あなたの資産を守る金融商品の保護
Ⅴ.預金者の保護
3.預金保険制度
(3) 預金保険制度におけるその他の機能
仮払金の支払い
保険金の支払い等にかなりの日数を要すると見込まれる場合に備えて、必要な請求手続きをすれば、お持ちの普通預金(総合口座の普通預金を含む)の残高について、1口座あたり60万円を限度に支払いを受けられる制度が用意されています。これは、預金保険制度による保護の一部をとりあえず先に行うという意味で、「仮払い」と呼ばれます。
破綻の発生後1週間以内に、預金保険機構で仮払いを行うべきかの判断がなされ、仮払いの実施が決定されれば、支払期間や支払場所などが公告されます。
なお、後日保険金の支払い等が正式に行われる際には、支払いを受けた仮払金の額を控除した金額が保険金として支払われます(仮払金を多く受けていた場合には預金保険機構に払い戻すこととなります)。
危機的な事態に対応するための例外的な措置
内閣総理大臣が、金融危機対応会議の議を経て、「国または当該金融機関が業務を行っている地域において信用秩序の維持にきわめて重大な支障が生じるおそれがある」と認める場合に限り、金融機関に対する直接の資本の増強(金融機関の体力を増強させる)、特別資金援助(預金等 の全額保護)、銀行等の特別危機管理(預金保険機構による全株式の取得)など、例外的に、預金者等に破綻に伴う負担を直接求めない措置が採られます。
決済を維持することの重要性
「決済なんてどうでもいい。保険金でも、引き継ぎでも、預金さえ無事ならどちらでもいいじゃないか」と思われる方も、いらっしゃるかもしれません。でも、想像してみてください。たとえば、公共料金の支払いが滞ったために、電気やガスが止められてしまったら、困ることになるでしょう。企業は、もっと大変です。企業は、原材料の仕入れ等の代金受け払いを、現金ではなく、手形や小切手、口座振替など金融機関を通じて決済するのが一般的です。代金の支払いができないと、企業は倒産の可能性すら出てきます。極端な話ですが、それは自分自身や自分の家族が勤めている会社かもしれないのです。
そこで、決済機能の安定性を確保するために、決済に用いられる利息のつかない預金(決済用預金)については、全額保護されることとなりました。また、為替取引や金融機関の自己宛小切手に係る取引など決済の途上にある取引に関し金融機関が負担する債務については、決済債務として全額保護され、金融機関が破綻した後でも、その決済を完了させることができることとなりました。
借り入れと預金の相殺(そうさい)
双方互いに債権(貸し)と債務(借り)があるとき、債権額と債務額を差し引きする(債権と債務を打ち消し合う)ことを“相殺”といいます。
預金者にとって、預金は金融機関に対する“債権”ですが、同じ金融機関からの借り入れ(住宅ローンなど)は“債務”にあたります。では、金融機関が破綻した場合、預金と借り入れの相殺はできるのでしょうか。
普通預金など満期のないものについては、顧客の側から相殺を申し出ることができます。一方、定期預金など満期があるものについては、満期が到来したときや、満期未到来でも預金規定において“預金者は、金融機関が破綻したとき、満期未到来でもその預金を借り入れ等の債務と相殺できる”旨が定められていれば、顧客の側から相殺を申し出ることができます(預金規定は個別の金融機関が独自に定めるものであり、定期預金規定における破綻時の相殺の扱いは、個別の金融機関によって異なる可能性があります)。なお、相殺を行う預金等につき預金保険機構に、預金等債権の買い取り(概算払)または保険金支払いの請求をし、預金保険機構が、当該預金等債権を相殺の前に取得したときは、当該預金等との相殺はできません。
預金の引き継ぎをできるだけ素早く行うために
破綻から預金が引き継がれるまでの時間的な空白ができるだけ短いほうが良いのは、当然のことです。たとえば、米国では、破綻の可能性が高い金融機関について、その資産と負債の引き継ぎ先を事前に探しておくなどの準備を進めておき、素早い対応を理想として破綻処理が行われているそうです。
別の金融機関が、破綻した金融機関の資産を買い取り、負債を引き継ぐことを、米国では“purchase and assumption(パーチェス・アンド・アサンプション)”、略してP&A(ピーアンドエー)と呼んでいます。日本においても、同様にP&Aを素早く行えるよう、事前準備等の制度的な仕組みが整えられています。
金融機関が合併した場合の取扱い
金融機関が合併を行ったり、営業(事業)のすべてを譲り受けた場合には、合併等の後1年間に限って、保護される預金等の範囲は、預金者1人あたり「1,000万円×合併等に関わった金融機関の数(例えば、2行合併の場合は、1,000万円×2=2,000万円)」とその利息等となります。
仮に過去1年間に何度も合併等を行っている場合には、最後の合併等の時点で、当該合併等に関わった金融機関の数でこの特例の計算をします。
なお、一つの金融機関が複数の金融機関に分割して、営業(事業)譲渡された場合には、この特例は適用されません。
この措置は、「金融機関等の組織再編成の促進に関する特別措置法」に基づき、当分の間の特例措置とされています。