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金融教育に関する実践報告コンクール

「金融教育を考える」第1回小論文コンクール(平成16年)

高校「現代社会」で多重債務問題をどう教えるか-私の提言-

優秀賞

熊本県・熊本県立松橋高等学校:三島 俊英

4. 私の提言

これまでの政治・経済と現代社会での授業、そして、今年3月に行った「きみはリッチ?―多重債務に陥らないために―」の授業を振り返りながら、高校「現代社会」で多重債務問題を教える時に必要な、4つの視点を提起したい。

1)何よりも、「人権教育」としての「金融に関する消費者教育」を行うこと

憲法13条で「生命・自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」とされながら、毎日、多くの人が自ら命を絶っている。

25条では「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とされながら、違法な年金担保融資により、唯一の生きる手段である年金さえ、業者から奪われている多数の高齢者がいる。又、「夜逃げ」のため、健康保険証さえ利用出来ない多くの国民がいる。

こうした現実の中では、多重債務に陥らない方法や陥った時の解決策を知らなければ、自分の生命や幸福を追求する権利が守れないし、ましてや、親族や知人の人権も守れないのだという、即ち、「人権教育」としての「金融に関する消費者教育」を行うことが、何よりも必要である。

そして、それは学ぶ喜びと生きる勇気を、生徒たちに与えることにもつながる。

2)自らの権利を行使できる、具体的で実践的な「金融に関する消費者教育」を行うこと

学力競争から落ちこぼれた多くの生徒は、自尊感情をなくし、学ぶ意欲を喪失しているため、授業が成立しにくい高校も少なくない。

そうであっても、多重債務問題の被害の深刻さを理解すると、自分の権利はどうしたら守れるか、という事に関心を持つようになる。それに応えて、内容証明、悪質業者の刑事告訴・告発、自己破産申し立ての仕方、裁判手続などにふれると、いっそう強く、自分の権利を守れるという自信が生まれる。

さらに、権利が侵害された時の相談先を知っておくことは、生徒たちの心の安全保障なのである。

3)現在、その最良のテキストは『きみはリッチ?』であること

授業の感想文のなかで、少なくない生徒が「社会人になって、もし、困ったことや分からないことがあったら、この『きみはリッチ?』を開こうと思います」、「私の近くで多重債務に困っている人がいたら、この『きみはリッチ?』のことを教えてあげたいと思いました」、「私は『きみはリッチ?』の授業を受けて本当に良かったと思います。この本は大人になるまで捨てずにとっておこうと思います」などと書いている。

授業を受けた後では、この冊子は、活字嫌いの生徒も含めて、生徒たちの宝物になったといえよう。

ただ、相当に豊富な内容だから、しっかりした学習の動機づけと基本的な事項についての丁寧な説明がないと、宝の持ち腐れになる可能性もないではない。

4)地域に密着した資料を使い、授業を構成すること

多重債務の問題は日本の社会病理であるから、全国各地に被害が起きている。授業では、前述の熊本県の実態の他に、ヤミ金融の看板広告を教室に持ち込み、ターゲットは高齢者、フリーター等であることを、視覚で確認させる。

2004年2月末で、熊本県知事登録数477、九州財務局登録数43の貸金業者の他に、無数のヤミ金がいることも、広告チラシを見せながら確認する。だから、最初は不安がる生徒もでてくるが、相談窓口として、熊本県弁護士会相談センター、熊本県司法書士会、熊本県消費生活センター、熊本クレサラ被害をなくす会の電話番号を板書すると、しっかり、ノートに書き写している。

多重債務問題はすぐれて、地域における重要な教育課題でもある。

終わりに

今年7月、「母親の借金に悩み、外出させないために犬用の首輪をつなぎ、息子が母親を死亡させた」事件が、新聞に載った。多重債務社会は、次から次へと、痛ましい事件をつくりだしている。

その背後では、10年間で100万人を超す人が、自己破産免責を受けている、この多重債務社会の大きな問題は、けた外れの「高利貸し」にある。出資法の上限金利だけでなく、利息制限法の金利までもが高利なのである。

借金に苦しみ、解決する術が分からず、自ら命を絶つ人をなくすには、学校で、多重債務に陥らないための消費者教育を行うだけでなく、利息制限法の制限金利を大幅に引き下げ、出資法の上限金利を利息制限法まで引き下げれば良いのである。

この単純明快な解決策が実現出来ないのが、多重債務社会である。その本質は、「多重債務社会の被害の原因のうち、解決方法について無知であるというのは小なる原因であり、出資法や利息制限法が高利であるということは中なる原因であるが、大なる原因ではない。もっとも根本的な、大なる原因はサラ金CMを大量に流す一方、多重債務の被害の実態は積極的に報道しないマス・メディアの姿勢など、人を人と思わない状況、言いかえれば人間疎外、人権無視、差別といった言葉でいいあらわせる状況の存在である」と表現することができる。

こうした人権感覚を共有していくことが、幾多の多重債務社会の犠牲者に応えうる、人間らしい社会を築く始まりとなるのだろう。

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