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著名人・有識者が語る ~インタビュー~

生徒とともにつくり上げるクラス
彼らの話を聞き、意見を尊重し一緒に歩むことが大事です

教育評論家 尾木直樹

「尾木ママ」の愛称でお茶の間でも人気を博す教育評論家、尾木直樹さん。
長年教壇に立ち、生徒に寄り添ってきましたが
豊富な教育経験を生かして教育評論家に転身後、一躍有名に。
そんな尾木さんに、教師のころのこと、コロナ禍の教育現場、尾木ママの由来、
4月から成年年齢引下げで新成人になる若者たちへ未来に向けた応援メッセージなど幅広くお話をうかがいました。

教育評論家 尾木直樹さん

尾木直樹(尾木ママ)
(おぎ・なおき)

1947年滋賀県生まれ。教育評論家、法政大学名誉教授、臨床教育研究所「虹」所長。中高の教師として22年間勤め、その後法政大学教授など大学教育に22年間携わる。子どもと教育に関する問題を中心に調査・研究、講演、評論活動を続けるかたわら、「尾木ママ」の愛称でさまざまなメディアやCMなどで活躍中。『いじめ問題をどう克服するか』(岩波新書)など著作は230冊以上。

先生に恵まれなかったからこそ
子どもの気持ちがわかる先生になれた

教育評論家 尾木直樹さん

「僕はね、自分が生徒のころは先生に恵まれなかったんです。学校に行くのが嫌で嫌で…」。

日本を代表する教育評論家、尾木直樹さんが最初に発したのは、そんな意外な一言でした。ではなぜ、教育者としての道を歩むことになったのでしょう。

「もともとはジャーナリストになりたかったの。でも、就職活動のとき、母から『学校の先生が一番向いているんじゃない?』と言われたんです。

え~ってびっくりしました。

高校時代、私が先生との関係で苦労していたことを知っているはずなのに…って思ってね。でも母からは、『苦労をしたからこそ、あなたのように学校に馴染めない子たちの気持ちがよくわかる先生になれるのよ』と言われてね。母は見抜いていたの。そういうこともあるのかと、目からウロコでした」。

そこから教師をめざした尾木さんは、1972年、都内の男子校に赴任し、教師キャリアをスタートさせました。

「大事にしたのは、子どもたちとともに生きる『パートナー』として接し、彼らがやりたいことを一緒にやることでした。

たとえばね、当時学校では禁止されていた漫画を、僕のクラスの学級文庫にはいっぱい置きました。彼らがそうしたかったからです。そのせいで、僕は職員会議では怒られちゃったけど(笑)、漫画を学級文庫に置くことを認めるよう生徒たちが立ち上がって署名活動にまで発展して。

生徒たちは当事者ですから、本気で立ち向かうんです。これこそ先生が生徒と学級をつくり上げるということだと思いました」。生徒と一緒にやりたいことを何でもやる、慣習を破ることも恐れない型破りな先生だったようです。

公立中学に転勤した尾木さんは、前任校が男子校だったこともあり、女子生徒の気持ちがよくわかりません。悩んだ結果、交換日記をしようと思いつきます。

「交換日記は、男女関係なく、書きたい人は書いてね、というスタイルにしました。実際に日記を書いてくれたのは女子生徒ばかりでしたけどね(笑)。今の話し言葉も、そのとき、女子生徒と交換日記をしたことの影響が大きかったですね。

もともと、こんな話し方だったんですけど、女子生徒と会話するときは、こういう話し方のほうが、親しみやすく感じてくれたみたい。多い日には7~8人が書いてくれました。

生徒と約束したのは“学校では読まないし返事も書かない。家に帰ってから読んで返事を書く。そして、書いてくれた内容は誰にも言わない”ということ。決して上から目線ではなく、1人の人生の先輩として対等に接することを大事にしました」。

常に生徒に寄り添い、生徒の話に耳を傾け、相手を尊重する尾木先生の姿勢に、生徒たちも徐々に信頼を寄せていきます。

しかし、長年の教師生活のなかでは、こうしたやり方が受け入れられない学校(職場)も。尾木さんはだんだんと心が擦り切れ、狭心症を発症してしまいます。ついにドクターストップがかかり、教育現場への名残惜しさはありましたが、思い切って教師を辞める決意を固めました。

「正直、僕はちょっと学校では煙たがられる存在だったし、やりたいことができないもどかしさもありました。数年前から東大の非常勤講師や講演会もやっていたから、教師をやめても生活はなんとかなると思っていたんです。こういうところが、すごく楽観的なのね(笑)。

ところが、学校を辞めたら、年収がなんと10分の1に!楽観的な僕もさすがにどうやって生活していこうか…と途方に暮れました。そういう状況に置かれて、自分がいかにお金のことに無頓着だったか、思い知らされました」。

とはいえ、すでに家族もいて、家のローンも残っていたため、とにかく稼がなくてはなりません。法政大学をはじめ、いくつもの大学の非常勤講師を掛け持ちし、全国を駆け回って働きました。

「おかげで少しずつ収入も増えていきました。それでも教師だったころに比べれば収入は少ないうえに安定しない。そんな生活がしばらく続きました。だからずいぶん倹約生活もしたのよ。

法政大学の専任の教授になれて、やっと生活は楽になりました。でも経済的に苦しかったそのころの経験があったおかげで、さまざまな立場の人たちの気持ちがわかるようになりました。そうなろうと望んでなった訳じゃないけど、『苦労は買ってでもせよ』ってこういうことなんだなと思っています」。

仕事が軌道に乗り始めたころ、尾木さんはさまざまな教育問題の調査・研究にも取り組み、教育評論家としての成果も上げていきました。なかでも熱心に取り組んだのが、いじめ問題。当時、一部の教育学者が「いじめは日本特有の問題だ」と論じていたのが気になり、なんと自費でヨーロッパ視察に出かけます。

案の定、海外でも日本と同様にいじめの事例が報告されており、帰国後、『いじめは日本だけで起こっていることではない』と公表して、文科省が開催した国際シンポジウムでも世界各国がいじめの実態を報告。こうして教育評論家・尾木直樹の名前は徐々に知られるようになりました。

「尾木ママ」の名付け親は
明石家さんまさん

尾木さんの名前を全国区にしたのは、やはり「尾木ママ」という愛称です。

事の発端は2009年の年末に「今年の教育界を振り返る」というテーマで尾木さんがテレビ番組に呼ばれたときです。多くの時間をかけて事前準備をし、1時間ほど番組内で教育の問題について熱弁をふるいました。

「そのとき、さんまさんから突然、『ママ!』って呼ばれたんです。最初は、誰のことだろう、と思っていたら、『あなただよ!』って指さされて。『え、僕がママ?』って(笑)。もう、本当にびっくりでした。

その部分は、番組の本題とは関係なかったので、放映されないだろうって思っていたんですが、放送を見たら、僕が一生懸命準備してしゃべったところはカットされて、『ママ』って呼ばれたところだけがしっかり使われていたんです(笑)」。

放送後、「尾木ママ」の愛称はあっという間に広がり、一躍時の人となりました。

「それまでは硬派な教育評論家のイメージでやっていたのに、もう、がらりと変わりました。

でも、ママと呼ばれることに全然抵抗はありませんでした。むしろ、ママらしくしようと、ブローチを付けたり、スカーフを巻いたり、お肌の手入れにも気を使っているぐらい(笑)。

講演会も、それまではホールの収容人数の半分集まればいいほうだったのに、尾木ママと呼ばれだしてからは満席になったり、何時間も前から並んでくださる人もいる。本当に、さんまさんには足を向けて寝られません(笑)」。

コロナ禍こそ子どもたちの話をしっかり「聴き」ましょう

教育評論家 尾木直樹さん

長年、教育に携わってきた尾木さん。コロナ禍での学校現場、とりわけ子どもたちの置かれた状況に、とても心を痛めているそうです。

「教育現場は大変な状況です。生徒主体で実践的な取組みをしている学校が、このコロナ禍で、授業や行事がすべてオンラインになりました。学校での実体験を伴う機会が激減し、『学校でこそできる学び』ができなくなっていて、そういった学びをどう確保するかが教育現場に突き付けられた課題です。

小さな子どもの場合はさらに深刻です。4歳から11歳という、“共感能力”を育む大事な時期に、人と直にふれあえなくなりました。またマスクをしているので相手の表情が見えにくい。これは未就学児の発達にとって大きな脅威。今後、どんな影響が出てくるか心配しています」。

そうしたなか、私たち大人が子どもに接するにあたって、どういうことを意識したらいいか、とうかがうと、

「子どもたちの話をしっかり『聴く』ことです。何かしてやれなくてもいい。『大変だったね。みんな辛いよね』って『共感』すること。そのうえで、『じゃあ、どうしたらいいと思う?』と聞いてみてください。子どもたちは、困難な状況にある当事者ですから、どうにかしたいと、きっといろんな意見を持っているはずです。

そこから、何か解決策が生まれるかもしれません。彼らの声を聴かず、大人が一方的に決めるのは一番やってはダメ。子どもも交えてみんなで知恵を絞り、考えてみて、それでもどうしてもできないなら、子どもたちは納得して出した結論をちゃんと受け入れます。こんなときだからこそ、子どもたちの声にとことん耳を傾けてください、と言いたいです」。

続けて、尾木さんは子育てに悩む親御さんたちにもこう話してくれました。

「家庭でも同じです。子どもを子ども扱いしないこと。家族の一員として、彼らの意見を聞き、その声を尊重してほしい。子ども扱いしないことから、子どもたちの意識も変わり、自然に行動も変わってきます」。

新成人は主権者の意識を胸に
日本の活力を取り戻して!

折しも、2022年4月から成年年齢が18歳に引き下げられました。これまで制限されていた法律行為の一部が、親の同意なく18歳から行えるようになります。尾木さんは、子どもを大人として認めることこそ成熟した社会のあるべき姿だと、成年年齢引下げを評価しています。

「成人になるということは、大人として、自らの意見や主張によって未来を切り拓くチャンスが増えるということ。そこは新成人になる18歳の人たちにしっかり自覚してほしいですね。どんどん自分たちの意見を表明して、若い力で日本の活力を取り戻してほしいです」。

ただし、親の同意なく金銭契約が結べるようになるため、消費者トラブルに巻き込まれる恐れがあるなど、心配な面もあります。

「成年年齢引下げを好機と、だまそうとする大人は手ぐすねひいて待っています。大の大人だってだまされるんだから、本当に気を付けてほしい。何を隠そう、僕も一度、詐欺にあってだまされちゃったんですよ。本当に言葉巧みでね…。

学習指導要領が改訂され、日本の教育の現場でも、金融教育が取り入れられてきていますが、現状まだ十分とはいえません。喫緊の課題は、まずは消費者トラブルに巻き込まれないための教育を重点的にやっていくことではないでしょうか。

そのあとで、家計や経済、資産形成といったお金を活かし育てることに関する教育に進めていけるといいですね。いずれにせよ、学校の先生だけでは限界があるので、学校は関係機関と連携し、出前授業を要請するなどして、きちんと金融の基本を生徒に学ばせるのが望ましいと思います」。

資産運用もしっかりして
夢に向かって頑張ります

金融教育が大事と語る尾木さんご自身、これまで少なからず金銭面で苦労をしてきた経験から、お金の大切さ、ありがたみは実感しているそう。現在は、しっかり資産運用も行っているといいます。

「実は数年前からアパート経営を始めたんです。コロナ禍で講演の機会が激減して収入が減っても、何とかしのいでいます。資産運用は本当に大事ですね」。

最後に、今年75歳を迎えた尾木さんに今後の夢や期待していることをたずねると、「もちろん、ありますよ」とニッコリ。

「平成27年まで運営していた『こどもの城』が新たな施設に生まれ変わる予定で、その館長になるんです。将来は世界最大規模の、子どもの遊びや都民のキャリア教育に関する学びの基地になれたら面白いなって思っています。完成予定は数年後。それまで僕もまだまだ頑張らないとね」。

「期待しているのは、設置の方針が示された『こども家庭庁』です。いじめ問題などでも、他省庁に対する勧告権をもつ官庁になります。国はこれまで以上に本腰を入れて子ども問題に取り組む体制を整備するでしょう。

子どもは国の宝、未来そのもの。子どもたちをどう育てていくのか、教育はますます重要課題になってきます。僕の目の黒いうちは、教育に関わり、そして発言をし続けていきたい。まだまだアクティブでないといけないですね」。

本インタビューは、金融広報中央委員会発行の広報誌「くらし塾 きんゆう塾」vol.60 2022年春号から転載しています。


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