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著名人・有識者が語る ~インタビュー~

お金は敬いながら、楽しく豊かに生きるために使う

タレント デヴィ・スカルノ

ゴージャスな衣装を華麗に着こなし、きらびやかなアクセサリーにも負けないオーラを放ち、テレビをはじめ多数のメディアで大活躍するデヴィ・スカルノさん。
貧しかった幼少期を経てインドネシア大統領夫人となった波乱の人生からタレント「デヴィ夫人」としてさまざまな挑戦を続ける意義、お金に対する哲学まで、思う存分に語っていただきました。

デヴィ・スカルノ

1940年、東京生まれ。1959年、インドネシアのスカルノ大統領と出会い、結婚。政変により、1970年、一人娘を連れてパリに亡命。インドネシアで事業に専念した後、1991年にニューヨークへ移住。その後、日本を拠点にタレント活動を行う。著書に『デヴィ・スカルノ回想記 栄光、無念、悔恨』、『選ばれる女におなりなさい デヴィ夫人の婚活論』など。

波乱万丈の人生 三つのターニングポイント

タレント デヴィ・スカルノさん

現在79歳、2020年2月には80歳を迎えるデヴィ夫人のこれまでの人生は、「ひと言でいえば波乱万丈」とご本人もおっしゃるほど、濃密なものでした。

19歳でインドネシアのスカルノ大統領に見初められ、単身でインドネシアに移り住み、22歳で大統領夫人に。世界各国の元首や要人と交流を持ち、10年間にわたりスカルノ大統領を支えました。その後、インドネシアの政変により、デヴィ夫人は一人娘のお嬢さまとともにフランスに亡命。パリの社交界では「東洋の真珠」とたたえられ、王侯貴族や各界の著名人とも交流を持ったといいます。

「普通では行けない場所に行き、会えない人に会い、さまざまな体験をしてきました。人の何百倍も生きてきたんじゃないかしら」とデヴィ夫人は笑います。再びインドネシアに戻り、事業をスタートし、その後、ニューヨーク滞在中に日本のテレビ番組から声がかかるようになったのが2000年前後。以降、テレビで見ない日はないほど大活躍されているのはご存知の通りです。

メディアを通して見るデヴィ夫人の姿は、「優雅に生きるセレブ」というイメージですが、戦中・戦後を挟んだ幼少期、家は貧しく、生活は苦しかったといいます。その生い立ちから現在までを語っていただくには誌面が足りません。そこで、「これまでの人生におけるターニングポイント」を三つ挙げてもらいました。

「私の家は霞町(現在の港区西麻布)にありました。父は大工でしたが、目を患い、母は足が悪く、暮らしは貧しいものでした。私は小さいころから絵を描くのが得意で、周りからは天才だといわれていたんです。貧しい中でも母が内職でお金を貯め、藝大の先生につけて絵を習わせてくれました。ある日、学校から帰ると、母が私のクラスメイトの母親にしきりに頭を下げているところに出くわしました。障子越しに話を聞いていたら、どうやら私を学校に通わせる月謝が払えなくて、その方にお金を借りていたようなのです。それを知ったとき、大きな衝撃を受けました。『母にそんな思いをさせてまで学校に通うことなんてできない。私が母を支えなければ』と思ったんですね。それが子ども時代のターニングポイントでした」。

中学を卒業したら働こうと決心したデヴィ夫人は、高い倍率をくぐり抜けて千代田生命(現在のジブラルタ生命)に入社。都立三田高校の定時制に通いながら、学業と仕事に明け暮れる日々を送ります。やがて赤坂にあった伝説の高級クラブで働くことになり、縁あってスカルノ大統領夫人へ、というシンデレラストーリーにつながるのですが、二つ目のターニングポイントはそこではありません。

「インドネシアに渡り大統領夫人となった直後、母と弟を立て続けに亡くしました。私は母と弟を支えるためにそれまで頑張ってきたわけですから、大変つらく、悲しい出来事でしたが、これは神様が私に与えた啓示だと思いました。もう家族から自由になって、スカルノ大統領1人のために尽くしなさい、と。私はそれまで母と弟のために日本国籍を保持していたのですが、それを機にインドネシア国籍になりました。これが、もう一つのターニングポイントでしょうか」。

三つめのターニングポイントは、現在の活躍にもつながるエピソードです。

「30年ほど前のことですが、日本のホテルに宿泊していたときにテレビを見ていたら、『100歳以上の日本人が4500人いる』といっていました。現在、100歳以上の方は7万人を超えていますが、今から30年前には、4500人でも驚きの数だったのです。当時、私は50歳。100歳まで生きられるのだとしたら、これまでの人生と同じ時間をもう一度生きることができる。これからは『スカルノ大統領夫人』という肩書きから切り離された自由な生き方がしてみたいと思ったのです。ここからまた私の新しい人生が始まるのだとしたら、新しい目標や目的、使命感があってもいいんじゃないかと思えた瞬間でした。これが、三つめのターニングポイント。50歳から79歳の現在に至る大きな転換点でしたね」。

以降、日本のテレビ局から声がかかるようになり、デヴィ夫人はバラエティ番組などにあまた出演することになります。

「当時、私はニューヨークに住んでいたので、東京とニューヨークを往復しながらテレビなどの仕事をするようになりました。あるとき、スポーツ新聞を見ていたら、『タレントのデヴィ夫人』と書かれていて大変びっくりしました。『え、私ってタレントなの?』と。でも、これまで人の何百倍も濃密な経験をして生きてきたわけですから、これから先は人生の余剰として、楽しく生きたらいいんじゃないかと思ったのです。よし、これからの人生は楽しく『タレント・デヴィ夫人』として全うしようという気持ちになったんですね」。

挑戦を成し遂げた達成感は何ものにも代えがたい

現在も数々のテレビ番組やCM、イベントに出演され、さまざまな挑戦をし続けるデヴィ夫人。あるときはイルカに乗ってサーフィンをしたり、あるときはスカイダイビングをしたり、またあるときは無人島でサバイバル生活をしたり。79歳の今もさまざまなことに挑む姿に私たちはいつも驚かされます。

「よく芸人の方たちから、『デヴィ夫人にそこまでやられると自分たちの仕事がなくなる』と冗談めかしていわれます(笑)。私は、基本的に『あの人も人間だし、私も人間。あの人にできて私にできないことはない』と考えるんです。そう思って、イルカのサーフィンに挑んだら、3日でできてしまいました。実は私、高所恐怖症なので高いところは大の苦手なのですが、それでも地上4000メートルからのスカイダイビングに挑戦してみたら、上空からの眺めがあまりにも美しくて、思わず2回も飛んでしまいました(笑)。未知のことに挑んで、それが成し遂げられたときの達成感は本当に得難いものです。一度、その達成感を味わうと、あれもできるんじゃないか、これもできるんじゃないかという気持ちになります。挑む気持ちを失くしたときが、自分が年老いたときなんだなと思いますね」。

メディアを通じ、さまざまな物事に対して本音で斬るデヴィ夫人の発言にも常に注目が集まります。私たちが日ごろ思っていてもなかなか口に出せないことをズバッというさまに留飲を下げる人も多いのではないでしょうか。

「ブログなどでも、皆さまから『よくぞいってくださいました』というコメントを多数いただきます。日々、世界では理不尽なことが起こりますが、それに対して私は素直に怒り、考えを述べているに過ぎません。『怒り』は私の原動力ですね。私が本音で物をいえるのは、これまでの経験や体験から得た自信と誇りがあるからだと思います。そして、精神的にも物理的にも経済的にも完全に独立、自立した人間ですから、誰かに義理立てすることも、忖度する必要もないのです。どんな人でも、こういうことをいったらあの人に影響があるんじゃないか、これはあの人にお世話になっているからいえないということがあると思いますが、私にはそれが一切ありません。精神的にも物理的にも経済的にも独立していることが、本当の意味での贅沢なのです。私は、そうした自由を勝ち得た数少ない人間の一人なのかなと思いますね」。

タレント デヴィ・スカルノさん

人生は「生活」のためではなく「生きる」ためにある

芸能界での華やかな活動の一方、デヴィ夫人は芸術文化の支援や慈善事業にも積極的に取り組んできました。1990年には世界各国の音楽家を支援する「イブラ国際音楽財団」を設立。毎年、多くの国々のアーティストをイタリアのシチリア島(イブラ地区)に集めてコンクールを開催し、入賞者をアメリカのカーネギーホールなどでのコンサートに招きます。2006年に設立したNPO法人アース・エイド・ソサエティでは、理事長として「日本赤十字社」とNGO「難民を助ける会」とともにさまざまな慈善活動を行ってきました。また、自身も10匹の犬を飼う愛犬家として動物愛護活動にも尽力しています。

「若き芸術家の支援とともに、私が最も心を寄せるのは、難民のように政治の犠牲となってつらい暮らしを強いられている方たちです。私たちのNPO法人は、『戦いをやめ、許しあい、地球に平和を/あらゆる命に思いやりを/青い海と緑の大地を永遠に』をモットーにチャリティーや難民支援などを行ってきました。この地球上から戦争や紛争をなくすのは難しいかもしれませんが、その犠牲になった方たちの役に少しでも立てればと思っています。動物愛護活動も、人間の犠牲になった生き物たちを手助けしたいとの思いから始めたものです。『あらゆる命に思いやりを』は、私の一貫したテーマですね」。

ところで、多方面で日々精力的に活動されるデヴィ夫人の食生活や健康管理、体力づくりも気になるところです。

「夜はパーティーや会合などでフレンチやイタリアンをいただくことが多いため、お昼はなるべく和食を食べるように心がけています。気をつけているのは、『ま・ご・わ・や・さ・し・い』。マメ・ゴマ・ワカメ・野菜・魚・シイタケ・イモをかたよりなく食べることです。白米は大好きなのですが、太るのが怖いので玄米などを混ぜて少量いただいています。お酒も毎晩いただきますが、至って健康。よほど体が丈夫にできているのでしょうね(笑)。睡眠時間が3時間という日もよくありますが、そんなときは『昨夜は10時間たっぷり眠れた』と自分にいい聞かせています。もともと体が丈夫だったこともあると思いますが、精神力も強いのだと思います。体力づくりは特別していませんが、日舞や社交ダンス、冬はスキー、夏はスキューバダイビングと、体を動かすことが好きなので自然に体力が維持されているのかもしれません」。

今回、取材をさせていただいたデヴィ夫人のご自宅の一室は、自身の審美眼で選び抜かれた高級な調度品や美術品が彩る豪華なサロンといった趣です。そんな空間で、お金や資産についてもデヴィ夫人らしい哲学を語ってくれました。

「私は、お金は『敬う』ことが大切だと思っています。そのためには、お金を貯めるのではなく、使うことが大事。好きなところに行き、好きな物を買い、好きな物に囲まれて暮らす。この部屋にある物にもすべてに愛着がありますし、一つひとつが私の人生を豊かにしてくれています。お金は、人生の豊かさを実感するためにあるのではないでしょうか。ただ、私の場合、あまりにも物が多くなり過ぎてしまったので、この先、私が死んだら娘とその家族たちも困るでしょうから、今から少しずつ断捨離をしていくつもりです。とはいえ、すべて愛着のある物ですから、何を残して何を捨てるのかを判断するのにも膨大な時間がかかるでしょうね。断捨離が、私の人生で最も難題だと思います(笑)」。

50歳のとき、すでに人生100年を視野に、第2の人生を歩む決意をしたデヴィ夫人ですが、80歳を目前に、100歳、あるいはその先までも、このままエネルギッシュに突き進まれていくことでしょう。

「私は仕事も精一杯しますが、遊ぶときも徹底的に遊びます。今のこの一分一秒が次々と過去になっていくのですから、そのときどきを精一杯楽しく生きたいのです。私はよく、『あなた方は毎日、生活をしているんでしょう? 私は毎日を生きているの』というんです。『生活をしていることと生きていることの違い、分かる?』と。

人生100年時代といわれるようになりましたが、この先、さらに医学が発展して、人生120年、130年の時代が訪れるかもしれません。たとえそうなったとしても、私は、楽しく、豊かに『生きて』いきたい。そう思っています」。

本インタビューは、金融広報中央委員会発行の広報誌「くらし塾 きんゆう塾」vol.51 2020年冬号から転載しています。


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