金融教育公開授業
2021年度 金融教育公開授業
香川県金融広報委員会
香川県立高松高等学校
金融広報中央委員会
香川の実施報告
「金融教育研究発表 in 香川(高松高等学校)」(10月22日開催)
高松高等学校は、明治26(1893)年に開校し、もうすぐ130周年を迎える伝統校で、これまでに数多くの著名人を輩出し、5万4千余名の卒業生は、広く各界で活躍しています。「独立自主」の精神の下、生徒一人ひとりの自主性を尊重し、個性や可能性を伸ばす教育を実践しています。
金融教育研究校としての活動も、生徒たちの「自ら学び行動する力」を引き出すきっかけとなることを願い、取り組みました。
2021年10月22日に実施した「公民部会研究会」(参加者:県内高等学校公民科教諭27名)において発表した委嘱期間中の取り組みを紹介します。
1.研究内容について
金融教育研究校の委嘱を受けた2019年度に、世界中がコロナ禍に直面したほか、南海トラフ地震への備えの必要性が日に日に高まってきていることなどを背景に、「コロナ禍の今だからこそ学べる何かがあるはず!」と思い、「不測の事態に備えるための金融教育とは何か」について、生徒と一緒に考えることにしました。
2.生徒の現状
実践教育に先立ち、生徒の現状を把握するためにアンケートを試みたところ、3年生の方が、1年生よりも切実に経済・金融教育の必要性を感じているほか、より具体的なことを知りたいと思っていることがわかりました。
<Q1 小・中・高校と学校で経済・金融について学ぶ必要はあると思うか>
【1年生】 はい:83% わからない:17%
【3年生】 はい:全員
<Q2 不測の事態に備えて、経済や金融の分野に関して、高校生の時に知っておきたい、あるいは教えてもらいたいことは何か>
【1年生】
- 投資や株、金融商品について(リスク、効率よく資産を増やす方法)
- コロナ収束後、経済が回復するのにどれぐらいの時間がかかるのか
- 日本経済や世界経済の変化が私たちの生活に与える影響と私たちがするべきこと
- ロックダウンをした時の経済への影響
- 過去、経済が停滞したときの回復方法
- 仮想通貨について
- 国家の財政状況
【3年生】
- 国や地方公共団体からの保障制度
- 情勢が不安定でも影響を受けづらい企業や職種について
- 大学進学後(成人後)のお金のやりくりについて(資産の管理方法、契約を結ぶ際の注意点、クレジットカードや電子マネーについて)
- 一人暮らしでアルバイトできなくなった時、どうすればいいか
- 奨学金の返済について
- どのような保険に入ればいいのか
- 雇用に関する法律
3.実践教育(1年生、公民「現代社会」)
イソップ物語「アリとキリギリス」を題材とした考察
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、世界的に経済が停滞し、生徒の身近な関心事(大学生活における生活困窮、就職など将来に対する不安)にも影響を与えていました。
これを踏まえて、今後も起こるであろう不測の事態に備えて何を考えておくべきか、ミクロとマクロの視点から、高校生に必要な金融教育とは何かについて学ぶために、コロナ禍における現代版「アリとキリギリス」の幸せな結末について、生徒と一緒に考えることにしました。
<生徒たちの考えた結末>
- アリは自分たちに必要な食料の量をしっかり把握し、残った部分をキリギリスに分け与える(買占めや食品ロスがなくなる)。
- キリギリスは、演奏風景を流して動画共有サイトでお金を得て(キリギリスらしさを極めて活路を見出し)、税をたくさん払い、政府がこの税をうまく使う。
- アリはキリギリスに食利(金利)をとって食べ物を貸す。
- いろいろな考え方を持っている生き物が集まって話し合い、一部のものだけに負担がかからないようなルールを決め、新たな問題が出てきたときには、またみんなで話し合って解決していく。
生徒たちには、不測の事態が起こったときに「命」か「経済」かという二項対立的な捉え方をするのではなく、問題となる観点について、どのようにバランスをとっていくとみんなが幸せに過ごせる社会を形成していくことができるか、個々の価値観、視点で考察させたいと考えました。生徒たちは、級友たちと話し合うことによって様々なことに気づき、最後には、「アリとキリギリスはお互いの欠点をカバーし合い、その他の生き物も巻き込んで、対話によってよりよい社会を形成しようというwin-winの状態をよしとする」との理想的な結果にたどり着くことができました。
お金で買えないものの価値についての考察
「もし、時間をお金で買えるとしたら、いくらで買いたいか」
まず、「テスト前の1時間、テスト後の1時間をお金で買えるとしたら、いくら払ってもいいか、それは置かれている状況によって変わるのか」について考えさせました。さらには、将来仕事に就いた時、「時間を労働に変えて売る」ということの意味を理解させたいと考えました。
【テスト前の1時間】平均2,394円 【テスト後の1時間】平均1,544円
【テスト前の時間を買わない】13.5% 【テスト後の時間を買わない】29.7%
テスト前の金額を高く設定する生徒が多かったですが、「今たくさんのお金を支払うと、その後、支払ったお金より大きな見返りが得られるかも知れないので、お金は惜しまない」という考え方をする生徒もいました(投資の観点に通じる発想か)。
最低労働賃金の現在の全国平均(930円)に比べて、生徒の1時間に対する価値は高いなど、興味深い考察結果が得られました。お金で買えないものの価値については、今後の授業の中でもしっかり考えさせていきたいと思っています。
4.おわりに
経済・金融教育は、まさしく、人間としてのあり方生き方を具体的に学ばせることができる教育と考えています。また、金融教育は、国の金融政策等のマクロの視点と自分たちの身近な日々の経済活動であるミクロの視点の両方の教育が必要で、生徒たちには、マクロとミクロの世界を別々に考えるのではなく、うまく結びつけて考え、両者の間を行ったり来たりできる思考回路を持ってほしいと考えています。
金融実践教育を通して、高校生にとって難しいイメージのある経済・金融を身近にとらえることができ、楽しく学ぶことができたと思います。自分で考える力を持っている生徒たちなので、今後もこの学びを大いに生かして、深く考え、行動してくれることを願います。