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著名人・有識者が語る ~インタビュー~

成功の型にこだわると 成功する確率は小さくなる

IT企業役員・タレント 厚切りジェイソン

日本でIT企業の役員として働きながら、タレントとしても活躍する厚切りジェイソンさん。
日本人が当たり前だと思って使っている漢字を題材に「ここがヘンだよ」とつっこむネタで人気を博したジェイソンさんは、その独自の視点で日本の社会や人びとをどのように見つめているのでしょうか。

厚切りジェイソン
(あつぎりじぇいそん)

1986年、アメリカ・ミシガン州出身。17歳のとき、飛び級でミシガン州立大学へ入学後、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校へ進み、エンジニアリング学部コンピューターサイエンス学科修士課程修了。日本でIT企業役員として働きながら、2014年にお笑い芸人としてデビュー。芸歴5ヵ月で『R-1ぐらんぷり2015』決勝へ進出。現在、バラエティ、CMなどで活躍中。著書に『日本のみなさんにお伝えしたい48のwhy』『厚切り英単語』がある。

ITの仕事に夢を見出した10代のころ

IT企業役員・タレント 厚切りジェイソンさん

アメリカ・ミシガン州で生まれ育ったジェイソンさんは、17歳のときに飛び級でミシガン州立大学に入学しています。

「勉強は嫌いでした。だから、なるべく早く終えてしまおうと思っていた。そんな子どもでしたね」。

コンピューター関連のエンジニアだった父親は、ジェイソンさんが子どものころに会社をリストラされ、自ら会社を起ち上げました。仕事場は自宅。仕事をする父親の姿をいつもそばで見ていたジェイソンさんは、父親が使わなくなったコンピューターに触れながら、高校時代にはすでにIT関係の仕事に就くことを考えていたそうです。

「僕が高校生だった2000年代のはじめにアメリカでドットコムバブル(日本でいうITバブル)が起きました。若い人のなかにも一夜にして億万長者になる人がいるのを見て、『自分もこういう仕事をしてお金を稼ぎたい』と思いました。もちろんバブルだから、はじけた後は大変な目にあった人もいたけど、それでもやってみようという気持ちが強かったですね」。

ジェイソンさんは、大学でコンピューターサイエンスを学びながら、同時に日本語も学び始めます。それは、「ほかの人があまりやっていなかったから。アメリカでコンピューターサイエンスを勉強している人は僕以外にも大勢います。人と同じことしかできなければ、いつほかの人と入れ替えられてもおかしくない。ほかの人が持っていない技能を身につければ将来のキャリアアップにつながるのではないか」と考えてのこと。

もっとも、大学在学中、日本に1年間滞在しましたが、そのときは、日本語での会話はほとんどできなかったといいます。

人生を変えた日本のお笑いとの出会い

ジェイソンさんはIT企業の日本法人の支社長として日本で暮らすことになってからも、日本語の勉強を続けます。そのころは、日本のテレビ番組を録画して繰り返し観るという独学が中心。そんななか、ジェイソンさんが日本で一躍有名となるきっかけとなったお笑いと出会います。「当時、人気のあったお笑い番組を観て、単純に面白いと思いました。それだけでなく、ボケやツッコミを辞書なしですべて理解できたのです。日本語を勉強して、そういう手応えを感じられたのは初めての経験だったこともあって、お笑いが好きになりました」。

別のIT企業に転職して役員になったとき、「もう一つ何かを始めたい」と思ったジェイソンさんは、週末だけの芸人の養成所があることを知りました。そして、平日はIT企業で働きながら、日曜日に養成所に通うことにします。

「IT企業の役員の傍ら芸人を目指すことができるのだろうか?そんな心配は、まったくなかったですね。お笑いをやってみたいと思って、それをやれる環境があった。やらない理由がありませんでした」。

養成所を卒業して2014年に芸人としてデビューするとアッという間にテレビに出演。おもむろに漢字をホワイトボードに書き、「ホワイ、ジャパニーズピープル!?」の決めセリフとともに「この漢字、ヘンだよ」と指摘する斬新なネタで一躍人気者となります。例えば「円」という漢字に対しては、「よく見るとすべて四角。これほど丸くないものは存在しないだろう!」とつっこむ。日本人が「これはこういうもの」と日々何気なく使っている漢字に対してつっこみを入れるジェイソンさんの独自の視点は、「言われてみれば確かにそうだ」と笑いを誘いました。

「二足のわらじ」で自分の可能性を広げる

その後もテレビで活躍するジェイソンさん。IT企業の役員とタレントのどちらが「本業」ですかと聞かれることに戸惑うといいます。「日本語の『本業』に当てはまる英語がないから、『本業と副業』についてそれまで考えたこともありませんでした。僕は会社役員であり、タレントでもある。以上。でも、日本では二足のわらじはいい意味では使われないみたいですね」。日本では、一つの仕事に集中しなければならないという考え方が根強いようにジェイソンさんには映ります。「でも僕は、そういう意味の『本業』を無理に決めるのは自分の可能性を狭めることだと思っています。人にはたくさんの可能性がある。それを自分で絞るのはもったいないですよ」。

さらに、ジェイソンさんは「成功の型にこだわると、成功する確率は小さくなる」ともいいます。「多くの人は、お笑い芸人を目指すなら、今の生活をすべて捨てなければならないと考えます。でも、そうした成功の型にこだわると、今の状況でできることは何かという思考が働かなくなる。僕は常に、今ならこれができる、あれができると、その時どきで考える。そして自分が思ってもみなかった話があれば、まずやってみようと考える。恵まれた機会を活かして新しいスキルの獲得につなげることを考えています」。

そんなジェイソンさんは、何かやりたいことがあっても、そのための方法論ばかりをあれこれ言って、なかなか一歩を踏み出そうとしない人にもどかしさを感じます。「本当にやりたいなら、やってみればいい。グズグズ言ってやらない人は、本当はやりたくないんじゃないの?代わりにやってあげようか?」と思ってしまうそうです。

「やりたいことがあるなら今の状況でできることを考えよう」IT企業役員・タレント 厚切りジェイソンさん

日本人と英語について思うこと

自らの可能性を広げるべく日本で活動するジェイソンさんは、現在、子ども向け英語教育番組にも出演中です。日本では義務教育で英語を学ぶのに、なぜ英語を話せない人が多いのか。この質問に対しては、「受験」という答えが即座に返ってきました。

「受験という本来の英語学習とは関係のない『期限』を設定して勉強しているからです。そのため、大学に合格すると、英語の勉強を続ける理由がなくなってしまう。コミュニケーションの手段として英語を勉強していないのですね。目標を達成した途端にそれまでの努力を止めて、あっという間にリバウンドしてしまうダイエットと似ているところがあります」。

今、日本では子どもにネイティブのような発音で英語をしゃべらせたいと考え、幼いころから英語の音に触れさせようとする親も数多くいますが、これに対してもジェイソンさんはもっと大切なことがあると説きます。

「英語を話すには発音より、考え方が大切です。日本人が自分の考えを英語で完璧に表現できたと思っても、実はまだ相手に伝わっていない部分がたくさんあると思います。それは、謙遜するとか、言いたいことを単刀直入に言わないといった文化の違いが影響しています。英語でコミュニケーションをするには、日本語で話をしているときには言わないことも言わなければ伝わりません」。そして、たとえ発音がヘタでも片言の英語でもいいと言います。「一生懸命しゃべっていたら、『こういうことが言いたいのだろうな』と相手に伝わるんですよ。なぜなら、コミュニケーションは話している本人だけじゃなくて、聞く側にも相手の言うことを理解しようとする責任があるからです。自分が言ったことが伝わらなければ、相手から『それ、どういう意味ですか?』と聞かれるでしょう。つまり、コミュニケーションはお互いが協力することではじめて成り立ちます。日本人は英語を話すとき、その責任がすべて自分側にあると勘違いしてしまって、完璧な文を頭のなかで組み立ててから話そうとします。だから、会話のなかで黙ってしまう時間も多くなるのですが、その必要はありません。ヘタでもいいから自分の考えを伝えようとすること。それは、正しい発音や文法よりもはるかに大事なことです」。

日本の企業がグローバルに活躍するために

「日本は秩序があって清潔、サービスが良くて暮らしやすい」というジェイソンさんは、本来なら大学卒業後、すぐに日本で働きたかったそうです。「ただ、新卒採用で提示された給料はアメリカの会社と日本の会社とでは大きな差がありました」。だから、アメリカでキャリアを積んで日本でも満足できる給料をもらえるようになってから日本に行くことにしました。ここには日本人とアメリカ人のお金に対する考え方の違いがあるようです。

「日本人はお金の話をあまりしたがらないし、それが美徳だとされていますが、アメリカ人は、自分のキャリアや持っている資格からみて、自分にどのくらいの金銭的な価値があるのかをある程度把握しています。そして、会社からもらう給料が、それを下回っていれば転職を考えます。日本と違って、キャリアにおいて『義理人情』はそれほど関係ないし、自分のお金の心配は誰もしてくれないから、自分で主張するしかないんです。日本人はお金の話をせずに我慢するから、会社が儲かっても従業員の給料は上がらない。たくさん給料を出さなくても文句も言わず働いてくれるのであれば、会社はもちろん給料を上げようとしないですよね」。

こうした日本人が持つお金に対する価値観や美徳、これに代表される日本人の精神論について、ジェイソンさんは、日本人のなかだけの狭いコミュニティーだけで生きていく分にはよいと考えています。「精神的なことを大事にすることで、幸せを感じられるのならそれでいいと思います。利益を最大にするだけが幸せではないから」と。でも、日本の企業が外国企業とグローバルに競争することを考えたとき、日本の将来を悲観せずにはいられません。「日本の企業で働く人の給料が増えなければ、優秀な人材を海外から集められないし、日本の優秀な人材も海外に出て行ってしまうでしょう。それに、精神的なことを大事にするがために、非効率なことを続けていては、大きな利益を出すことは望めません。大きな利益を出せない企業には、投資してくれる人も集まりません」。

芸人になったとき、下積み生活といったものは「免除されていると勝手に思っていた」というジェイソンさんは言います。「例えば日本の高校野球では、入部当初はボール拾いしかやらせてもらえないと聞きます。でも、その時間を練習に費やしたら、将来もっとすごい選手になれるかもしれない。それに、日本人がボール拾いしている時間を使って、技術を磨いていたアメリカ人に勝てるでしょうか?負けてもいいのですか?」。

日米双方の文化や価値観を知ったうえで、本音で語るジェイソンさんのメッセージは耳が痛い部分もありますが、本質をついていると思えます。会社役員・タレントという肩書きすら飛び越えるジェイソンさん、次は何に挑戦するのでしょうか。

本インタビューは、金融広報中央委員会発行の広報誌「くらし塾 きんゆう塾」vol.43 2018年冬号から転載しています。


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