金融教育フェスタ
金融教育フェスティバル2011
教員向けセミナー 高等学校分科会<1>
講師 : 高桑 宏典 氏(埼玉県立大宮商業高等学校 教諭)
「高校生が取り組む金融教育」
実践報告
金融教育は幅広いものです。経済教育があり、キャリア教育があり、さらに消費者教育、道徳教育、法教育まで含まれてきます。ではなぜこうした金融教育が叫ばれてきたかというと、カード・携帯電話・インターネットなどのさまざまな犯罪から身を守るという自己防衛的な側面と、刻一刻と変わっていく世の中の経済状況に対応する力を身につけさせるという必要が生まれてきたからだと思います。科目横断的な幅の広い金融教育は、その性格ゆえ小学・中学・高校等、対象によって教育の中身を変えていく必要があります。しかし時間的にも予算的にも限られている中で、どこの部分に比重を置き、どのような教育を行っていくのかが課題です。そうした壁のひとつに、金融教育の必要性を認めていながらも継続性がもてないという学校の声もあります。
わが校は簿記や情報処理、商業経済などの学科を有し、金融教育に取り組みやすい素地があるので、3年生を中心に総合学習や課題研究などが組まれています。広い視野と広い視点で独自の専門性を養うことを大きな目標とし、(1)生徒の健全な金銭感覚を養うこと、(2)自らの目標や自立に向けた生活設計を立てること、(3)金融経済に関する基礎知識を身につけること、(4)消費者としての契約の基本、消費者トラブルの予防に関する基礎知識を身につけることなどを重視し、指導を行っています。また外部からの講師を招いて講演会を開くことや、店舗経営や商品開発などの課外授業も活発です。さらに金融教育に賛同してくださる先生や校長先生の協力を得て、小学校・中学校での金融教室も開催しています。小学校の児童の質問には、ハッとさせられることもあり、かえってこちらが勉強になります。
ワークショップ
「中学生のための金融教室」というテーマの金融教育の授業の中で、高校生が中学生のためにエクセルで作成したライフプランシートを、参加者の皆さんにも実際のパソコンで操作しながら、ライフプランニングを体験して頂きました。選択肢をプルダウンメニューで選べるようにした他、ゲーム的要素の「人生サイコロ」をマクロで作成するなど、中学生がわかりやすく楽しみながらできるように高校生が考えた工夫も、参加者の皆さんに伝わったようでした。
教員向けセミナー 高等学校分科会<2>
講師 : 高橋 靖子 氏(東京都立忍岡高等学校 主幹教諭)
「ライフプランを立ててみよう-自立した社会人になるために-」
実践報告
家庭科では、ひとりひとりがよりよく生きるための知識と実践力を身につけさせるという大目標があります。それに沿った4つのカリキュラムをご紹介します。
[働いて収入を得る]
まず、さまざまな職業形態・雇用形態があることを理解させます。正社員とアルバイトの労働条件や福利厚生の違いなどを比較しながら、フリーターの現状と課題を考えていきます。特に収入については、年金収入も含め生涯収入を計算させ、比較させます。そうした計算を通じて、自分の将来像を考えさせるのが目的です。
[家計の管理]
一人暮らしと家庭を持った場合の家計管理の練習を行います。専業主婦や夫婦共働きなどの条件を設定し、手取り収入だけでやりくりをさせます。貯蓄や住居費用、電気・ガス・水道代などは自分の家の金額を参考にして見積もらせます。この学習を通じて、暮らしにはさまざまな費用がかかることを気づかせます。
[長期の資金管理]
借金をしてマイホームを購入して生活する場合の資金計画を作成します。長期的な収支の見通しを立て、慎重な生活設計が必要であることに気づかせます。準備しなければならない資金や必要経費、用意しなければならない自己資金、毎月のローンはいくらぐらいかなど、蓄えることや返済の目処などの大切さを実感させます。同時に夫婦円満でいることが、家族の協力につながることも学びます。
[ライフコースの設計]
自分の人生の設計図、ライフプランを考えさせます。どんな仕事に就くか、何歳まで働くか、結婚するのかしないのか、子どもを持つかどうか、家をどうするか。それから老後の生活をどうするか、今の段階の理想を考えさせていきます。ライフプランに従い経済設計をさせ、実現可能かどうか検証をさせていきます。
ワークショップ
高橋先生が家庭科の授業で使ったライフプランニングシートと統計表を使いながら、いろいろなパターンでのライフプランをグループごとに作成し、どのような結果が出たかを発表し合いました。「配偶者の所得はなし、70歳定年、子ども3人などの前提で試算したら、マイナスになってしまったが、配偶者にも働いてもらう前提に変更したら、財産を少し残せるくらいの試算になった」、「少子化の中で、子どもをたくさん欲しいと思ったとしても、配偶者も働けなければ経済的に厳しい。それが少子化に歯止めがかからない原因の一つではないかと思った」などの意見や感想が聞かれました。
教員向けセミナー 高等学校分科会 総括
講師 : 望月 昌代 氏(文部科学省初等中等教育局 教科調査官)
高桑先生から、高校生という発達段階を踏まえた指導が必要であるというお話がありました。携帯電話などの普及により、高校生は、中学生とは比較にならないほど、人間関係や消費行動が広がり、大人の生活の領域に近づいています。電子マネーという目に見えないお金もあり、欲しいブランドを手に入れるためには、親のクレジットカードを無断で使用してしまうケースもあると聞きます。また、高校生が、加害者になる可能性もないとはいえない状況です。生活指導においても、お金をテーマにした金融教育が必要といわれる所以でもあります。新しい学習指導要領では、両先生の取り組まれている長期的な経済設計が今まで以上に重視されています。教育方法としては、講義型の授業ではなく、生徒に考えさせたり、表現させたり、他人の意見に耳を傾ける場を設定することが重要だと思います。本日のいろいろな貴重な情報を学校の授業の中で活用し、今後も金融教育がますます充実するよう尽力いただきたいと存じます。
プロフィール
昭和54年4月
東京都立高等学校教諭
平成10年4月
東京都教育庁指導部高等学校教育指導課指導主事
平成15年4月
東京都教職員研修センター現職研修課指導主事
平成16年4月
国立教育政策研究所教育課程研究センター 研究開発部
教育課程調査官
(併任)文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官
(併任)文部科学省初等中等教育局参事官付教科調査官
平成21年4月
(併任)文部科学省初等中等教育局児童生徒課産業教育振興室教科調査官