金融教育フェスタ
金融教育フェスティバル2010
教員向けセミナー 実践報告<1>
講師 : 佃 和典 氏(岡山県立倉敷商業高等学校 商業科主任)
「各教科およびキャリア教育を踏まえた金融教育の取り組み~実践例~」
商業高校の特徴を生かして全教科で目標を立て実施
去年と今年、金融教育研究校の委嘱を受け、キャリア教育の一環として金融教育に取り組んでいます。本校は1912年に創立し、今年で99年目となります。商業科、国際経済科、情報処理科の3学科を持ち、男子307名、女子564名、合計871名の生徒数です。
委嘱を受け、各教科、学年団、部活動などから目標を出しててもらい、全体計画を立てました。重点目標の大きな柱は、「ルールや法律を守る態度と社会や自然環境等に感謝する精神を身につけ、社会人基礎力の向上を目指す」ことです。これに伴う次の小さな3つの柱を立てました。①物や金銭を大切にする態度を身につけ、主体的に生活設計できる能力を高める。②金銭に関わる様々なトラブルを身近な問題ととらえ、それを防ぐための知識・技能を習得し、よりよい社会生活が営める力を身につける。③金融・経済の現状や仕組みについて学び、将来の経済人として必要な能力を身につける。
総合的な学習の時間では、「課題を見つけ、学び・考え・主体的に判断する」、「自己の在り方・生き方を考える」、「知識・技能を学習や生活に生かす」を目標に掲げ、1時間目に担当教員が説明し、それを受けて2時間目に生徒が感想や自分の考えを書くというかたちで進めています。
1年生は8クラスあり、クラス単位で企業見学会をします。そこで聞いたり調べたりしたことをクラスでまとめて発表会を開き、情報共有することでお互いの理解を深めています。2年生は全員が3日間のインターンシップに参加します。訪問先の企業は全部で61社あり、それぞれ学んだことを個人やグループでまとめ、教員の前でプレゼンテーションします。このプレ発表会から選ばれた訪問先10社について、インターンシップ報告会で発表します。これには1年生も参加し、2年生の発表を聞いて翌年のインターンシップに生かします。3年生は企業演習ということで、週2時間を使って課題研究をします。
各教科の金融教育への取り組みということでは、まず商業科の先生にお願いしました。現代社会と家庭科は、それぞれの単元内で実施していただきました。その他、数学では金銭感覚を育む、理科では環境教育を通して取り組む、外国語では世界の現状に目を向けさせるなど、各教科で目標を立てて金融教育を実施しました。
11月には家庭総合、現代社会、ビジネス基礎と課題研究の「FP(ファイナンシャル・プランナー)」におけるライフプランの作成、「商業演習」における借金で苦しまないためにと題する講座などで公開授業を行いました。今後のキーワードとしては、「キャリア教育」、「スペシャリスト」、「地域貢献」、それから「多様な進路選択」といったところになるかと思います。今回は中間報告ということですが、具体的な取り組みは、3月2日の岡山県金融・金銭教育協議会で報告させていただきます。
教員向けセミナー 実践報告<2>
講師 : 藤本 勇二 氏(武庫川女子大学講師/実践時、徳島県阿波市立市場小学校教諭)
「自己資金で科学の祭典を開催しよう~働くことの意味を考える」
金融教育を通してしっかり生きていく子どもたちを教師として見守りたい
今日は、私が徳島県阿波市立市場小学校で教員をやっていた時の事例をお話しします。当時担任していた6年生は、物を大切にせず、お金の価値が分かっていなかったので、「これはまずいな」ということで、総合的学習の時間をたっぷり使って金融教育に取り組みました。
はじまりは、5年生の時の「楽しさ体験」でした。理科実験のイベントである「科学の祭典」に参加して、「6年生になったらやってみたいな」、「理科が好きになったよ」というあこがれを持った子どもたちが、6年生に上がってきました。そこで、「科学の祭典」を開くための経費3万円を皆で稼ぐ方法を子どもたちに考えさせました。
人道に外れず、小学校6年生の生活を続ける中で、人の情けにすがらず、の3条件を課した結果、「アルミ缶リサイクル省(しよう)」「古紙回収省」「バザー省」の3プロジェクトに取りかかることになりました。社会科で政治を学んでいたので、省の仕事になぞらえて大臣、副大臣、政務次官を置く役割分担をしました。3省から2人ずつ出向して財務省を作り、6年生の集会「国会」では、缶を集めるのに買うビニール袋の量を減らすために、缶をつぶす必要があるという議論をしました。稼いだお金を運用するのも預金利率の一番高い銀行に決めました。
実験の名人で雑誌「科学」編集長の湯本(博文)さんの出張授業を受け、名人はどんな質問にも答えてくれるという体験をさせたことで、子どもたちはお金を使うことが「自分事(じぶんごと)」になりました。私は、お金を使うことが「自分事」になるかどうかが金融教育で一番大事なことではないかと思います。
こうした取り組みで、目標3万円のところ5万円が手に入りました。残った2万円の使い道を考え、パソコン室に無かった時計を近隣で探して1,980円で購入しました。お世話になった方々をもてなす謝恩会開催、実験集の制作・配布も企画しました。下級生相手のブーメラン教室を開いたり、老人ホームを訪問して科学実験をしたりと、活動の幅が広がりました。翌年からはプルタブ、ペットボトル、牛乳パックの回収へと発展し、車椅子を2台老人ホームへ寄付しました。
金融教育を進める上で、教科で関わりのあるものは全部拾い、専門家、プロの力を借りるということを大事にしました。アルミ缶をつぶす6年生に憧れる下級生を見た先生が、「これは学校の環境委員会の仕事に位置付けたら」と考えるなど、子どもたちの姿を通して大人も変わりました。