金融に関する消費者教育の推進に当たっての指針(2002)
3.金融に関する消費者教育の現状
(3)わが国における金融に関する消費者教育の課題
以上のようなわが国の現状とこの分野における先進2か国の事例を踏まえ、わが国における金融に関する消費者教育の課題を整理してみると、次の4点が挙げられる。
イ.金融に関する消費者教育の社会的意義・重要性に対する認識の向上
自由経済社会に生きる人間が正確な情報に基づいて賢明な選択をし、自らの判断に基づく豊かな人生を歩むためには、金融・経済に関する知識や消費者として自立するための知識が不可欠である。ましてわが国では1980年代以降、金融規制緩和や技術革新が進み、金融商品やサービスに対する選択の幅が大きく広がっている状況の下において、金融に関する消費者教育の社会的意義・重要性は一層高まっているとみられるが、なお一般的な認識のレベルは十分とはいえない。
この点は、第1回「金融に関する消費者アンケート」(平成13年)で、金融商品や金融・経済の仕組みに関して「ほとんど知識がないと思う」とした理由として、「元本保証の預貯金を中心に運用しており、また、金融機関の破たん(倒産)も予想していなかった」との理由を挙げた回答者が33.1%に上ったことに端的に表れている。
「団体・有識者アンケート」でも、金融の知識・理解が消費者に不足している理由について「金融に関する消費者教育の重要性に対する社会的認識が不足していたから」とした回答者が63.8%に上った。
ロ.金融に関する消費者教育の指針や体系的な学習のためのカリキュラム(注)の作成
わが国では金融に関する消費者教育を体系的に実施するための指針が作成されていない。このため、金融に関する消費者教育に携わるさまざまな主体の活動が有機的に結びついていない。またさらに、学習段階別に到達すべき内容を示したカリキュラムが存在しないことは、金融に関する消費者教育が学校教育の現場に浸透しにくい原因の一つとなっている。こうしたカリキュラムの不在は、たとえば、関係団体等の実施する個別の活動が消費者のニーズないしは知識レベルに必ずしも十分適合していないという事態を招いているとも考えられる。
(注)ここでカリキュラムとは、学校教育法施行規則に定める学習指導要領を指すものではなく、学習内容について体系的に組み立て、理解を進めやすいように整理したものを言う。以下同じ。
「団体・有識者アンケート」において、「金融に関する消費者教育が体系的・効率的が行われていない」ことを「わが国の金融に関する消費者教育の問題・課題」の一つとして挙げる回答者は64.7%に上っている。
第1回「金融に関する消費者アンケート」(平成13年)で関係機関の提供する情報等が難しいとの回答が多かったことは、年齢に見合った体系的な教育が行われていないことと無関係ではないものと思われる。
「団体・有識者アンケート」で、年齢層別に発達段階に応じた教育を行うべきか否かについて、「年齢層別の特性に応じて教育内容を変えるなど工夫すべき」とする回答者が95.7%に上った。
ハ.関係諸機関・団体間の連携の強化
当委員会は、(1)消費者教育用資料の作成協力、(2)講演会・学習会への講師の招聘、(3)インターネット・ホームページ上でのリンクの拡充の他、日々の活動を進める上でも関係諸機関・団体との連携強化に取り組んでいるが、未だ連携体制は十分とはいえない。個々の活動の効果をより高めたり、複数の機関・団体による活動の重複を避けるためには、関係諸機関・団体が連携に一層留意する必要があろう。例えば、国民生活センター、各地の消費生活センター等に消費者から寄せられた苦情・相談を含む情報を消費者教育にフィードバックする枠組みを整備するため、あるいは学校教育現場において金融に関する消費者教育を一層浸透させていくためには、関係諸機関・団体間の連携が必須となろう。
「団体・有識者アンケート」でも、金融に関する消費者教育団体・機関の連携・相互協力の重要性を「たいへん重要だと思う」(50.9%)、「重要だと思う」(45.7%)とする回答者が多かった。
ニ.金融に関する消費者教育を体系的・効率的に行うための調査・分析の実施
当委員会では「家計の金融資産に関する世論調査」 (年1回実施、平成12年度までは「貯蓄と消費に関する世論調査」)において、預金保険制度についての認知度や自己責任についての受け止め方等について継続的に調査している。また、消費者教育支援センターが消費生活に関連する経済・法律の理解度を調査する「生活経済テスト」を実施している。しかしながら、金融に関する消費者教育を体系的・効率的に行うための理解度・ニーズ調査については、平成13年8月に当委員会が実施した「金融に関する消費者アンケート」以外は特段行われていない。