金融教育フェスタ
金融教育フェスティバル2009
教員向けセミナー 講話
講師 : 工藤 文三氏 (国立教育政策研究所初等中等教育研究部長・教育課程研究センター基礎研究部長)
「学校における金融教育の効果的な進め方」
生活と金融、経済のつながりを視点に、健全な金銭感覚の育成を
本日は金融教育・金銭教育を、どういう発想、着想、組み立て方で進めるかというお話をしたいと思います。金融広報中央委員会がまとめている『金融教育プログラム-社会で生きる力を育む授業とは-』をお読みいただくと、金融・金銭教育の概要がわかるようになっておりますが、金融教育以外に〇〇教育と言われるものに、公害教育、消費者教育、環境教育、食育などがあります。これらはいずれも公害対策基本法、消費者(保護)基本法、食育基本法、環境基本法などの制定に伴い、学習指導要領に入ってきています。金融・金銭教育には、そういう基本法はありませんが、こうした〇〇教育と同じように、社会の変化に対応して必要な能力を養うという目的で、取り組みが深まっています。
しかし、金融・金銭教育は「これをやれば金融・金銭教育になる」というものが、なかなかイメージできない点で、環境教育、消費者教育と似たような課題を背負っています。そこで、『金融教育プログラム』ではさまざまな教科等の授業に金融・金銭教育の視点を盛り込むことが重要だとしています。例えば、小学校中学年の社会科では、商店の見学をする時に、お店には全国から届いた商品が並んでいて、お店には全国とつながった流通・販売の機能があることを考えさせたり、各家庭の買い物を調べて、消費を考えるといったようにです。社会科や家庭科は、このように金融・金銭教育の視点を取り入れやすいのですが、国語でも、お金を題材にした文章を教材として取り上げることで金融・金銭教育を行うことができます。
金融教育と金銭教育の違いについては、金銭教育はお金に関する教育であるのに対して、金融教育には社会的な側面が入ってきます。小学生でしたら、お年玉を銀行に預けたが、銀行は預かったお金を人や企業に貸すとか、中学生でしたら、お金を借りて家を買ったとか、車にもローンがあり金利もあるなど、家庭の生活と金融、経済の機能がネットワークのようにつながっていることを学ぶということになると、金融教育になってきます。
金融・金銭教育には多重債務、法定利息など法律に関わる面もあり、難しいという印象もありますが、子どもの発達段階に合わせて対処するとともに、専門家の方を招いてお話を聞くことも行われています。
『金融教育プログラム』では金融教育を、「お金や金融の様々なはたらきを理解し…」と定義しています。この様々なはたらきとは何なのかを考えていくと、金融・金銭教育で扱う内容が見えてくるのではないでしょうか。
『金融教育プログラム』における金融教育の定義は「自分の生き方や価値観を磨きながら…」と続きますが、この価値観とは「健全な金銭感覚」という意味を含んでいます。金銭感覚は収入に応じて変わるかもしれませんが、自分をコントロールできる力、金融リテラシー(能力、センス)を培うことが、金融教育の重要な役割の一つだと思います。
金融教育には生活設計・家計管理、経済や金融の仕組みに対する理解を深め、金融トラブルを未然に防ぐ力を身につけることに加えて、キャリア教育にもつながる幅の広さがあります。金融広報中央委員会が発行する『これであなたもひとり立ち』、『きみはリッチ?』なども活用して、金融教育に取り組んでいただければと思います。
プロフィール
昭和53年
公立高等学校教諭
平成2年
国立教育研究所教科教育研究部主任研究官
平成3年
同 教科教育研究部公民教育研究室長
平成9年
同 教科教育研究部教科教育開発研究室長
平成13年
国立教育政策研究所教育課程研究センター
基礎研究部総括研究官
平成17年
同 初等中等教育研究部長
平成21年
同 (併任)教育課程研究センター基礎研究部長
平成18年4月
金融広報中央委員会金融教育プログラム検討委員会委員
~19年3月
平成18年
日本社会科教育学会副会長
~現在
平成20年
日本公民教育学会会長 ほか公的委員多数
~現在
著書
「教育改革対応小学校教育課程のマネジメント解説」
(編著)明治図書、平成19年
「新時代を拓く社会科の挑戦」
(共著)日本社会科教育学会出版プロジェクト編、
第一学習社、平成18年 ほか多数
