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高校生小論文コンクール

「金融と経済の明日」第1回高校生小論文コンクール(平成15年)

この夏、金融と経済の明日について考えてみませんか?

「ノーマライゼーションの浸透と介護保険のあり方」

特選

岩手県 岩手県立大船渡高等学校 3年 中川 美沙子

介護保険制度がスタートした翌年に寄せられた苦情の中に、興味深い内容がありました。それは、「介護が必要ない者に保険料を払え、というのは納得できない。」とするもので、同様の不満が都内だけでも4000件近く寄せられたことです。

この苦情は、制度が実施されてから、割と日があさい時期のものですが、このような不満は現在でも、多くあるように思います。そして、これは制度の根本的意義に対する素直な疑問です。

確かに、現在介護が必要ない人にとっての保険料の徴収は、他人のためにお金を使う、無駄な出費と捉えてしまうかもしれません。今日、高齢社会が急速に進行しているとしても、何の得にもならないもののためにお金を払う必要はないと。

このような苦情が寄せられた事実は、この新制度の仕組みやその成り立ちにおける考えが浸透していないことを表しています。この問題を考えることは、ノーマライゼーションにおける介護保険のあり方と今後の課題が見えてくると思います。ここで考えなければならないのは次の2点です。

第一に、介護保険制度はノーマライゼーションの理念の上に成り立っていることです。

過去、高齢者は遺棄され、慈善の対象、あるいは特殊な存在で保護的な考えのもとで扱われてきた歴史があります。1960年代からの経済成長期にあっても、巨大施設の隔離収納的保護の考えがあたかも当然のようにまかりとおっていました。そして現在でも、高齢者を社会のあまりものとみなす排他的な考えは根強く残っています。

しかし、いつまでもこのような風潮が許される日本であっては、社会福祉の発展はありえません。高齢者も子供も、一人一人が社会の本流であり、ともに助け合って暮らすことができる社会が、普通の自然な社会であることに気づく必要があります。

それを受け入れる社会の質の向上が今、求められています。それが理想論ではなく、現実になる社会を構築するために私は、ボランティアの推進と誰もが集える場所の設置を提起したいと思います。

ボランティアは、学校で義務化されるなど広く理解されるようになってきました。しかし、実際精力的に参加しているのは一部の年代に留まっていて、ある程度時間的に余裕のある人しか活動できないのが現状です。将来、誰しもが「老い」を迎えるわけですから、ボランティアを通して自分の今後を考えることは年代に関係なく大切なことです。

私は、週1回の老人ホームでのボランティアを1年続けました。思っていた以上に介護の大変さを実感し、最期を迎えるまでの困難さを感じました。高齢者とのコミュニケーションのとり方や食事介助など、実際に体験しなければ分からないことが多くありました。そして本当の意味でのノーマライゼーションを理解することは容易でないことを知りました。

確かに、冒頭にあるような批判をするのは簡単です。しかし、自分に利益がないからというだけで否定してしまっていいのでしょうか。ボランティアを経験することで、互いに支え合って成り立つ社会を実感し、その一員として何が出来るのか考えることが第一歩だと思います。

今、老人ホームと幼稚園を併設する動きが各地で見られます。これは豊富な知恵を持った高齢者と幼児との交流はお互いによい影響を与えられるからだと思います。しかし、それは施設に入居しているお年寄りと園児に限られてしまいます。

この形を応用して、各自治体で誰でも利用できる集会所を作れば、特定の人に限らずみんなが利用できると思います。様々な催し物を開いて交流をはかり、介護する側同士の悩み相談や情報交換の場としても機能することができたなら、孤独な介護や虐待を減らす効果もあるでしょう。

お年寄りは、私たちに日ごろ忘れかけている大切なことを教えてくれます。私が出会ったあるおばあさんは、いつも話の最後に「健康なことが一番いいことだ。」と頷きながら言っていました。その方は、痴呆が進んでいましたが、どんな言葉にもその方の人生が乗っているように思いました。どんなに痴呆が進んでも、人間としての成熟だと思えるようになりました。

歳をとるにつれて思うように歩けなくなり、他者の援助なしに生活できずに、能力が低下することを子供にかえる、と言ったりしますが、それも人間として成長しているのではないかと思います。どんな状態にあっても、様々な人とのつながり合いは大切です。ですから、集会所の設置は現代社会において希薄となった、縦のつながり合いを再構築することができると思います。

第二に、日本人の保険制度や税金制度の捉え方です。

冒頭の苦情は、「保険料を払え」といっています。この言葉から、何を読みとることができるのでしょうか。昨年、スウェーデンに行き、実際に高福祉・高負担として知られる制度を見てきました。この研修で一番印象に残っているのは、「税金は預るもの」という考えをほとんどの国民が持っていることでした。

「払う」と「預る」では、両者に大きな違いがあると思います。「預る」という考えには、例として、医療費の負担の免除や、保育園を低額で利用できるなどのサービスが受けられることを意味しています。そして、自分の利益にたとえならなくとも、高齢者や障害者などの弱者とともに生きるために、手助けするのが当然だとする考えが一般的でした。

スウェーデンは、所得税42パーセント、消費税25パーセントの非常に高い税を国民に課しています。そのような高い税でも預けた分だけの福祉サービスが確実にかえってくること、何に使われているか明確なこと、そして制度を支える基盤が整っているからこそ、国民の理解を得ることができるのだと思います。

日本で「税金を預ける」という使い方をする人がいるでしょうか。保険料についても同じことがいえます。そもそも、「保険料を預ける」が正しい使い方であるはずなのに、なぜ使えないのか。それは、どのような目的に使われているか不透明で、保険料を払っても、満足のいくサービスを受けられないことにあると思います。

例えば、在宅の場合の自己負担額は1割ですが、それを払うことが出来ない人は、サービスを受けられないことになります。しかし、うまく活用することが出来れば私たちの頼れる味方となります。

私の祖母は昨年、介護度2の認定を受けました。筋力の低下によって歩行が困難になったために、外に出るのが億劫になってしまっていました。しかし、月400円ほどの料金で歩行器を借りてから、散歩をするようになりました。外に出て太陽を浴び、近所の方と会話することで閉じこもりがちな生活を変えることができたのです。

老いによって気力を失ってしまい、続けてきた日課や趣味を諦めなければいけない状態になってしまうのは、老いの速度を上げるのと同時に、生きがいさえも見失ってしまうことにもなりえます。祖母のように、介護保険を利用して得た歩行器を道具に、歩く練習だけでなく、人との交流がはかれ、生活を質の高いものに向上できたなら、その効果は大きいものです。

このような場合に、保険料を「払う」ではなく「預ける」と言えるのでしょう。

介護保険制度は実施された時点から今まで模索しながらの社会保障システムだったように思います。そして、3年ごとの介護保険料見直しにより、今年保険料がアップしました。介護保険料の見直しの度、保険料がスウェーデン並みに上がったとしても、よりよい福祉の実現が確かに予測できるでしょうか。予測できません。

スウェーデンの福祉は、連帯精神、平等、公正意識が高いこと、強い地方自治の伝統などのその土地に合った制度だからこそ、成功しているといえるのです。他国を見習うことも大事ですが、日本独自性を生かした制度の見直しが必要なのではないでしょうか。

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