金融教育フェスタ
金融教育フェスティバル2010
暮らしに役立つ講演会
講師 : 蟹瀬 誠一 氏 (国際ジャーナリスト、明治大学国際日本学部長)
「高齢化社会を楽しむ4つの資産」
直観力を研ぎ澄まし、10年先を見すえて今を生きる
アメリカのマサチューセッツ工科大学に、私が尊敬する経済学者のレスター・サロー先生がいらっしゃいます。日本でもベストセラーになった「ゼロサム社会」という本を出しているのでご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、この先生に会った時に「資本主義を動かす原動力は3つしかない」と教えられました。その1つは、英語で言うとgreedといいますが、もっといいものを食べたい、もっといい生活をしたいという際限の無い「欲」です。それから、何かいい事があるだろうという「楽観主義」、optimismですね。そして一番売れている物を買いたがる「群集心理」、英語ではcrowdmentalityと言います。この3つは、経済に関してだけではなく、私たちがお金と付き合う時も、人生を生きていく上でも非常に役に立つ「物差し」になります。欲に絡み過ぎていないか、楽観的になり過ぎていないか、群集心理に流されていないか――私もこの物差しを、割と意識しながら生活しています。
アメリカ・カリフォルニア大バークレー校で経済学を研究しているフィリップ・テトロック先生が、経済学者や経済評論家、アナリストなどの経済専門家が立てた8万件の経済予測が的中した確率を7年間にわたって調べたところ、素人の予測と当たる確率は同じだったのです。私が日常心がけているのは、本に書いてある事は3分の1だけ、人の話は半分、自分の直観は100%信じるということです。難しい現代において情報を得ることは大事だけれども、得る量を整理し、直観力を研ぎ澄まして自分の判断を大事にすべきだと思います。
世の中の幸せの8、9割はお金で買えるけれど、残りは買えません。これは金持ちも貧乏人も関係ありません。私は4つの資産を意識する必要があると思っています。①年金や生命保険など未入手の「見えない資産」、②預貯金、株などの「金融資産」、③所得ゼロでも雨露しのげる「家」と、これが大事なのですが、④健康や、いい音楽を聴いたり、いい旅行をするなど人生を豊かにするのが「個人資産」です。
もう1つは、10年ごとの世代の区切りをぜひ意識して頂きたいと思っています。20代は思い切ってやりたい通りにやり、美しく生きるという意識を持つ。30代は歯を食いしばって生きるための強さを見せる。40代は賢い選択をする。50代は豊かに生きて無形の財産を貯めていく。60代からは健康を意識していきたい。
自分はどれほどのお金があれば幸せと感じられるのかの目測を立て、人生を大まかに組み立てる「人生簿」を作るのが、お金との付き合い方では大事です。私が尊敬する文化人類学者のマーガレット・ミードさんが「The future is now」という名言を残しています。「未来とは今のことである」……、皆さんが今やっていることの結果が、皆さんの未来になる。今何をやっているか、それが皆さんの10年後を決めることになる。というふうに考えると、今何をやればいいのかを一生懸命考えることができる気がします。
プロフィール
石川県出身。大学卒業後、米国AP通信社記者、フランスAFP通信社記者・写真部次長を歴任。日本の政治、経済、社会、文化にわたる幅広い問題を海外に伝える。また、ロサンゼルスオリンピック、ソウルアジア大会の取材も担当。1988年「TIME」誌東京特派員として帰国。1991年からTBS「報道特集」キャスターとして日本のテレビ報道界に転身。その後もテレビ、ラジオのキャスター・レギュラーコメンテーターを多数務める。2004年から明治大学文学部教授、2008年に同大学国際日本学部長に就任。
「蟹瀬誠一の日本経済の論点」など著書多数。