金融教育フェスタ
金融教育フェスティバル2009
教員向けセミナー 実践報告<1>
島村 孝氏 (徳島県阿南市立平島小学校 教諭)
「起業教育から金銭の多面的価値を考える」
~「株式会社 ナカちゃんプロジェクト」のCD販売を通して~
自己決定力、生きる力が育ち、不登校児も欠席ゼロに
私は総合的な学習の時間が本格実施された2002年度より毎年、学校で株式会社を起業し、金融、金銭に係わる学習を進めてきました。4年生担当の時に取り組んだのが「ナカちゃんプロジェクト」です。前年の11月に一匹のアゴヒゲアザラシ「ナカちゃん」が阿南市を流れる那賀川に出現しました。そこで子どもたちと、いつまで那賀川にいるかの追跡調査を始めるとともに、アザラシに関する勉強をしたり、那賀川に来るまでのお話やカレンダー、4コママンガなどをつくっていきました。
この子どもたちが書いた手紙がきっかけとなり、北海道・旭川のお菓子会社が、販売する「ゴマフアザラシサブレ」のパッケージを変更するようになったことがインターネットで話題を呼び、ラジオやテレビで放送され、メディアのすごさと怖さを実感しました。
こうしてナカちゃんに対する思い入れが深まり、私は夏休みに「ナカちゃんの詩に曲をつける」などの課題を出しました。
ところがナカちゃんが夏休みの終わる3日前に死んでしまい、子どもたちは「ナカちゃんを語り継いでいこう」とCDを制作することを決めました。同時に私は起業する時の恒例で、営業、宣伝、製造の3つの事業部をつくりました。子どもたち一人一人の個性を生かすことができるからです。
こうして子どもたちはジャケット、ケース、印刷、資金調達などの課題を分担しながら、音楽室で一発録りをしてCDを制作。損益分岐点を考えて定価を決め、道の駅と地元の7書店で販売しました。結果は600枚以上売れ、17万円弱の利潤が生まれ、車イス3台を社会福祉協議会に寄付、お世話になった人にケーキで御礼をするとともに、全国骨髄バンク推進連絡協議会にも寄付し、校内の中庭にナカちゃんの御影石の歌碑も建立しました。
起業で育ったものは、子どもたちの自己決定力、生きる力、いろんな場面で能動的にカジを切る力などで、3年間109日間休んでいた子どもが製造部長になって、その1年間は欠席ゼロでした。この実践をより多くの人に伝えるため、私は『不登校からの奇蹟の脱出』という本を書きました。金融教育には保護者への学習の狙いの説明、校内外の協力なども欠かせません。
教員向けセミナー 実践報告<2>
田村 光宏氏 (滋賀県立大津商業高等学校 教諭)
「生徒自主開発商品「オリジナル鞄」の開発・販売」
~近江商人の「三方よし」を実践し、お金を得る喜びを体験しよう~
お金の使い方、儲け方は「人々の幸せに貢献する」を基本に
当校は生徒数825人の商業高校で、生徒は地元に伝わる近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」の理念を1年生の三学期に学習します。「三方よし」の精神は最近、企業の社会的責任・貢献という意味で使われるCSRに関連して言われることが多いですが、私たちは「適正価格での販売」ととらえています。それは、適正な物価水準の点からもプラスであり、値段を抑えて、たくさんのお客さんに喜んでもらうという薄利多売にもつながります。
この「三方よし」の理念を生かしたいと取り組んでいるのが3年生の課題研究で、12の講座を設け、月曜日2時間、金曜日1時間、実施しています。「オリジナル鞄」は、この12講座の1つである「ベンチャービジネス講座」の自主開発商品として、平成18年度に開発されました。
ほかに自主開発商品としては、17年度の当校創立100周年を記念したストラップ、19年度のオリジナルタオル、クッキー、20年度のポロシャツがあります。
「オリジナル鞄」は黒とグレーの2種類で、まず、全校生徒に「鞄を買いたいか」「いくらで欲しいか」などのアンケートをとり、生徒自らインターネットで製造業者を探して、デザイン、生地、サイズ、コストなどを業者と交渉するとともに、資金として、生徒会から5万7,250円を借りました。一方、教師は製造業者に「生徒ではなく、一業者として厳しく対応して欲しい」と要請しました。
こうして販売価格を薄利多売の精神から損益分岐点の3,125円を少し上回る3,150円と設定。注文書をつくり、サンプル展示して、先に代金をいただいて鞄を仕入れ、商品の引き渡しをしました。収支報告書によれば、利益は7,495円しか出ませんでしたが、ある生徒は「皆に喜んでもらえて良かった」と感想に書いていました。
商業教育、金融教育の実践に当たり、私たちは、お金の使い方、儲け方は、人々の幸せに貢献するという考え方を基本にすべきだと教えていきたいと思っています。