金融教育フェスタ
金融教育フェスティバル2011
暮らしに役立つ講演会
講師 : 伊藤 元重 氏 (東京大学大学院経済学研究科 教授)
「大震災以降の私たちの生活とくらし~いざという時のためのお金の知識~」
私が学生に経済を教える上で心がけているのは「視野を広げてもらう」ということです。3月11日の大震災以降、原発事故や急速な円高などが次々と起きる中で、多くの方が「視野を広げることが大事だ」とお考えになっているのではないでしょうか。
経済学にもいろいろな思想があります。その1つに「創造的破壊」という考え方があります。非常に単純に言えば、経済というのは常に破壊を繰り返すものであり、破壊がなければ新しいものが生まれないということです。しかし、この「創造的破壊」という視点を近年、世界は重視していませんでした。日本は1990年代末に深刻な金融危機に見舞われましたが、世界経済全体で見ると1990年~2008年までは安定していたからです。ところが2008年、リーマンショックが起き、世界経済は今も厳しい状況にあります。やはり資本主義経済は破壊を繰り返す面を持っており、一人ひとりは経済危機が起こった時に対応できるような心の準備が必要だと思うのです。そのためにも、世界の経済について広く見ておくということが非常に重要です。
過去10~15年の日本経済は、消費者も企業も政府もデフレにどっぷり浸かってしまいました。日本人は平均で可処分所得の約4倍という驚くべき金融資産を持っています。企業も設備投資や人件費を抑え、お金を使いません。そして金融機関には、貯蓄としてお金がどんどん集まってきますが、リーマンショック後、金融機関は投資に消極的です。そこで、赤字財政の政府がどんどん発行する国債を、金融機関がどんどん購入する、という状況になっています。しかし、このデフレもずっと続くわけではないはずです。10年、20年という単位で見ると、経済には常に大きな転換点がやってきます。その変化に対応するにはやはり、広い視野で経済を見て、勉強することが大切だと思います。
プロフィール
総合研究開発機構(NIRA) 理事長、財務省の政策評価の在り方に関する懇談会メンバー、関税・外国為替等審議会会長、公正取引委員会独占禁止懇話会会長。
著書に『入門経済学』(日本評論社、1版1988年、2版2001年、3版2009年)、『ゼミナール国際経済入門』(日本経済新聞社、1版1989年、2版1996年、3版2005年)、『ビジネス・エコノミクス』(日本経済新聞社2004年)、『ゼミナール現代経済入門』(日本経済新聞社2011年)など多数。