ディスクロージャー誌の見方・生命保険会社編
5.生命保険会社特有の項目があるけど
ディスクロージャー誌を読む際のポイントを前の項で説明しましたが、その中には一般事業会社には出てこない生命保険会社特有の指標があります。次にこれらの指標についてご説明します。
(1)基礎利益
「基礎利益」とは、収納した保険料や運用収益から保険金・年金・給付金等を支払ったり、将来の支払いに備えるために責任準備金を積み立てて運用するという保険本業からの収益力を示す指標の一つで、一般事業会社の営業利益や、銀行の業務純益に近いものです。これに有価証券売却益などの「キャピタル損益」と「臨時損益」を加えたものが「経常利益」となります。
基礎利益は、損益計算書とは別に項目を設け平成12年度決算から開示されているもので、超低金利によって生じている運用収益の不足分、いわゆる「逆ざや」を埋め合わせた後の数値ですので、これが十分確保されていれば、逆ざやが生じていたとしても、それを上回る利益を確保していることになります。
基礎利益 =経常利益-キャピタル損益-臨時損益
・キャピタル損益=
-)キャピタル費用
|
・臨時損益=
-)臨時費用
|
(2)ソルベンシー・マージン比率
ソルベンシー・マージン比率とは、例えば、大災害や株の大暴落など、通常の予測を超えて発生するリスクに備えて、保険会社がどの程度の支払余力(ソルベンシー・マージン)を有しているかを判断するための行政監督上の指標の一つで、生命保険各社は、平成9年度決算からこの数値を公表しています。算出式は次のとおりとなっています。
また、平成13年度決算からはすべての生命保険会社がソルベンシー・マージン比率の数値に加え、その算出根拠となる分子・分母の内訳を開示しています。
この比率が200%を下回った場合には、監督当局によって早期に経営の健全性の回復を図るための措置(早期是正措置)がとられます。逆に言えば、200%以上であれば、健全性についての一つの基準を満たしていることを示しています。
・ソルベンシー・マージン総額[=下記の合計額]
資本金又は基金等の額(※1)、価格変動準備金、危険準備金、一般貸倒引当金、その他有価証券の評価差額×90%(※2)、土地の含み損益×85%(※2)、持込資本金等(外国生命保険会社のみ)、負債性資本調達手段等、控除項目、その他
(※1)相互会社は「基金等」、株式会社は「資本金等」、外国生命保険会社は「供託金等」
(※2)マイナスの場合100%
・リスクの合計額
保険リスク、予定利率リスク、資産運用リスク、経営管理リスクなど通常予想できる範囲を超える諸リスクを数値化して算出します。
保険リスク相当額(R1)…
大災害の発生などにより、保険金支払いが急増するリスク相当額
予定利率リスク相当額(R2)…
運用環境の悪化により、資産運用利回りが予定利率を下回るリスク相当額
資産運用リスク相当額(R3)…
株価暴落・為替相場の激変などにより資産価値が大幅に下落するリスク、および貸付先企業の倒産などにより貸倒れが急増するリスク相当額
経営管理リスク相当額(R4)…
業務の運営上通常の予想を超えて発生し得るリスク相当額
最低保証リスク相当額(R7)…
変額保険、変額年金保険の保険金等の最低保証に関するリスク相当額
平成23年度決算からは算出基準が厳格化され、保険会社各社のソルベンシー・マージン比率については、各社の状況によりばらつきはあるものの、全般的にみては、相当程度の減少が見込まれています。ただし、今回の見直しはあくまでも基準の変更であり、保険会社の財務内容の実態が悪化したわけではありません。