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著名人・有識者が語る ~インタビュー~

苦労を笑いに変えるコミュニケーション力

タレント パトリック・ハーラン

「ハーバード大学出身のお笑い芸人」という異色の経歴で、1997年に日本の芸能界にデビューした米国人 パトリック・ハーランさん。
現在では、お笑いコンビ「パックンマックン」のパックンとしてだけでなく、情報番組のコメンテーターや大学講師など多方面で活躍中です。
自称「お笑い界きっての倹約家」というハーランさんのお金についての考え方やそのポジティブな人生観についてうかがいました。

パトリック・ハーラン

パックン 本名パトリック・ハーラン。1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。 ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。 日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。 「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。 教育、情報番組などに出演中。

2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。 その講義をまとめた「ツカむ!話術」(角川oneテーマ21)を4月に出版。

公式サイトhttp://www.havmercy.co.jp/

秀才を育てた教育一家

ハーランさんは1970年、アメリカ西部コロラド州の出身。 祖父もハーバードで学んだことがあり、父親は修士号を2つも持つ秀才、母親も音楽教師や小学校教師の経歴がある教育一家に育ちました。

母親はハーランさんが高校生までは、宿題の論文を提出前に読んで、修正を指示するほど教育熱心。 「良い成績を持って帰ると、オーバーなほど喜んでくれました。 また、家計は火の車だったのに『好きなピザを食べ放題にしてあげる』と、ごほうびがもらえました。 いつも期待してくれる母に良い報告をすることが楽しみでしたね」。

子ども時代は、劇に出ると脇役なのに主役より目立とうとするような 「活発だけど落ち着きのない、明るいけれど迷惑な子ども」だったというハーランさん。 小学校では問題児クラスに移された時期もありましたが、学業は優秀だったので、 高学年のときから周囲の学校から優等生を集めた特別学級に入って英才教育を受けた経験もあったそうです。 そんなハーランさんも高校生のときに大いに反省させられた思い出があると言います。

「友人をからかっていたところ、先生から『君は自分が思っている以上にみんなからも尊敬され、リーダーシップがある。 そんな君から毒舌でからかわれた人の気持ちを考えられないのか』と言われました。 得意のジョークで笑わせているつもりだったのに、相手を傷つけていたと知り、ショックでしたね。 そのときの気持ちは今でも忘れません」。

また、同じ高校の英文学の先生は「君はとてもできる」と言いながら最後までA評価をくれませんでした。 文句を言ったところ、「ほかの生徒より良くても、君の中ではBだから。 本気でやらないとAはあげられないよ」とぴしゃり。

「良いところを人に見てもらいたい性格だったので、母も先生も、上手に良いところを伸ばしてくれたのだと思います」。

周りの人たちから時に優しく時に厳しく励まされながら育ったハーランさんは、 周囲の期待に応えたいという気持ちで努力を続け、やがてハーバード大学へと進学することになります。

サムライニッポンは意外にもオープンマインド

大学を卒業した1993年、当時日本に就職していた中学時代の友人に誘われ来日。 英語の教師として福井県で生活を始めます。映画などの影響から、サムライ文化をイメージしていたハーランさんは、 現代日本が「意外と普通」なことに驚いたそうです。

「実は中国と日本の違いもよく分からないまま来日しました。 日本語を学び、日本人と深くつき合うことで、アメリカ人との違いや日本人の良さが分かるようになってきましたね。 日本人は自分たちをシャイな国民だと思っているかもしれませんが、居酒屋へ行けば、どの席でも笑い声が絶えませんし、 企業の会議でジョークを言っても笑顔を見せてくれる、明るく優しい国民性だと思います。 働きアリのイメージもありましたが、仕事を終えて遊びに行ったり、土日はスポーツをしたり、みんな人生を楽しむことにも積極的ですよね」。

上京後はお笑い芸人としてデビュー。 テレビの英会話番組で長く活躍したり、俳優、情報番組のコメンテーター、大学の講師など、多彩なキャリアを築いていきます。

もっとも、順調なばかりではありません。 お笑い芸人としてはまず、「何を日本人が面白がっているのかが分からない」という大きな壁にぶち当たります。 歴史、習慣、流行などさまざまな文化背景をネタにしたコメディの場合、それらを知らない外国人には 「何がウケているのかさっぱり分からない」というのは当然です。 ハーランさんも、先輩の漫才を見ては「どうして今のでお客さんが笑ってるの?」と相方のマックンを何度も質問攻めにして困らせたと言います。

「ただ、日本のお笑いには便利な『突っ込み』があります。 この『突っ込み』に注目すれば、何が面白いのか、そのカテゴリーやパターンが見えてくるんです。 『いつの話だよ』と突っ込みが入れば、時代がズレていておかしいという意味でしょう。 そうやって何がウケているのかを研究して、日本の笑いを理解していきました。 ただ、どう頑張っても理解できないのが『一発ギャグ』のジャンル。この感性だけは身に付きませんね」。

日本のお笑いも理論的に分析したというハーランさん。2007年には相方と英語漫才で凱旋帰国し、大成功を収めています。

ハーラン家のおこづかい・子育て論

ここで、日米の違いをよく知るハーランさんに、アメリカのおこづかい事情や自身のお金にまつわる思い出をうかがいました。「アメリカでも子どもにおこづかいを渡す習慣がありますよ。 旦那さんの『おこづかい制』は聞かないけれどね…」。

アメリカのおこづかいは、家庭によって異なりますが、週に「年齢×50セント」など、ルールを決めてあげているケースが多いそうです。

「僕が子どもだったころは『年齢×25セント』くらい。 僕は週に1ドルくらいもらっていましたが、それだけだと何も買えないので、まずは貯めるというのが習慣でした。 ただ、100ドルくらいまで貯まると今度はなかなか使えないんです。 たしか10歳のとき、クリスマスに買ってもらった自転車がすぐに壊れてしまいました。 中古だけどオフロード用のものなのに、買った店に修理に持っていったら『荒れた道を走るからだ』だって。 結局、自分で貯めたお金で250ドルの中古自転車を買いましたね。 今振り返ってみても、その自転車が人生最大の思い切った買い物だったように思います」。

日本については、「日本の子どもたちは、おこづかいを貯めようという意識があまり感じられないし、学費も自分で払わない学生がほとんど。 アメリカでは幼いころから金銭的にも自立心を養い、『まず貯めよう、そのあと使おう』というスタンスを身に付けさせようとしている」といった印象を持っています。

ハーランさんは、7歳のときに両親が離婚し母親と二人暮らしとなり、家計を助けるために10歳から新聞配達のアルバイトを始めるなど「苦労人」の一面も持っています。

「お金に苦労する母の姿を覚えているので、僕は出費が収入を超えるような生活なんて絶対に考えられません」と話す一方で 「貧乏な生活はしましたが、僕は恵まれているのだと思います。健康だし、いろいろなことができて、自分に自信も持てたから。 中古自転車の話を明るく振り返れるように、『お金がなくてもへっちゃらな自分はかっこいい』という自己肯定感が身に付きましたし、 お金や物に振り回されない価値観をもって生きてこられたように思います」。 過去の辛い経験とともに学んだお金の大切さ、自分への自信は、ハーランさんの人格形成に大きな影響を与えているようです。

2児の父親でもあるハーランさんですが、まだ、自分の子どもたちにはおこづかいはあげていません。 他人からもらったお年玉などは親が預かり、買いたい分だけ出してあげるようにしています。 ただし、使いみちは、基本的に1~2割を寄付、2~3割を貯金に回し、使っていいのは残り分と決めています。

また、遊び方にはごほうび制を導入。 お手伝いなど褒められることをポイントに換算し、例えば6点貯まると20分ゲームができるというルールを取り決めています。 これで、子どもたちは週末に友だちとたくさんゲームをするためにポイントを貯め、平日はゲームをがまん。 「がまんできる子になってほしい」という狙いだったそうですが、 「この方法で、子どもたちはゲームをするためにポイントを稼いでいたのに、 いつのまにか、“ポイントそのものが貯まっていくこと”を楽しんでいるという意外な発見がありましたね」と、子煩悩な父親の一面を覗かせます。

アメリカでは身近なお金や投資の話

アメリカは日本よりはずっと投資に積極的なお国柄。 お金の教育は親をはじめ、学校でもたびたび行われているそうです。 ハーランさんも小学生のころから母親と連名で銀行口座を持ち、支払いに使った小切手の記録を小切手帳に書いておく金銭管理の方法など、基本知識を教わったといいます。

「中学校の社会科ではシミュレーションゲームをやりましたね。 いろいろなことが起きる人生の中で、収入と支出のバランスを考えながら家計を運営してみるのです。 そこで家計簿の付け方、車を現金で買うかローンで買うか、いくらぐらいの家を買うか、といった判断の仕方などを学びます。 投資に失敗して生活が苦しくなったり、病気をしたら保険に入っておらず、まだローンが残っている車を売る羽目になったり…。 さまざまなパターンのクラスメイトがいましたが、僕はゲームの中でも粗大ゴミを拾って節約しているような生徒でしたね」。 「また、日本ではあまり知られていませんが、複利でお金が2倍になる年数が分かる『72の法則※』というものがあります。 僕は親から教わった記憶がありますが、アメリカでは有名なので、皆さんも覚えておくと便利ですよ」。

※【72の法則】「72÷金利」を計算すれば、元のお金が2倍になる年数が出てきます。例えば、金利3%でお金を運用した場合、 72÷3=24ですので、24年で2倍になることが分かります(本誌2014年春号の「金融・経済キーワード」でも紹介しました)。
金融・経済キーワード(PDF 929KB)

来日して2年間、一生懸命働いて大学の奨学金を全額返済したハーランさん。そこから資産運用をスタートさせたと言います。

「当然の話ですが、借金があるなら投資はしません。でも、余裕があるなら投資をするのがアメリカでは一般的ですから」。

外でほとんどお酒を飲まないハーランさんは「家飲み派」で自他ともに認める「倹約家」。 資産運用も手堅く、子どもの進学などでまとまったお金が必要なときに備えていますが、 その一方で、日本の住宅ローンの金利の低さに着目し、自宅は早々に購入したそうです。

「子どもには、『家賃がもったいないと判断したなら家を買いなさい、 家を持つなら将来価値が上がりそうな家にしなさい、借金がなくて余裕があるお金なら投資しなさい』などと、 父親のお金についての考え方を今から話していますよ」。

日本で再発見したハーバードで学んだこと

ハーランさんは、ハーバード大学で比較宗教学という珍しい専攻を修めています。「入学当時、300人以上も学生のいる英米文学より、 15人の学生で世界トップレベルの教授陣を独占できる比較宗教学の方がずっと面白いと誘われ、専攻を決めました。 でも、宗教に関する知識そのものはあまり役に立っている実感はありません」と笑います。

実は大学で知識以上に培われたものは、情報収集や分析の方法、自分の考えの伝え方、他人の意見からの学び方など、学習するための知恵だったと言います。

「例えば日本に来て、自分の育った文化とは全く違うものを学ぶことになったわけですが、宗教間の共通点・相違点を客観的かつ的確に捉える力などは、 日本を理解する際の下地になっていると思います」。

ハーバードで学んだ「知恵」は今も役に立っていることを実感するというハーランさん。 「僕は大学で、コミュニケーション力を高めるさまざまな方法を身に付けてきました。 最近では人を引き付ける話術について書いた著書を出版しましたし、大学で講義もしていますが、 こうした『コミュニケーション学』を今後のライフワークにしていきたいと思っているところです」。

ハーランさんによると、日本の学生は「先生の言うことを聞き、試験には真面目に取り組み、授業でも私語が少なく、規律を守る素直な人が多い」。 対照的にアメリカの学生は、「授業中は私語ばかりで遅刻も多い。先生と自分は対等の立場だと思っているから先生の言うことにも懐疑的ですぐ議論になる」と言います。 さらに「日本の学生は模範解答を返すのは世界一でも、自分の思いを伝える表現力やコミュニケーション力が弱い」といった印象を持っており、そこを大学で教えていきたいと言います。

バブル崩壊直後に来日し、またお笑いブームが下火になる時期に漫才コンビ「パックンマックン」としてデビュー。 「なんとも微妙なタイミングばかり」と笑うハーランさんですが、 今の活躍に辿り着いた原動力はハーバード流のコミュニケーション力だったのかもしれません。

「僕の人生は、すべて誰かとの出会いが始まりになっています。 例えば、僕が来日したきっかけは中学時代の友人。そして、東京で相方のマックンに出会ったことがコンビ結成のきっかけでした。 それ以外にも、節目節目に大きな影響を受ける人びととの出会いがあり、前向きに行動するきっかけになっていたことは間違いありません」。

日本の若者に「コミュニケーション学」の輪を広げていきたいと目を輝かせて語るハーランさんの言葉には、日本への深い思いが感じられました。

本インタビューは、金融広報中央委員会発行の広報誌「くらし塾 きんゆう塾」Vol.32 2015年春号から転載しています。


くらしに身近な金融知識をご紹介する「くらし塾 きんゆう塾」

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