金融教育フェスタ
金融教育フェスタ2019
先生のための金融教育セミナー
「進路指導とリンクさせる金融教育の在り方について
~家計ゲームを通して主体的な選択を行う姿勢を育てる~」
(中学校3年 社会〈公民的分野〉)
講 師
広島県熊野町立熊野東中学校
池田 優子 教諭
【進行・コメント】 教職員支援機構 大杉 昭英 次世代教育推進センター長
<実践発表>
この実践は前任校で3年生を担当していたときに行った実践です。前任校では、ほぼ100%の生徒が進学し、そのうち約3割が通いやすさなどの理由から地元の高校へ進学します。そのほかに県外の部活動の強豪校へ進学する生徒が毎年何名かいます。学校に通いやすいことや自分がやっている部活動が強いという理由で進路を選択することはもちろん悪いことではありません。ただ、自分の進路を選択するときに果たして自分の将来を考えた上での選択だろうかと懸念を抱くこともありました。
同時に、今の中学生は、金銭感覚が養われにくくなっているのではと感じています。以前、生徒から「利子って何?」と質問されたことが印象に残っています。また、生徒に「封書に切手を貼って送る場合の切手代はいくら?」と聞いたところ、知らない生徒が何人もいました。電子マネーやスマートフォンによる決済の普及により、子どもたちは複雑多様化するお金のあり方に向き合っている一方で、何にいくらお金がかかるのかを把握できていないという現状があります。お金についての知識を身に付け、どう使うかを判断し、学びを生かして人生を豊かにしていく力を子どもたちに身に付けさせる必要があると考えています。
このような課題に対しては、今日ご紹介する家計ゲームのように、選択・判断を取り入れ、生徒同士が対話を通して学んでいく授業が有効だと考えています。この授業は、中学校だけでなく、小学校でも比較的取り入れやすいと思います。この授業の利点は、自分と異なる価値観や解決方法に気づくことで多面的・多角的な考察ができる点と、教師主導ではなく、生徒同士が対話を通して学びあえる点です。
家計ゲームの特徴は三つあります。一つ目は、生徒が自分たちの生活の実態から情報を集め、情報を鵜呑みにするのではなくそれを基に自分で判断し、どのような保障が必要かを選ぶことができるようになっている点です。二つ目は、今後、経済の授業で学んでいく内容を組み込んだイベントカードを使用している点です。学校や生徒の実態に合わせて、先生方に自由にイベントカードを作成していただくことも可能です。三つ目は、ゲームで感じた事を進路指導と絡めて振り返ることができるワークシートを使用している点です。
ゲームを行う前に、各家庭で食費や通信費、光熱費などを聞いてくるように指導していますが、その時に気を付けていることがあります。それは、家庭によって価値観や環境が異なるため、設定した金額に違いがあるのが当たり前である、ということを前もって生徒に伝えるということです。
このゲームを通して、子どもたちは自立した生活にかかる費用を知り、貯蓄や保険の大切さに気づきます。高校進学は当たり前ではなく、だからこそ進学したら中学生の時以上に主体的な学習意欲が必要だということを、進路指導の時にはいつも伝えるようにしています。家計ゲームを通じてお金のやりくりを考慮しつつも、自分の夢は何なのか、何がやりたいのかを考えながら、主体的に自分の意思で進路選択ができる子どもを育てていきたいと考えています。
<ワークショップ>
ワークショップでは、グループに分かれて、収入が月25万円という設定で家計ゲームを体験しました。イベントカードを引いたり、サイコロを振ってボーナス額を決定する場面では大いに盛り上がり、最後に貯蓄額がいくらになったかをグループごとに計算しました。
池田先生から「これは優劣を決めるゲームではなく、限られた予算の中で自分なら何にお金を使うかを考えること、生活にはどれくらいお金がかかるのかを把握することが目的です。そして、ゲームを単に『楽しかった』で終わらせないために、振り返りの時間を十分に取ることが大切です」とお話がありました。
<コメント>
大杉昭英先生より、次のようなコメントがありました。
池田先生の実践は、収入額が固定されている条件下で、様々なリスクに対して子どもたちが合理的な支出を考える点、そしてその判断の結果責任も最後に数字として表れるという点がポイントだと思います。
授業でゲームを扱う場合には、どこまでリアルにするかという点が課題として常に付きまといます。思考実験的に抽象的な条件設定で行うことも、現実に限りなく近い設定にすることもあり得ます。今回の池田先生のゲームはその中間で、現実に近いけれども、そのうちのいくつかの現実を意図的に捨象しておられました。それぞれにねらいや有効性がありますので、先生方が実践される際には、この点を考えて選択していくことになると思います。
また、ゲーム中にイベントカードが登場しますが、これにはゲーム性を高める意味と、「人生ではいつ何が起こるかわからない」というリスクを体験させる意味があると思います。イベントカードのもつ意味を、教材をつくる側だけでなく子どもたちにも意識してもらい、その上で自分はどうリスクに対応するのか、自分の選択・判断の結果はどうであったかを考えてもらうと、勉強が非常に深まるのではないかと思います。
実践発表・ワークショップ2の模様
- 主催:金融広報中央委員会、福島県金融広報委員会
- 後援:文部科学省、金融庁、消費者庁、日本銀行、日本PTA全国協議会、福島県、福島市、福島県教育委員会、 福島市教育委員会、福島県小学校長会、福島県中学校長会、福島県高等学校長協会