金融教育フェスタ
金融教育フェスティバル2011
教員向けセミナー 大学分科会<1>
講師 : 川邊 淳子 氏(北海道教育大学教育学部 准教授)
「金融教育ができる教員を養成しよう~北海道教育大学と北洋銀行のチャレンジ~」
実践報告
北海道教育大学と北洋銀行の地域連携によるプロジェクトについて報告します。北海道教育大学における金融教育の教員養成講義は、現代を読み解く科目群、子どもに関する科目群の中に設置しており、札幌・旭川・釧路の3つのキャンパスでの共同授業となっています。北洋銀行の協力を得て、金融教育に関する講義を2010年に初めて実施しました。本来、学習したことを定着させるためには毎週の講義が望ましいのですが、初年度は、夏休みにおける集中講義ということにしました。距離的にも離れているキャンパスを繋ぐ講義ですので、TV会議システムを活用しています。学生は直接、講義を聴いたり、TV回線を通じて参加したりします。
当初は、将来、金融教育を行うことができる学生を育てるという目的を掲げていましたが、対象が1~2年生であり、教育現場での実践経験がない学生にとっては、指導案自体を作成することが非常に難しいため、実際を知るということに内容をややシフトいたしました。大学教員と小・中学校の現職教員が分担して、オリエンテーションで金融教育の全般的な説明をした後、小学校では生活科と社会科、中学校では社会科と技術・家庭科、高校では家庭科での金融教育を考える内容にしました。
学生たちは当初は、金融教育は家庭科ではなく、社会や総合で扱うのが一般的であろうと考える傾向にありました。また、金融という言葉に馴染みがないという学生もおり、楽しいものとは思えないという意見もありました。学生にとってはとっつきにくいという印象が強かったようです。しかし授業後には、金融というものは決して難しいものではない、学び方によっては面白くもなる、楽しい内容にも変わってくるし、何よりも大切だと言う声が非常に増えました。金融は社会に出てから学ぶことではなく、学校教育の段階から教えるべきだと、学生に認識してもらったことが大きな収穫といえます。
ワークショップ
ワークショップでは、大学における金融教育のカリキュラム作りを考えました。大学生向けに金融教育を実施するにあたり、いかなる教育的課題があるか、どのような教育が必要か、授業内容や構成、指導方法をグループに分かれて検討し、発表しました。その中で「金融機関の方を招いて住宅ローンを組む相談をしてみるなど、擬似体験やワークショップを通して、金融や経済活動を学んでもらいたい」、「消費者トラブルに巻き込まれた場合どこに相談すればよいのか、リスクやお金の管理、保険、投資など、基本的な知識を大学生である間に身につけるべき」、「事実上、世界の共通言語となっている英語を通して、経済や金融を理解できるようになることが必要」などの意見が聞かれました。
教員向けセミナー 大学分科会<2>
講師 : 小関 禮子 氏(帝京大学教職大学院 准教授)
「大学の教職課程における金融教育」
もともとは長く小学校の現場におりまして、最後の10年間は小学校の校長として2つの学校で消費者教育を行ってまいりました。今の子どもたちにとって消費者教育はとても大事です。それは主体的な判断力を養うことができるという点でもそうですが、物もお金も人との関わりや繋がりを抜いては語れないという意味で、本当に大事なことだと思っています。
現在、大学では「小学校家庭科の指導法」という講義において、今年度からの新学習指導要領の全面実施によって小学校でも指導することになった「消費生活と環境」についてどのように授業をするのかということを取り上げています。具体的には(1)物や金銭の使い方と買い物を指導する、(2)環境に配慮した生活の工夫について指導する、といった内容です。学習指導要領にあるから指導するというのではなくて、子どもたちに消費者教育・金銭教育を行うことが大事だということを学生がきちんと捉えて、将来、教えられるように指導しています。
重要なのは、子どもたちの思考力、判断力、表現力を育てることを重視することです。特に、金銭あるいは金融教育・消費者教育は、ハウツーを指導するものではありません。主体的に判断し行動する消費者を育てるということ、それを狙ってどのように教材を組み立てるかということを、学生に考えさせています。授業では、狙いに即して、紙芝居・劇・ロールプレイングなどの具体的な指導案を、学生が考え、工夫してきますので、それを発表させています。
授業の中で、学生は子どもたちの実態を知り、それに対し非常に厳しい目を持ちながらも、実は自分自身の消費生活も見つめています。そして自分も同じだ、自分もお金に関する教育を受けていなかったと認識するのです。大学で子ども達の実態について知る機会があると、金銭や金融についてやはり小さいときからきちんと指導する必要があるのだということを学生がよく理解するように思います。つまり、この授業には、小学生への指導を工夫させながら、学生たちが自分自身の消費生活の実態を捉え直すという効果もあるのです。
ワークショップ
「小学生に金銭教育の指導を行うとしたら、どんな授業をするか」をテーマに、子どもたちを巡る消費生活の問題点を考えたり、それを扱った4コマ漫画にタイトルを付けてみたりしながら、大学3年生に対して行っている授業を体験しました。子どもたちを巡る消費生活の問題点としては、「ものに名前を書かなくなった。失くしても気にしない子どもが増えた」、「電子マネーなど見えないお金が、きちんとした教育をされないまま子どもたちの生活の中にも浸透している」などが挙げられました。
また、小関先生は、「夜遅く居酒屋で子ども連れを見かける」、「ブランド物を持っていたり、化粧品、プチ整形、ネットショッピングなど大人と同じ消費生活が浸透しつつある」といった現状を踏まえて、保護者にも「お金に対する考え方は生き方に関わる」ということを繰り返し説明することで、理解を得ることができたと述べられました。
教員向けセミナー 大学分科会 総括
講師 : 上村 協子 氏(東京家政学院大学現代生活学部 教授)
将来を見通した生活設計能力が注目されています。平成23年3月に文部科学省が、大学における消費者教育について「指針」を発表しました。金融教育が取り組んできた生活設計能力は、危機回避能力・問題解決能力の育成とともに、消費者教育の目的の基本部分で挙げられ、2.倫理的な消費者、3.持続可能な社会づくりに貢献できる消費者へと繋がっています。
本日のセミナーで、学生たちが金融教育や消費者教育の大切さを知ると卒業後もそれを大事にしていくこと、大学はそういう学生を育てていく場であるという認識が共有できたと思います。今日の社会では、ネットオークションなどで大学生は被害者になる可能性があるのみならず、簡単に加害者になる危険もあります。私たちがこれまで真摯に金融教育・消費者教育に取り組んでこなかったことが、現代の社会生活の浪費の原因となっているのではないかと反省しています。
金融の仕組みをきちんと知り、金融を核にした消費者教育を進めることは、持続可能な社会を形成していくという合意づくりにつながっていくのではないかと思っています。世代間に負の連鎖を起こさないためにも、大学で金融教育が進展していくことに切なる期待を持っております。今日のような金融危機の時代には、リスクマネジメントが社会や企業から求められています。これからはそういう知識・見識を持った人間が社会に輩出され、活躍していくことを願ってやみません。
プロフィール
昭和55年
お茶の水女子大学大学院 家政学研究科修了 家庭経営学専攻修士
平成13年
東京家政学院大学家政学部教授 大学院人間生活学研究科教授
平成20年
東京家政学院大学家政学部長
平成21年
東京家政学院大学現代生活学部教授
生活経済学会理事
文部科学省消費者教育推進委員会委員
高等学校学習指導要領解説家庭編作成協力者
金融広報中央委員会委員
生命保険文化センター理事
報告書
・現代家政学視点による消費者教育の体系化(大学高度化推進特別経費)
・生活主体形成のための金融教育ライフマネジメントプログラム(大学高度化推進特別経費)
・若者の生活設計および金融教育のための家計調査方法の開発
・相続にみる女性と財産-家計資産の共同性とジェンダー(科学研究費)
著書(共著)
・規制改革と家庭経済の再構築 (建帛社)
・多様化するライフスタイルと家計-生活指標研究-(建帛社)