金融教育フェスタ
金融教育フェスティバル2009
教員向けセミナー 実践報告<1>
冨岡 浩二氏 (愛知県立春日井商業高等学校 教諭)
「生きる意欲と活力を持ち、自立した消費者であるために
-消費者教育・キャリア教育を中心とした金融教育を通して-」
ビジネスプランから仕事、融資、税金、金利まで幅広く
本校は平成20年度と21年度の2年間、研究委嘱を受け、金融教育に取り組んできました。1年目は、3年生の課題研究として金融教育に関連する少人数の講座を複数開設するとともに、商業科目の中でも金融に関する研究を進めました。さらに、3年生全体を対象とする金融講話やシンポジウムを開催し、金融に対する意識を高めてきました。2年目は商業科だけでなく、社会科、数学科においても金融教育を実施するとともに、11月20日に公開授業も実施しました。
私は「生きる力」を「トラブルにあった時に困惑しない力を持つ社会人」という意味で使っており、本校は消費者教育、キャリア教育、基礎的計算能力養成の3つに重点を置いて金融教育を進めてきました。例えば課題研究では、地元の信用金庫から講師を招き、「起業家になろう」という講座を開きました。ここでは生徒が雑貨屋、本屋、喫茶店、ネイルサロンの開業など、自分たちなりのビジネスプランをつくり、ロールプレイングをしながら、「融資を受けることが可能か不可能か」などのやりとりをしています。「24歳になったら結婚して…」などといったライフプランに関わるお金の流れを表にして考える授業も行っています。
2年目はファイナンシャル・プランナー(FP)講座を開設し、FP技能士3級資格の合格を目指したり、税務署から講師を迎えて租税教室も開きました。この講座では、「法律の言葉が出てきて難しい」という生徒の声が多かった一方、「税金や保険にかかるお金のことを知り、無駄遣いはいけないと思った」という感想も聞かれました。
また3年生全体に対する講話は、フリーターと正社員の賃金の違いや金融トラブルなどをテーマにしました。金融トラブルに関しては、好感度の高いタレントが消費者金融の広告に出ていると消費者金融に抵抗感がなくなってしまうことに意識を向けた後、金利に敏感になろうと、「一日コーヒー一杯の金利で10万円を融資します」という広告を検討しました。コーヒー1杯を300円とすると、1日の利息は0.3%で、1年では109.5%というとんでもない数字になります。これなども基礎的計算能力を高める重要な演習といえると思います。
金融教育の結果をもとに、近くにある北城小学校に生徒たちが出前授業をしました。当日の授業をクイズ形式で進めたところ、小学生が盛んに手を挙げてくれるので「うれしかった」という声とともに、「教えることで、自分たちの金融知識が深まった」という感想もありました。これからも金融教育には継続的に取り組んでいきたいと思っております。
教員向けセミナー 実践報告<2>
坂井 辰美氏 (愛知県一宮市立奥小学校 教頭)
「地域・保護者と連携して進める金銭教育」
自立して生きようとする子の育成、教員の授業力向上にも成果
本校は生徒数が900名を超え、教員が45名ほどの学校です。教員の半数が50歳代であり、40歳代、30歳代各5名のほかは20歳代で、一宮市内では典型的な年齢構成の学校です。そのような学校で、平成20~21年度の2ヶ年にわたり、研究委嘱を受け金銭教育に取り組んできました。
委嘱を受けた当時、教員は金銭教育についてほとんど知識のない状態でした。そこで金融広報中央委員会の各種資料をもとに検討し、本校として、金銭教育を通して育てていく児童像を「自立して生きようとする子」としました。そこで目ざしたのは「自分の考えを持てる、自分の考えを表現できる、自分の生活、社会や将来について考えを持てる子」です。ただ、保護者や地域社会にも金銭教育に対する戸惑いがあり、「金銭教育をやるくらいなら、基礎的な学力の向上を図って欲しい」という保護者の意見もありました。
そこで、公民館活動の講師を引き受けるなどして、金銭教育の必要性を説明し、理解していただく努力をしました。実践では、家庭との連携を図ろうと、1年生には食育を通して食べ物を大切にする心や、食事をつくってくれる親、調理員の方々に対する感謝の気持ちを育み、これをもとに、金銭教育の目標に迫ろうとしました。
また、これまで節度、節制、自立、勤労に重点を置いた道徳の時間に、生活科や社会科で学習した働く人々の工夫などを、自分のこととして考えてみることができるように、教科の連携を図りました。併せて、道徳の時間では多様な価値に触れることで、自分の考えを振り返らせるようにもしました。
特に5年生には、「将来のぼく わたし」という6時間の単元を新設し、以下のような取り組みを行いました。1週間、目標を持って生活し、1週間後にその結果を話し合う。12年後に大学を卒業し職業の選択を迫られる頃を想像して、将来の自分の姿を書き出す。夢を実現させた具体的な人物について調べる。その具体的な人物だと生徒が考える、野球選手のイチローや担任教師などの生い立ちから現在までを年表にまとめる。自分の夢をかなえる計画を立て、そのために何が必要なのかを時系列に並べる、などです。この授業では、銀行員の方をゲストティーチャーとして教室に招き、夢をかなえるための金銭面の裏付けや仕事に対する心構えなどを話していただきました。
こうした金銭教育を通じて、本校としては「生徒が自分の考えを持ち、少しずつ各自の価値観を形成しつつある」、「自分で判断する力が育ってきた」という評価をしています。
同時に、ともすればこれまでの経験に安住しがちなベテランの教員が教育方法を見直す良い機会である一方、若手の教員にとっては、2度にわたる公開授業を目標に、授業力の向上に取り組むなど、金銭教育には教師の力量を高める絶好の機会としての意味合いもあります。