暮らしとおかねの身近な法律
3.暮らしとおかねの身近な法律(相続)Q&A
Q3-1.借金のある親からの相続は?<相続の放棄または限定承認>
親が先日事故により死亡しました。家族に内緒でギャンブル資金を不特定多数の消費者金融会社から借り、約3,000万円の借金があることが分かりました。遺産は、自宅のほか、銀行預金と死亡保険金等です。現時点では、親の資産と借金のどちらが多いのかわかりません。このような場合は、どのように相続したらよいのでしょうか?
A3-1.「限定承認」の方法での相続が考えられます。
普通に相続すれば(これを単純承認といいます)、亡くなった親の資産、負債をそのまま引き継ぎますので3,000万円もの借金の返済義務まで背負い込むことになります。この借金の返済義務を回避する方法としては、「相続放棄」と「限定承認」という二つの方法があります。そのどちらが適当かが、ここでのポイントになりますね。
「相続放棄」は一切の資産・負債の相続を放棄することになりますので、3,000万円の借金の返済の義務は全くなくなりますが、資産の相続もできなくなります。仮に親の財産の詳細が判明した結果、資産が借金よりも多く正味でプラス財産が存在していたとしても、その分も相続できなくなります。これは残念ですね。
一方「限定承認」は、相続した資産の範囲内において借金返済の義務を負う留保付きの相続方式です。したがって、その資産よりも借金が多い場合は、相続人は相続した資産の範囲内で借金を返済すればよいのです。この場合は最終的に取得できる財産は正味でゼロということになります。一方、相続した財産が借金よりも多額の場合は、全ての借金を返済した後の残余財産を相続人は取得することができます。
以上から、親の資産と借金のどちらが多いのかわからないという状態であれば、相続放棄よりも限定承認を選択した方がよいものと思われます。
ただし、その手続きは大変複雑です。しかも限定承認は相続人が複数いるときは共同相続人全員が共同してのみこれをすることができるとされており、全員の息が合うかどうかがまず問題です。次に、限定承認をしようとするなら相続開始を知った時から3ヶ月以内に財産目録を提出して、家庭裁判所に限定承認をする旨の申述をしなくてはいけないのです。ボヤボヤしていると機を逃します。したがってそうした相続問題が発生したときは、すみやかに弁護士など専門家に相談するようお勧めします。
民法第920条:[単純承認の効力]
相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
民法第922条:[限定承認]
相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。
民法第923条:[共同相続人の限定承認]
相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。
民法第924条:[限定承認の方式]
相続人は、限定承認をしようとするときは、第915条第1項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。
民法第939条:[相続の放棄の効力]
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。