額が大きくなることとなります。

一部の世帯は「お金がもったいない」という理由で拒否しましたが、3回意思表示を行う中でも賛同世帯が多数を占めたため、問題なく耐震工事を行うことが理事会で決定されました。設例から、公共サービスとそれを維持するための対価などに話が展開され、公共財について学習しました。

3.講演

講演「先生方に知っていただきたい経済の見方考え方──学習指導要領改訂を視野に」の模様初めに、青森県金融広報委員会の鶴海誠一副会長より、「金融教育は、個人個人の生活力をあげることにつながります。とくに若い世代には社会のしくみを理解してもらうことが重要と考えています。」と挨拶がありました。

「先生方に知っていただきたい経済の見方考え方──学習指導要領改訂を視野に」と題し、同志社大学の篠原総一教授が講演されました。経済教育とは、まず、経済学を教えるのが目的ではなく、私たちが生きている社会の仕組みを知り、それがどうあるべきかを考える子どもたちを育成すること、その意味で、新しい学習指導要領でも、社会の仕組みの意味を考えることが強調して盛り込まれていることを紹介されました。また、社会のあり方を考える「社会科」では、正解は必ずしも一つではないこと、多様な答えがありうることを教えてほしいと話されました。

そのような視点でみると、公民の教科書では、経済単元は、市場にかかわる経済活動と政府の経済活動に分かれているが、それは、家計や企業の自由な市場取引にまかせておけば社会全体のムダを省き、限りある資源を効率的に利用できる分野と、一方で、政府に任せるほうが社会のムダを省くことができる分野があるからであり、後者に該当するものにはどのような経済活動があり、その費用は誰が負担するのかといった問題を考えられるように教えるべきだ。また、社会の効率は市場に任せてよいが、公平にかかわる問題は政府の担当といった思い込みが見られるが、それは誤りであり、市場活動でも政府の活動でも、効率と公平の問題に深いかかわりがあることを、例を挙げながら説明されました。また、市場の経済取引を成立させる上では所有権など、法的な保証も必要であり、その意味で、法と経済は互いに関わりがあること、さらには、政府の政策(例えば、最低賃金制)がもたらす効果については労働者・雇用者両者の立場から考えると、単なる思い付きではない答えがみつかることを生徒に考えさせてほしいと話されました。最後に、教科書の各章の内容にはつながりがあることに留意して、経済のしくみを生徒が理解できるように授業を組み立てることを提唱されました。例えば、公開授業で取り上げた「交換」は経済活動の原点であるが、そもそも両者にとって有利だから交換が始まること、だから交換の効率性を高めるという視点にたてば、貨幣の誕生、流通の工夫・生産の特化・生産規模の拡大と多様化、そして金融や政府の役割・外国との取引が私たちの暮らしの改善にどのように役に立っているかという理解に至るまで授業を発展させることも考えられるのではないかと述べられました。

4.鼎談

鼎談「金融経済教育の役割と可能性」の模様「金融経済教育の役割と可能性」と題し、同志社大学篠原教授、弘前大学猪瀬武則教授、日本銀行鶴海青森支店長が、話し合いました。初めに、猪瀬氏から「1)金融経済教育は功利的で利己的な人間を育成するのではないか、2)他にも重要な教育課題があり、本当に必要か、3)官からの情報提供は『本来』の経済教育をゆがめるのではないか」といった論点が提示されました。

鶴海氏は、子どもたちには、お金は必要であり、大切なものであるが、道具であり、人生や生活の目的としてはいけないものであることを理解してもらいたいと考えを述べられました。これは、例えば、お金を目的とする犯罪の背後に親の病気の治療費といった背景がある場合、犯罪そのものが親を悲しませるという事実に気づけば犯罪に至らなかったと推測されることからも明らかであり、小学生を対象に行ったお金の授業で「お金は大事だけれど、お金では量れないものもある」という感想が寄せられたことを紹介し、子どもは大人が思う以上に本質をよく理解しているのではないかと話されました。また、物価についても、上がるのが悪で下がるのが善という単純な図式ではなく、下がることがもたらす悪影響も子どもたちは理解していたと話されました。

猪瀬氏は、学習指導要領(以下COS)の精選と経済教育内容の適切性について説明されました。次のような内容です。「COSは、改訂の度に過剰で過大な学習内容を減らすことにより、より思考力を高める教育が目指されてきた。近年の『学力低下論』で、こうした動きとは逆の『詰め込み』を慫慂するかのごとき学習内容の肥大が求められているようであるが、むしろ重要なことは、表層の社会事象に一喜一憂して、右往左往する思考ではなく、原理的な思考である。例えば、現代の子どもたちはインフレーションを経験したことがないから、現在の『デフレという出来事』を教えれば良いというものではない。そのメカニズムやインフレ抑制をはじめとした政策的意義の意味が教授されることにより、はじめて、しくみ理解を踏まえた政策評価をはじめとした意思決定ができるのである。学習項目が増えるだけの『詰め込み主義』には反対だ。今般の学習指導要領の改訂を反映して中学校で直接金融・間接金融が扱われるようになったが、なぜ、このような扱い方が必要なのか、その意味を押さえること無しに、学習内容を肥大化させるのではなく先に示した原理的な思考とセットになった学習が重要である。」

篠原氏は、経済活動の中でとくに労働と金融が教えることが難しいと指摘されました。労働に関する経済問題が他のケースと異なるのは労働者が「心」をもっているからであり、金融は異時点間の取引であるために不確実性が内包される結果、複雑になってしまうことがその理由であると話されました。ただし、お金を融通するしくみがないと、いかなる経済活動も円滑に回らないので、金融の仕組みを理解させることは重要であると話されました。金融(ファイナンス)では、現在の所得と将来の所得を交換するという性質をもっており、その交換比率(=価格)が利子率(正確には1+利子率)になること、直接金融と間接金融の違い、フローとストックの次元での金融取引の違いや概念の意味も正しくしかも間違いないように教えなければならないこと、その意味で、学校で取り入れられている株式ゲームは、短期間の株価の変化を追跡せざるを得ないことから、投機だけに走るデイトレーダーの仕事を教えるようなことになってしまいかねないので、要注意であると指摘されました。

猪瀬氏は、COSに基づいた学校現場における経済教育カリキュラムと経済学の乖離・落差について説明されました。今次改訂で加えられた直接金融・間接金融に関して、現場教師は、株式会社と結びつけて教えることに違和感を覚えるかもしれない。現在、株式会社は会社の類型の一つとして教えるのが一般的であり、資金調達の手段としての直接金融・間接金融という発想がないからだ、と指摘されました。また、金融教育に対する誤解があるが、むしろ自立した人間の育成に役立つものであり、海外でもパーソナル・ファイナンスとして「社会形成の基礎となる公民的資質」を育成するものとして学んでいる国が少なくないこと、例えば、ニュージーランドでは年金もパーソナル・ファイナンスで学習するなど、個人の人生設計全体におけるお金について学ばせていることを指摘されました。天下国家を論じることも重要であるが、読み書きそろばんと同様の基礎学力として、経済リテラシーを高めなくては、社会の基盤が損なわれる。その点でパーソナル・ファイナンスではNEEDSとWANTSや希少性・機会費用などの経済的概念を学ぶことで合理的な思考を高めることができ、これがとりもなおさず、原理的な思考であると述べられました。もっとも、経済学で想定している合理的な人間像が現実からはかけ離れていることも事実であり、その例を「最後通牒ゲーム」を通じて披露し、人の中にある選好の偏りやバイアスを理解しないと過ちを犯すことになると紹介され、心理や感情を踏まえた上での合理的思考が必要であることを強調されました。

最後に、鶴海氏は学校にお願いしたいこととして、外部の人間が学校現場に入って子どもたちに社会を教えていくのは有用であり、子どもたちの未来のためになると考えているので活用してほしいと呼びかけました。篠原氏は昨今の不健全な事件が学校現場において金融に対する嫌悪感を引き起こしていると思われるが、金融は重要な生産要素であるのでぜひ取り扱ってほしいし、株式ゲームを授業に取り入れるにあたっては、十分注意して行ってほしいと話されました。

閉会挨拶で、田中副校長は、教師自身も社会のしくみを学ぶことが重要であり、正解は一つではない、生徒への教え方を間違えないようにすることを学べたことは本日の大きな収穫であったと締めくくりました。

5.プログラム

10:50~11:40
公開授業Ⅰ「お金の機能~物々交換経済でのシミュレーション」(3年生・社会科)
授業者:弘前大学教育学部附属中学校教諭 蒔苗尚文
11:50~12:40
公開授業Ⅱ「『みんなが共通の利益を受けられるために』~マンションの耐震改修を通して政府の経済活動を考える~」(3年生・社会科)
授業者:弘前大学教育学部附属中学校教諭 竹内誠司
14:00~14:05
開会挨拶 青森県金融広報委員会副会長 鶴海誠一
14:05~15:00
講演「先生方に知っていただきたい経済の見方考え方──学習指導要領改訂を視野に」
講師:篠原総一氏
15:05~16:35
鼎談「金融経済教育の役割と可能性」
講師:篠原総一氏、猪瀬武則氏、鶴海誠一氏
16:35~16:40
閉会挨拶 弘前大学教育学部附属中学校副校長 田中慶一

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