「おかねの作文コンクール」
第37回「おかねの作文」コンクール(中学生)(平成16年)
おかねを上手に使うって?
「お金の価値」
秀作・毎日中学生新聞賞
京都府 和束町立和束中学校 3年 細井 隆之
「4年ぶりにボーナスが出たよ」
そう言いながらゴルフ場に勤めている母がうれしそうに帰ってきた。
その手には「再建協力金」と書かれた封筒が握られていた。
「再建協力金」。初めて見る言葉だ。
母の会社は3月30日に会社更生手続きに入ったらしい。そして今は管財人という弁護士のもとで仕事をしているという。
「封筒の中身は5万円だけど、お母さんが今までにもらったボーナスの中で一番重みがある」と母が言った。
ボーナスとしては少ない金額なのになぜだろう。母に聞いてみた。
「ゴルフ場は会員が納める入会金と預託金をもとに営業しているの。預託金は10年経ってから退会したいと言えば返してもらえるものなんだけど、会社更生になったことで返すことができなくなったんだ。物を買った代金や、修繕費も債権と呼ばれるものになって簡単には支払うことができなくなったの。だから毎日のように債権者に謝り続けたから、このボーナスは自分へのごほうびだと思えるのよ」
「まったく支払いが出来ないの?」
「全体の5%くらいかな。しかも一年後」
「ふうん」
母は仕事の話をあまりしないほうだ。でも今日はよほどうれしかったのだろう。会社のことをぼくにぺらぺら話してくれた。
「じゃあ、会社更生法って何?」
「自分で調べてみるとよく分かると思うよ」
パソコンで調べてみると、『会社の経営・資金繰りが行き詰まった時、破産にせず、債権者・株主の利害を調整しながら事業を継続させて、下請けや融資銀行など関連各方面の損害を少なくすることをねらった法律』とあった。このとき初めて、母の会社の状況の厳しさがわかった。
そんなところに勤めていて不安はないのだろうか。
「不安はいっぱいあるよ。会社更生法の手続きが完了したら、新しい会社に譲渡されるんだけど、譲渡先にもよるけど解雇される可能性だってあるからね。明日のことはわからない状態かなあ。でも隆之、破産だったらどうなると思う」
破産とは文字通り会社がつぶれること。会社がつぶれたらどうなるのだろう。勤めている従業員は全員、仕事を失うことになる。当然給料も入ってこないからたちまち生活が行き詰まってしまう。
ぼくは今までほしいものがあると両親から買ってもらっていた。それが当たり前のことに思っていたが、お金がなくなると、ほしいものはもちろん、食べる物だって満足には買えないし、生きていくことが困難になるのだ。
両親が働いて得るお金は、生きていくために本当に大切なものだということがよくわかった。
母はこんなことも言っていた。
電話の向こうで泣きながらお金を返してと訴えていた人、夫を失って生活費にしようと思っていた年配の女性、自分の会社も資金繰りが厳しいので返済に充てようと思っていた人。みんな会員権を買った頃のような余裕がどこにもないと。
裕福な生活を送っている人はごく一部で、大部分の人たちは生活のために一生懸命働いてお金を得ているのだ。
父も母も一生懸命働いて給料をもらっている。そのお金でぼくたちは生活している。
今までほしいものがあるとねだって買ってもらっていたが、これからは、ほしいものがあっても本当に必要かどうかをよく考えようと思う。
生きていくために価値あるお金。価値ある使い方をしたい。
今日も両親が仕事に出て行った。その背中に向けてぼくは「がんばれ」と声をかけた。