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著名人・有識者が語る ~インタビュー、講演、寄稿~

五感で学ぶ数学

数学者、東海大学教育開発研究所所長 秋山 仁

長髪にバンダナ巻きというスタイル。
難しい数学の理論を分かりやすく解説してくれることでもおなじみの秋山仁さん。
「学校の算数、数学の成績は決していい方じゃなかった」と言う秋山さんに、ご自身が考える数学の魅力や子どもたちに学ぶことの面白さを伝える工夫などについてお話を伺いました。

秋山さんの研究室前に展示してある教材。ルーローの三角形(丸みを帯びたおにぎり形の三角形)の特性を応用したロータリーエンジンの模型(右)と、マンホールの蓋の模型(下)

秋山 仁
(あきやま・じん)

1946年東京都生まれ。上智大学大学院数学科を修了後、ミシガン大学客員研究員、米国AT&Tベル研究所科学コンサルタント(非常勤)、東京理科大学教授、文部科学省教育課程審議会委員などを経て、現在は、東海大学教育開発研究所所長、(財)平成基礎科学財団理事、(社)全国幼児教育研究協会理事などを務める。

数学の定理は永遠の真実

数学者になる人は、算数や数学の勉強で苦労したことなどないのだろうと思っていたが、秋山さんの場合は少し違っていた。小学生のころから算数は好きな科目ではあったが、成績はあまり芳しくなかったと言うのだ。

「放課後は凧やコマを作ったり、鳥を捕る仕掛けを作ったりして遊んでばかりだったからね。算数の計算などは訓練によるところが大きいし、宿題もやらずに学校へ行くのが常だった私は、成績がビリの方になることも珍しくなかったんです」

そんな秋山さんが数学の面白さに目覚めたきっかけは、中学校の展覧会。正多面体には四面体、立方体、八面体、十二面体、二十面体の5種類しか存在しないことを自力で証明し、作品として展示したことだった。

「模造紙にマジックで証明を書き、ボール紙で作った五つの正多面体の模型を添えて出したら先生にえらくほめられてね。それで、自分には数学的才能があるのかもしれないと勘違いして、こういうことになっちゃった(笑)」

こうして話をしている間も、寝ているときでも、常に頭のどこかで数学の定理のことを考えていると秋山さんは言う。日々少しずつイメージを膨らませながら考え続け、たまに、やっと解ける。そのときがすごくうれしいと。

「これまで人類で誰一人解明していない不思議を解き明かすのが、数学の定理。そして、一度決定付けられた定理は、未来永劫、真実であり続ける。音楽や文学、絵画などは、人の価値観や思想、文化などによって評価が異なることがあるけれど、数学だけは、人種が違っても、時代が違っても、真実はたった一つ。そうした素晴らしさがあるんです」

好奇心を学ぶ力に

現在、秋山さんは、数学者としてだけでなく、数学の面白さを広く伝える伝道師的な活動も行っている。それはなぜだろうか?

「15年ぐらい前に、数学者は損な職業だなと気付いてね。例えば、作曲家ならいい曲を作り、それを演奏して人に聞かせ喝采を浴びる。シェフならレシピを書き、おいしい料理を作って人に食べさせる。すると、喜んだり、感動してくれる人がいる。でも、数学でいい定理を作っても多くの人は喜ばない。もちろん専門家の中では評価されるけれど、一般の人にその論文を配っても1時間後には捨てられてしまうでしょう。だけど、どんなにいい曲を作っても楽譜で渡されただけなら、楽譜を読めない私のような人間は感動しないし、レシピだけでも満足感は味わえない。つまり、五感に働きかけることが大事なのだと。そこで、数学もショー仕立てにしたり、模型を見せたり、五感を総動員させる工夫をして、みんなにその面白さを体感してもらおうと思ったんです」

また、初等教育の中でも、子どもたちが五感を総動員できる授業、体感する授業を取り入れるべきだと指摘する。

「理数系離れが進んだ原因の一つは、子どもたちに、頭だけで考えさせているからだと思います。元来、勉強の原動力は好奇心。今の子どもたちは、数学の公式や定理を習っても、テストや受験のために覚えるだけだから、それが終われば忘れてしまう。でも、子どもたちをワクワクさせて好奇心を刺激し、作業を通して『なるほど、そうだったのか!』と納得できる経験をさせれば、頭に残るし、学ぶことの楽しさを体で知ることにもなる。そうすれば、今度は自分で面白いと思うものを見つけて、自発的に学びを深めていくようになりますよ。だから、まずは興味を持たせることが大切です」

もう一つ、重要なこととして秋山さんが挙げたのが、自分たちの身の回りのいろいろな所に数学が応用されている事実を伝えること。

「数学で習ったことは何一つ実生活に役立っていないと言う人がいるけれど、とんでもない! 例えば、三角関数のサイン、コサインの親玉のフーリエ変換は医療用MRI*に使われているし、音楽CDの銀色の面に傷が付いても新品同様に美しいメロディを再生できるのは代数学の応用のおかげです。そのほか、バーコードやカーナビ、天気予報など、数学の理論が応用されているものは枚挙にいとまがない。このように、我々の便利で安全な暮らしは数学の理論によって支えられているからこそ、数学を学ぶ必要があるのです。このことを学校の先生方も、もっと教えてほしいですね」

*MRI 磁石と電波を使って人体の断層像、例えば病巣や中枢神経などの状態を撮影する検査装置

秋山流・上手なお金の使い方

秋山さんが最近の大学生たちを見ていて心配するのは、その金銭感覚の乏しさ。お金を借りて返せなくなったり、親から送られてきた学費を使い込んだりして、退学せざるを得なくなる学生が少なくないのだそうだ。

「だから、お金のことを教育のタブーにすべきでないというのが私の意見。利息やローンの仕組みについて、お金の大切さ、威力、そして怖さについても、子どものころからきちんと教えるべきだと思います」

一方、大人たちには、お金の持つ意味をもう一度見つめ直してほしいと言う。

「例えば税金。納税は社会人の重要な責務の一つですよね。それなのに、払うのは損と考え、ごまかそうとする人もいる。でも本来、お金はみんなが幸せになるためにあるもの。自分だけ儲けるのではなく、社会に還元することも考えなければダメでしょう」

「私が考える理想の先生は、子どもたちから『なぜ?』『どうして?』という気持ちを引き出せる人。好奇心や興味、関心を抱かせることに成功すれば、子どもは放っておいても勉強するようになりますよ」と秋山さん

それでは、秋山さんが考える上手なお金の使い方とはどんなものなのだろう。

「普段は清貧の暮らしでいいから倹約する。でも、いざ自分の夢を実現できる大きなチャンスだと思ったときには惜しみなく使いたいですね。私自身、お金は人類の共有財産であるぐらいの感覚でいたいと思っています。一応自分で稼いだのだから主導権は自分にあるけれど、みんなに喜んでもらえるような使い方をするのが理想。もし今、私に大金があったら、多くの子どもたちが算数や数学の素晴らしさを体感できるような施設を作りたい。それで多くの人が喜んでくれて、未来につながるのなら惜しくありません」

アコーディオンで持論を証明

長く数学一筋だった秋山さんだが、7、8年前から学生時代に一度挫折したアコーディオンを再開。以後、毎日のように練習を重ねて、今ではライブハウスで演奏するほどの腕前になっている。

「アコーディオンは右側に鍵盤、左側に120個のベースボタンがあって、さらに蛇腹を開閉しないといけないから本当に大変。それでも挑戦したのは、日ごろ子どもたちに言っているように『努力を続ければ、難しいことでもできるようになる』ことを証明したかったから。『僕は数学の成績は大したことはなかったけれど一生懸命頑張ったからうまくなった。だから君たちも頑張れ』と言っても、今の子は信じてくれないからね(笑)」

最近はブルースハーモニカも始めたそうだが、それ以外にも新しいことにどんどんチャレンジしたいと言う。特に、これまでの自分の生活からできるだけ懸け離れたことをやりたいのだそうだ。

「例えば、詩や俳句、彫刻とかね。新しいことに挑戦するとエキサイトするし、面白い仲間にも出会えると思うよ。サミュエル・ウルマンの『青春』という詩には、青春とは肉体のある状態を指すのではなく心の若さを示す。夢と希望に向かって情熱を持って邁進しているときは年齢にかかわらず青春真っ只中であるという主旨のことが歌ってある。だから私は生涯青春でありたいと思っています」

本インタビューは、金融広報中央委員会発行の広報誌「くらし塾 きんゆう塾」Vol.6 2008年秋号から転載しています。


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