金融教育フェスタ
金融教育フェスティバル2010
暮らしに役立つ講演会
講師 : 宇都宮 健児 氏 (弁護士)
多重債務の被害をなくすために
弁護士として多重債務者の救済に約30年間携わってきました。そこで苦しむ多くの人たちの救済のために、立法活動にも取り組んできました。多重債務者の一番多い借り先は、消費者金融とクレジットカード会社です。消費者金融の利用者は今、約1,500万人います。クレジットカードは約3億2000万枚発行されています。
これ以上金利を取ると処罰される金利水準を決めている法律が「出資法」です。これ以上の金利は無効で払わないでいいよという規制をしているのが「利息制限法」ですが、罰則はありません。約30年前、当時「サラ金(サラリーマン金融)」と言われていた消費者金融は、年約100%で貸していました。出資法の上限金利は年109.5%でした。1983年に「サラ金規制法」ができ、サラ金は営業登録が義務付けられ、夜9時以降、朝8時以前の取り立てが禁止されました。同年以降、出資法が改正される度に、上限金利が年73%、54.75%、40.004%、29.2%と段々下がってきましたが、利息制限法と出資法の間のグレーゾーン金利での貸し付けは処罰されず、消費者金融などは年25%~29.2%で貸していました。
今年6月の改正貸金業法施行でグレーゾーン金利が無くなり、出資法の上限金利は年20%になりました。また、年収の3分の1を超える貸し付けもできなくなりました。ただ、利息制限法の制限金利年15%~20%は、銀行の普通預金金利0.02%を考えればまだかなり高いと言えます。
日本は社会保障制度の不備を高利の貸し金の存在で補ってきましたが、改正貸金業法施行によって、高利に頼らなくてもいい社会作りの第一歩になったと思います。06年12月、政府は多重債務者対策本部を設置。借金返済に困っているとみられる200~300万人の救済プログラムを作り、地方自治体、消費者団体、弁護士会などが多重債務者救済に立ち上がりました。多重債務者の全員救済や金融経済教育の強化などを掲げるプログラムに従った取り組みを継続しています。
多重債務に陥らないためには、①お金を借りる必要性が本当にあるのか、借りる前によく考える、②お金を借りる場合は、1%でも金利の低い所から借りる(社会福祉協議会の生活福祉資金は金利年1.5%)、③最後の手段として、生活保護の利用も考える、……といったことが重要です。返済不能になってしまったら、借金返済のための借金を繰り返すことは止めて、都道府県の弁護士会相談窓口や消費生活センターなどへ早めに相談に行ってください。
プロフィール
1946年愛媛県に生まれる。1969年東京大学法学部を中退、司法研修所入所
1971年弁護士登録、東京弁護士会所属。以後、日弁連消費者問題対策委員会委員長、日弁連上限金利引き下げ実現本部本部長代行、東京弁護士会副会長、豊田商事破産事件破産管財人常置代理人、KKC事件・オレンジ共済事件・八葉物流事件被害対策弁護団団長などを歴任。多重債務問題、消費者金融問題の専門家。2010年4月、日本弁護士会連合会会長。
著書:『消費者問題 実態と救済』(岩波新書)、『自己破産と借金整理法』(自由国民社)、『だれでもわかる自己破産の基礎知識――借金地獄からの脱出法』(花伝社)、『反貧困の学校――貧困をどう伝えるか、どう学ぶか』(編著明石書店)、『派遣村――何が問われているのか』(編著岩波書店)、『弁護士、闘う 宇都宮健児の事件帖』(岩波書店)、『大丈夫、人生はやり直せる――サラ金・ヤミ金・貧困との闘い』(新日本出版社)、『反貧困 半生の記』(花伝社)、『弁護士冥利 だから私は闘い続ける』(東海教育研究所)ほか