金融教育フェスタ
金融教育フェスティバル2010
教員向けセミナー 実践報告<1>
講師 : 山﨑 二朗 氏(千葉市教育委員会企画課)
「『お金』にかわるもの」
中学生で「お金」について学ぶことの必要性を広く理解してもらうために
平成19年に千葉市で開催された「全国中学校社会科研究大会」で、クレジットカードを教材として連続5時間の授業を行いました。今日は、その実践を報告します。
まず、クレジットカードを教材に選んだのは次のような理由からです。
(1)国民生活で幅広く使われていて身近にあるが、よく理解できていない。(2)クレジットカードを学習することで、契約の意味や信用経済など「現実の経済活動」を知ることができ、クレジットカードの使用が消費拡大、経済の活性化につながることに触れることができる。(3)クレジットカードから「お金に絡むリスク」を学習できる。(4)他教科(家庭科や数学)や総合的な学習の時間、学級活動との連携が可能で、体験的な活動の導入や、専門的な知識を持ったゲストティーチャーを招いていつもと違う授業ができる、といった点からです。実社会で生きていく上での“予習”になるとの思いもありました。
第1時は、クレジットカードとはどんな存在か、またその広がりはどのくらいあるかを学びました。第2時では、クレジットカードの機能や利用の仕組みを調べ、CAT(信用照会端末)を使った体験活動もしました。第3時は利用者、加盟店、カード会社のそれぞれの利点や問題点に触れました。そして第4時、5時では、カードと上手に関わるためにはどうしたらよいかということを理解するため、信用や契約の重要性、所有者・利用者としての心得や留意事項を盛り込んだ「アドバイスカード」を作ることを学習のゴールにしました。クレジットカードを理解し、生徒自らがクレジットカードの機能を発信する作業を組むのが狙いでした。そこでは、内容に誤りはないか、具体的であるか、表現は適切か、の3点をアドバイスカード作りのポイントに挙げました。
実際の授業の進め方としては、1つには自作の授業プリントを使いました。それから「DVDで学ぶ!クレジットカード」というタイトルのDVDを見せました。もう1つがCATの実物を借りてきて、売る側と買う側の体験をしました。また、千葉県金融広報委員会と日本クレジット産業協会(現・日本クレジット協会)からお1人ずつ講師を招き、アドバイスを頂きました。
課題としては、学校現場で5時間の授業を当てることはなかなか難しいため、他教科との連携を模索していく必要があるだろうという点があります。それから、お金に関連した学習を中学生でしっかり身につけておくことが大事だという認識を広げることも大変重要です。そのためには、各教科の先生方にミニ研修などでアピールする、あるいは、学校便りを通じて保護者の理解を深めていくなど、地道にこうした認識を広げていくことが必要かなと思っています。
教員向けセミナー 実践報告<2>
講師 : 原口 みどり 氏(発表者:千葉県立四街道高等学校 家庭科教諭)
白谷 秀一 氏(千葉県立四街道高等学校 社会科教諭)
「普通高校における金融教育の取り組み~社会科と家庭科の視点から」
ライフサイクルを考えることから身近になった金融教育
各学年7クラスの全21クラス、生徒数約840人の普通科高校での金融教育について報告します。
最初に、社会科と家庭科、そして美術の教員が集まり、それまで不十分であった「生き方と金融の関係」の取り組みについて、改善策を検討しました。そこで、従来行っていた家庭科の生活設計に経済的視点を加え、生きる力に結びつけることを目標としました。
具体的には、(1)生活には多額のお金が必要であることを理解させる、(2)生涯の生活資金が平均生涯賃金とほぼ同じになることから、労働の重要性を認識させる、(3)そのために、自分のライフサイクル表を作成し、他の生徒との比較検討を通して、ひとりひとりにさまざまなことに気づかせる、そして最終的には、(4)生涯設計をし、人生の目標を立て、優先順位を付けることの大切さを認識させる、と定めました。
今年度は4回連続で行い、初回は金融広報中央委員会作成の『これであなたもひとり立ち』の「ワーク2 私の命を育んだお金はいくら? ゆりかごから18年」とオリジナル教材の「私の将来設計」を使用しました。生まれてから高校を卒業するまでの18年間で、だいたい2,000万円のお金がかかることへの驚きと、そのことに関して親への感謝の気持ちを確認した生徒が多くいました。2回目はライフサイクル表の作成です。これは、生徒のイラストを印刷した台紙に、自分の将来を考えながらシールを貼っていくもので、作成意欲を高めるためにさまざまな工夫を凝らしたオリジナル教材です。その甲斐あって、殆どの生徒が熱心に取り組んでいました。3回目は作成したライフサイクル表の発表会です。生徒は友達の作品と比較することで、自分の考えが及んでいないところに気づき、「人生はいろいろ」、「生きるとは?」など多くのことを学びました。そして、最後の4回目に、まとめとして「いちのせかつみ先生」に来校していただき、「知らんとアカン お金のトラブル110番」と題して講演していただきました。
このように、まず自分のライフサイクル表を作成してみる、すると夢と現実との差や、進路面に関する経費などさまざまな面にもお金がかかっていることがわかり、金融教育が身近になってきます。とりわけ、普通高校のすべてのクラスで金融教育を実施するとなると、どう体制を作るかが重要となります。金融教育を3年間で位置づけ、成長段階に応じた学年毎の目標を明らかにすることが大事だと、今回の取り組みを通して感じました。それによって、学年全体での取り組みとなり、進路指導部をはじめとする各部や各教科の協力も得やすくなります。最後に、生徒のアンケートをみると、この学習から自分の生き方や価値観について考えたり、お金や将来をきちんととらえようという生徒が多くいたことが分かり、やってよかったというのが今の正直な感想です。