個票データを用いた研究成果
公的介護保険導入と老後不安感、予備的貯蓄
研究者:鈴木亘(東京学芸大学)、児玉直美(経済産業省)、小滝一彦(金融庁)
*カッコ内の所属は、研究成果完成当時
完成時期:平成16年12月
本稿は、介護保険導入の政策目標として第一に掲げられていた「介護に関する国民的不安感の解消」が達成されたのかという点について、ユニークな質問が存在する金融広報中央委員会「家計の金融資産に関する世論調査」の個票データを用いて検証を行った。具体的には、老後の不安感の推移や介護への予備的貯蓄の変化という観点から、定量的な評価を試みた。その結果、老後の不安感については介護保険導入前後で変化はみられず、貯蓄残高に至っては予備的貯蓄減少が顕著なはずである老年世代でかえって残高が増えるという意外な結果となった。また、貯蓄取り崩し額についても介護保険導入後で全年齢階層とも減少しているという結果になった。この期間で、年金改正や失業率増加、所得減少といった変化があることから、それらが介護保険導入による効果を相殺している可能性について調べたが、顕著な効果を見出すことは困難であった。また、介護目的から他の貯蓄目的へシフトした可能性についても調べたところ、介護に関連しているとみられる貯蓄目的の回答割合は減っているものの、それに代わって増えている貯蓄目的を明確に見出すこともできなかった。したがって、あくまで状況証拠からの推察であるが、老後の不安解消や予備的貯蓄減少という顕著な形で、介護保険導入の効果があったとは判断しがたい。