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おかねのシンポジウム2004

『地元発信。元気な未来はみんなでつくる』

スピーチ 河合隼雄(文化庁長官)

河合隼雄

私の人生はいろいろ思いがけないことが起こるのですが、今日は全く思いがけなく、日銀の福井総裁の後に話をすることになりました。こんなことは夢にも考えませんでした。

もう一つ思いがけないことが起こったのは、日銀の総裁なんていうと侃侃(かんかん)の人だろうと思ったのが、なかなかお話が上手で、開けていて、次の文化庁長官になってもらったらいいんじゃないだろうかと思った次第です。総裁は「お金に一番近い」と言われましたが、考えてみると、「お金に一番近い人」と、「一番遠い人」と組み合わせたらどうなるのだろうか、というので私が選ばれたのではないかと思いました。


今日私がここに呼ばれて来たと言うこと自体が、時代の状況を反映していると思います。どういう状況かというと、お金は大切だと言われましたが、日本人は大変頑張って経済力を高めて、経済的に大成功して、世界でも誇れるようになっていたところが、バブル経済の崩壊ということになって急に落ち込んできて、なんとなく、日本中が落ち込んだような気持ちになっている。そういうときに、経済の力だけじゃなくて、もう一つの力と一緒になって、この日本の国が進むべきじゃないかということに皆さん気がついて来られたかと思うのです。

私が文化庁長官になったときに強調して申し上げたのですが、これからの日本の国は経済力だけじゃなくて、文化力(ぶんかりょく)ということも一緒にして車の両輪のように頑張っていかねばならないと思います。そういう意味で、私がここに呼ばれたのではないかと思います。

私は車の両輪と申しましたが、文化をあまり強調する人は、文化は大事だ、お金のことは考えないとか経済のことは考えない方が良いといいますが、私はそうは思いません。両方大事だと思います。お金のことは考えないという人に限って随分一生懸命に考えているような気もします。

けれども文化もお金はすごくかかります。文化っていうのはお金がかかるもんです。それに、先ほど「いきいきとお金を使う」と言われましたが、その通りじゃないでしょうか。そのお金を使うことによって、われわれの人生がどれだけ豊かになるか、どれだけ元気になるか、と思います。

このことの例としてよく申し上げているのですが、実は今、日本芸術文化振興会の理事長をしておられますサントリー顧問の津田和明さんという方がわれわれの文化審議会で話をされたことが印象に残っています。

この津田さんは、例の9.11の事件のあったすぐ後にニューヨークに行かれたらしいです。そして現場に行くと、泣いている人がたくさんいる。すごい被害状況ですから。そしてまわりもみないろいろやられて、沈んだ顔をしている。それを見たときは、もうニューヨークもこれでだめになるんじゃないかなとそれほどの気がした、と。

ところが、夜になってブロードウェイ行ったら、全然感じが違うぞ、と。結構みんなきれいな服を着て、そして有難いことに、ブロードウェイは、ニューヨークだけじゃなくて世界中の人が来ますね。世界中の人が来て、にぎやかにして、そして、ミュージカルを楽しみ、レストランに入って美味しいものを食べて、ワーッとやっている。

その姿を見たときに、ニューヨークはあんなことで潰れない、と思った、と。ビルが倒れて大変だけれども、文化的な活力をこれだけ持っていると。これは大丈夫と思った、ということを言われたので、私は大変印象に残っているのですが、経済力と文化力と両方あってこそ栄えるんだ。

私は文化庁の長官になったときに、「文化ということで日本中を元気にしよう。日本人は経済的に行き詰って暗くなっているけれども、これを文化の力で明るくすることで、経済も一緒に活性化するのではないか」ということを言いました。

そしてもう一つ言いましたのは、日本人は、不況とか大変だと言っているのですが、実際は先ほどのお話にもありましたようにお金を持っておられる高齢者の方がたくさんおられるんです。今日は、高齢者の人がだいぶおられますが、実はお金をたくさん箪笥に入れておられるんじゃないかと思います。

高齢になってお金を持って、そして結局は歌舞伎も観たことがない、オペラも聴いたこともない、温泉にもあまり行っていない、そしてないないづくしで死んでどうなるのかなと心配になってくるんですけれども、そういう風なことを新聞記者に言ったらそのまま書かれまして、今度の長官は面白いと言われてしまいました。

皆さん、やっぱり、もう少しお金を生きた、つまり自分が生きてるぞ、というか、豊かになったぞというか、楽しいぞというか、そういうことに使おうじゃありませんか、それは結局は経済的な活性化にもつながって来ると思うのです。

それは人がいろいろと動きますし、やっぱりコンサートに行ったとしても、それだけじゃなくて、あとで飲んだり食べたりもするでしょうし、ちょっとは上等な服も着てみたいし、というんで何か動きが出てくると思うんです。そういうことで、「日本人は、本当はまだまだ豊かな経済力を持っているんですから、それを使って、日本中が元気になればどんなに楽しいだろう」ということを申し上げました。

そして、もう一つは今日の話題にも出ると思いますが、お金を使うこともそうですけれども、「文化的なボランティアということをもっとやったらどうだろう」ということを言いました。そうしましたらすごく反応がありまして、今、日本中に文化的なことでボランティアをやっている方はすごく増えてまいりました。この中にもたくさんおられることと思います。

そういう風にして、文化ということを一つの柱として頑張っていきたい。文化力ということを申し上げているわけですが、最近関西の方に行きましたら、文化力(ぶんかりょく)のことを、「長官、ブンカリキで頑張りましょう。」というわけですね。関西の人にはそう言う人があるんですが、そっちの方が「力(リキ)」があるみたいな感じもするので、これから僕も「ブンカリキ」と言おうかと思うくらいですが、「文化力(ぶんかりょく)」で頑張りたいと思います。

今日も、おそらく、経済、お金のことと、お金を使うこと、あるいは、お金を生かすことという中で、文化ということが両方相俟っていろいろ話し合いに出てくるだろうと思いますし、皆さんも、そういうつもりで自分の人生を見て頂けたら大変有難いなという風に思っています。

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