金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-
(全面改訂版)
7.高等学校における金融教育
(1)考え方と進め方
<1>高等学校における金融教育の考え方と目標
高等学校では普通科、専門学科、総合学科において、様々な教科等で金融教育が展開される。例えば、公民「政治・経済」では金融教育の基盤となる経済の理論的な学習が行われている。そこでは「個人や社会を問わず最適な経済活動を行うためには希少な資源をいかに配分するかという選択の問題が基本的な問題として存在している」という理解、また「経済的な選択や意思決定においては・・・・効率性と公平性や公正さとの間の矛盾、対立を調整することが要請されている」ことの理解を踏まえ、経済にかかわる様々な問題を考察することになっている。その中で資金に対する需要と供給が金融市場の金利を変動させたり株式市場の動向などによって調整されたりすることを学習するのである。また、家庭科では金融にかかわる具体的な消費生活の諸問題についての学習が行われている。例えば、消費者ローンやクレジットなど金融にかかわる消費者問題などが扱われている。そこでは実際の事例を取り上げながら、賢い消費者としてどのような商品購入を行うのかについて考察するなどの学習が行われている。専門学科では、商業科でより専門的に金融についての学習が行われているし、総合学科においても自由選択科目の中で金融に関する内容を設けた科目を学ぶ学習が行われている。
さらに、教科以外では、特別活動において学校生活の中での金銭の使用、例えば文化祭の出し物やバザーなどの収支など金融教育を実践的に学んでいると考えることができるし、キャリア教育が展開される中で金融に関する学習が行われている。総合的な学習の時間においては、例えば、起業をテーマとした経済的な活動が行われるとすれば、教科で学んだことを実社会と結び付けて活用する場であると考えることができよう。
その他、高等学校では学校設定科目を設けることができるので、例えば、生徒の関心の高い現代社会の課題の中で金融問題を設定して研究する科目を設けたりすることも考えられよう。
このような生徒の進路・適性に対応した多様な教育を展開する高等学校の特性を踏まえ、小中学校で実施されてきた金融教育の成果の上に立って、高等学校としての金融教育の目標を設定していくことが大切である。その際、本プログラムの冒頭に挙げた「2.金融教育の目標と方法」に示された具体的な目標を分析し、例えば、「経済把握」「経済変動と経済政策」などの知識・理解面や、「自立した消費者」「金融トラブル・多重債務」などの技能面、また「生きる意欲と活力」「社会への感謝と貢献」などの態度面をバランスよく育てていくように設定していくことが必要である。
<2>金融教育をよりよく進めるために考えておくこと
高等学校では経済について理論的にしっかり学ぶこととともに、現実的な生活上の問題を取り上げて考察したり実践的な活動が行われたりしている。もちろん小中学校でもこのように理論的な学習と実践的な学習は行われているが、高等学校ではより専門的な学習になってくるため、現実との繋がりや他教科との関連が見えにくくなり、学習上の大きな課題と考えられる。その意味では、「政治・経済」における経済の理論的な学習と、家庭科をはじめ特別活動および総合的な学習の時間などで展開される具体的な生活上の問題や実践上の問題を考える学習をいかに関連させていくか、金融教育を進める上で留意が必要である。
そのため、教育課程全体を見通す金融教育の進め方を検討しなければならない。しかし、「政治・経済」や「家庭科」の開設時期はどの学校も同じだとは限らない。また、実践的な金融教育を展開しやすい行事的な活動を行う時期や、総合的な学習の時間で行われる活動内容も同じだとは限らない。ここにカリキュラム・マネージメントの必要が生まれてくる。金融教育を充実させるために各学校で教科、特別活動、総合的な学習の時間でどのような内容がいつ、どの時期に展開されるのか、ということを把握するとともに、各教科等の担当者と連携を図りながらどのような順序で学べばより効果的な学習が展開できるかコーディネートすることが必要となる。とりわけ高等学校においては教科・科目の配当学年も多様であるため、こうした点に留意して金融教育を進めていくことが大切となる。