金融教育フェスタ
金融教育フェスタ2020
基調講演
「新学習指導要領の下での金融教育」
- 講師
- 早稲田大学 非常勤講師
- 大杉 昭英氏
今日は改めて学習指導要領の精神について話をしたいと思います。学習指導要領の作成プロセスは、文部科学大臣から中央教育審議会に対し、これからの社会で生きる子どもたちのために学校で行われる教育をどうすればよいかという「問い」が諮問という形で出され、審議会が議論を経て改善の基本方針を示し、それを授業で実現するために学習指導要領という「答え」が作成されるということになります。学習指導要領の精神を理解するには、この「問い」と「答え」の両方を見ておく必要があります。
「問い」は、ある事柄に関する知識の伝達だけに偏らず、学ぶことと社会とのつながりをより意識した教育をどうつくるか、実社会や実生活の中で知識を活用しながら、自ら課題を発見し、その解決に向けて主体的・協働的に探求し、解決方法を見いだしながら、その成果を表現し、更に実践に生かしていけるようにするにはどうしたらいいのかというものです。つまり、これが解決すべき教育課題として問われたのです。
そして、その「答え」が、資質・能力を「主体的・対話的で深い学び」を通して育成するということです。周知のように資質・能力は、①何を理解しているか、何ができるか(生きて働く「知識・技能」の獲得)、②理解していること・できることをどう使うか(「思考力・判断力・表現力等」の育成)、③どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(「学びに向かう力・人間性等」の涵養)という3つの柱で整理されています。また、この資質・能力を育成するためには、見方・考え方を働かせ、質の高い知識を用いて、より良い解決策を生み出す深い学びを実現させることが、学習指導上のポイントとなります。とりわけ、質の高い知識としての「概念」に着目する必要があると考えます。
こうした新しい学習指導要領の精神の下で実社会・生活と関わりの深い金融教育を展開していくにあたり、個別の分野に関連付けて活用していただきたい重要な概念として、「希少性」と「選択」があります。さらに「選択」をするために諦めたものの価値、すなわち「機会費用」を考える必要があります。自分にとって重要な選択を行う際に、他の人にとっての機会費用も考えてみるという視点をぜひ意識していただきたいと思います。自分にとって善いことは、みんなにとっても善い事かという視点です。
金融教育は、自分の人生を豊かにするための教育ですが、金融教育全体を捉えるにあたっては、他の人にとって、また社会全体にとってもより良くなっていくことへの意識、つまり意思決定の合理性と公正性、持続可能な社会の形成を意識していただきながら、各教科で充実した金融教育を展開していただきたいと思っています。
講師プロフィール
公立学校教員、広島県教育委員会指導主事、文部省初等中等教育局教科調査官(社会· 公民)、同視学官、岐阜大学教授、国立教育政策研究所初等中等教育研究部長、教職員支援機構次世代教育推進センター長を経て、 2020年より現職。金融広報中央委員会「金融教育プログラム検討委員会」委員、 「学校における金融教育推進のための懇談会」座長、「先生のための金融教育セミナー」講師多数。