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著名人・有識者が語る ~インタビュー~

今求められる品格とは

昭和女子大学理事長・学長 坂東 眞理子

昭和女子大学の理事長・学長であり、ベストセラー『女性の品格』の著者としても知られる坂東眞理子さん。
第一線で働きながら、2人のお子さんを育て上げた経験を持つ坂東さんに、ご自身や著書のこと、品格あるお金の使い方などについて、お話を伺いました。

緑も豊かな昭和女子大学のキャンパス

坂東 眞理子
(ばんどう・まりこ)

1946年富山県生まれ。東京大学卒業後、総理府入省。内閣広報室参事官、男女共同参画室長、埼玉県副知事等を経て、98年女性初の総領事(オーストラリア・ブリスベン)。2001年内閣府初代男女共同参画局長。04年昭和女子大学教授を経て、同大学副学長、同大学女性文化研究所長。07年4月より同大学学長。14年4月から同大学理事長・学長。

今は懐かしい仕事と子育てに奔走した日々

昭和女子大学の学長室。少し緊張して室内に足を踏み入れると、鮮やかなブルーのスーツを着た坂東さんがにこやかに迎え入れてくれた。「華やか」「輝かしい」などと称されることの多い経歴を持っておられるのに、そのことをまったく感じさせないやわらかな雰囲気。穏やかでやさしい口調も印象的だ。

坂東さんといえば、総理府(現内閣府)で長年、国の女性政策に携わり、その立案をリードしてきた人。その一方で、2児の母親として子育ての経験も持つ。

「結婚後も子どもがいない間は同僚の男性たちと遜色なく働けたけれど、子どもが生まれてからは本当に大変でした。特に上の子のときは、公立の保育所と、近所のお母さまやベビーシッター、そして私の母と、総動員態勢で何とか乗り切ったという感じでしたね」

当時はまだ育児休業制度などない時代。仕事と子育ての両立はさぞかし大変だったはずだが、それでも仕事を辞めようと考えたことはなかったと言う。それはなぜだろうか?

「家事があまり得意でなかったせいもあるけれど(笑)、自分自身のアイデンティティとして、仕事も家庭と同じぐらい重要だったからだと思います。20代、30代は職場ではまだ海の物とも山の物ともつかない、頑張らないといけない時期。一方で子どもたちも自分を必要としている。あのころは時間の余裕もなく、無我夢中でしたが、今思えば私が一番輝いていたときでした。それとは逆に、仕事に結構余裕が出てきている今は、うちの子どもたちにも『たまにはママに付き合ってあげなきゃね』なんて言われちゃう。世の中って、うまくいかないものです」

明るく笑うその表情から、子育てと仕事のどちらにも自分なりに全力を尽くしてきたという自負が伝わってくる。いくつものハードルを越えてきた坂東さんの、しなやかな強さを感じた一瞬だ。

品格シリーズに込められた想い

さて、ご存知の通り、坂東さんの著書『女性の品格』は2007年に大ブームを巻き起こし、これまでに300万部を超える売り上げを記録している。この本がこれほど大きな反響を呼んだ理由を、ご自身はどう分析されているのだろうか。

「『女性の品格』は私の34冊目の本ですが、これまで、こんなに大勢の人に読んでもらえたことはありませんでした。それが今回、たくさんの人に読んでいただけたのは、時代がそれを求めていたからだと思うんです。いくら豊かでお金がたくさんあっても、それだけではまずいのではないか。もっと精神的なものを磨きたいと思っている人が増えているからでしょう」

読者層を伺うと、圧倒的に女性が多いとのこと。本書の内容は男女にかかわらず、すべての社会人に共通するものだが、出版界の定説としてタイトルに『女性の…』とあると、男性はまず読まないのだそうだ。それでも、「多くの女性が読んでくれただけで十分うれしいし満足です」と坂東さん。

「私がこの本で伝えたかったのは、社会人として節度ある生活習慣やマナーを身に付けることはもちろん大事だけれど、何よりも、自分の考えをしっかり持った芯のある女性、人になってくださいということ。そのためには、家庭の中で家族のためだけを考えるのでなく、社会の中でどう生きるかという視点を持つことが大切だと思います」

そして、続いて出版された『親の品格』も、子育てに悩む世代を中心に大きな反響を呼んだ。

「今、親が子どもに与えすぎて、かえって子どもをダメにしているのではないかと思うような現象がいっぱいありますよね。モンスターペアレンツと呼ばれるような、自分の家族中心の親も増えています。しかし、日本の社会が持続する上でも、次の世代をしっかり育てることは重要なこと。私も親として至らないところは多いのですが、親はこういうことを考えて子どもを育ててほしいという願いを込めて書きました」

本書では、お父さんへのダイレクトなメッセージも盛り込まれている。

「近年、家庭の教育力の低下が指摘されていますが、私が思うのは、家庭の役割をみんなが少しずつ手抜きしているんじゃないかということ。特にお父さん方は『俺は子どもの教育に口出ししない。家内にお任せだよ』なんて言っていちゃダメ。子育ては父親にとっても人生の大事な部分ですよね。長時間労働で家族と触れ合う時間が取れないということもあるのでしょうが、果たしてそれだけでしょうか。仕事上の付き合いを言い訳にしているところはないか、ちょっと振り返ってみてほしいと思います」

親から子に伝えるお金との付き合い方

今後は「品格あるお金の使い方」を考えることも大事だと坂東さんは言う。そして、現代の日本にある、お金儲けのためなら何をしてもいい、とにかくたくさん稼いだ人が成功者なのだと考える風潮を払拭したいとも。

「近年、耐震構造偽装や賞味期限の付け替えなど、企業の不祥事が相次いで起きていますが、これらの根底には、企業が儲けばかり追求してきたことがあると思います。もちろん、企業は利益を上げないと存続できないわけですが、そのためには違法でさえなければどんな手段も許されるというのは、もう通用しない考え方ではないでしょうか。また一方、客はお金を払うのだから何を要求してもいいのだという消費者万能主義も強すぎる。私は、日本人が品格をなくしたのは、こうしたお金を払っている者が万能でどんな要求もできるという考え方が広まったからだと思っています。確かに、生産者や販売者は消費者の方を向いて仕事をしなければいけませんが、同時に消費者にも、生産者やサービスをしてくれた人への敬意や感謝の気持ちが必要であると思います」

消費者万能主義が強くなった理由として坂東さんが挙げたのは、大量生産・大量消費という生活スタイル。一つ一つの物を大切に愛しみながら使うことがなくなったために、作り手への感謝も忘れがちになってしまった、と。

「でも、そういう拡大の時代はもう終わりです。これからは深化の時代。物やサービス、人との関係をもう一度見つめ直さなければいけないと思います」

2007年の学長就任後、あいさつやマナーの大切さを学生たちにも伝え続けてきた坂東さん。
「最近、きちんとあいさつをする学生が増えてきて、メッセージが届いたと思っているところです」

最後に、金融教育における家庭や親の果たすべき役割についてご意見を伺った。

「日本の親は、子どもにお金のことは聞かせたくないと思っている人が多いですが、本当はとても大切なこと。収入の多い少ないではなく、その収入を得るために自分はきちんと責任のある仕事をしているんだと教えれば、お金を大切に使わなきゃという意識が芽生えるはずです。今まで日本人は、お金を極端にありがたがったり、極端に卑しんだり、お金との距離の保ち方が上手じゃなかった面がありますが、これからは、そうしたお金との付き合い方を、ぜひ親から教えてほしい。また、その際には、節約することだけでなく、上手に使うことも教えてあげられるといいですね。お金はあくまでもいい人生を送るための手段であり、それが目的でないことも伝えてほしいと思います」

本インタビューは、金融広報中央委員会発行の広報誌「くらし塾 きんゆう塾」Vol.5 2008年夏号から転載しています。なお、プロフィールは2014年9月時点のものです。


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