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はじめての金融教育-ワークシート付き入門ガイドと実践事例集-

1.金融教育入門ガイド

(3)中学校(技術・家庭<家庭分野>)における入門ガイド

賢い消費者になろう ロールプレイング
~いろいろな販売方法を知り、適切な選択、購入の態度を身につける~

石川県能美市立根上中学校 朝倉京子教諭


<2>金融教育に取り組む先生方へのメッセージ

インタビュー

これから金融教育を取り入れてみようとお考えの学校の先生方のために、さらに詳しく朝倉先生のお話を伺いました。

Q.1 「賢い消費者になろうロールプレイング」の実践を思いついたきっかけや経緯を教えてください。

A.1

教科書の「ともに生きるわたしたち」の「消費と環境」のところで家庭生活についてずっと扱ってきましたが、6年前に根上中学校にいたとき、金銭教育研究校を引き受けることになりました。そこで、何か、生徒も楽しい、体を動かす授業を、と考え、ロールプレイを導入することにしました。

家庭科では、保育など他の単元でロールプレイは行われていましたが、商品選択のロールプレイを見たことがあったわけではありません。他にカードを選ぶゲームなどもありますが、ロールプレイはグループで話し合ったり、皆で演じて評価し合ったりするので、全員が参加することができ、効果的だと考えました。また、悪質商法についての学習でロールプレイを取り入れることもできますが、騙す側の演技を子どもたちにさせたくなかったため、日常生活の中の商品購入の場面を扱うこととしました。そこでは、売る立場の人も一生懸命売っていて、消費者もまじめに商品を選んでいます。そのような場面で起こりやすいトラブルを扱えたらと思いました。

Q.2 この授業を展開される上でどのような工夫をしてこられましたか。

A.2

6年前にこの実践を始めたわけですが、2年目から代表的な販売方法として、店舗販売、通信販売、訪問販売について、利点を取り上げる班と問題点を取り上げる班に分けることにしたところ、上手くいくようになりました。1年目は、各班で利点も問題点も両方扱ったところ、これは上手くいきませんでした。

班ごとに利点(または問題点)を挙げ、それを取り入れたシナリオを作り、先生に添削してもらった上で演じる、という手順です。問題点と利点それぞれ最低4つは取り上げるようにさせています。例えば店頭販売の問題点では、営業時間の制限がある、駐車場がない、しつこい店員がいるなど、子どもたちもいろいろと気づきます。

今年はじめて、家族に問題点や利点を聞いてくる、という宿題を出し、視点を広げようとしましたが、宿題をやってこない生徒もいて、成功したとはいえません。

Q.3 この実践を始められた当初、課題や問題点となった点はありませんでしたか。

A.3

第1に、利点と問題点の両方を一つのシナリオに入れようとした初年度は上手くいきませんでした。

第2に、最初の3年間は Tシャツのみにしていました。一つの商品に絞ると比較しやすいメリットがありますが、Tシャツの訪問販売は実際には行われておらず、3つの主な販売方法について取り扱う際に、現実味が乏しい面がありました。その後、商品も自分たちで考えさせることにしたところ、扇風機、薬など、いろいろとアイデアが出て、状況設定も具体的になり、上手くいくようになりました。薬については、この地域(石川県能美市)では、置き薬が今も各家庭にあり、子どもたちもイメージがもちやすいようです。

第3に、班の中での役割分担に偏りが生じる傾向がありました。活発な生徒が率先してシナリオをどんどん作っていきますので、あとで配役を決めると、せりふの少ない役ができたり、おとなしい子の出番が少なくなりがちでした。この点に関する対策として、今年から、班の中での役割り分担を予め決めた上で、シナリオを作らせることにしました。すると、おとなしい子も積極的にシナリオ作りに参加するようになり、改善されつつあると思います。


ワークシート2「消費生活について考えよう3(3)(シナリオ作成用紙)」

ワークシート2「消費生活について考えよう3(3)(シナリオ作成用紙)」(PDF 31KB)

Q.4 実践に当たって参考にされたアイデアや他の実践事例などはあったのでしょうか。

A.4

ロールプレイは保育などについて見たことがありますが、この実践を行うに当たって参考にした実践や文献は特にありません。
参考文献ではありませんが、消費生活の単元の指導をする上では、石川県の『消費生活ハンドブック』は大変便利なので、取り寄せて使っています。以前は特に請求しなくても頂けたのですが、最近はさすがにそのようなことはなくなり、お願いして送ってもらっています。
また、直接参考にしたわけではありませんが、石川県は、加賀、金沢、能登、根上と県内を4地区に分けて家庭科研究会の活動を行っています。県大会は4地区回り持ちですので、すぐに県大会の担当の順番も回ってきます。7年に1回の東海北陸大会も経験しました。根上地区は3名なので逃げも隠れもできず、発表も頻繁に回ってきますし、公開授業も苦にしておりません。こうした機会を得て切磋琢磨することも、実践の工夫に役立っているかと思います。

Q.5 この実践を今後導入されようとする方にとって課題となりうることとしてはどんなことが考えられるでしょうか。また、その課題を乗り越える方法としてどんなことが考えられるでしょうか。

A.5

ポイントは、時間を取れるかどうかだと思います。この授業では、初年度は7時間を当て、近年は11時間をかけて行っています。参加型の授業を取り入れたいと思っても、まとめや確認に十分な時間が取れないと、時間がかかるわりに知識が定着しないということになりかねません。先生方が心配するのもそのような点ではないでしょうか。

この実践を7時間で行っていたときは、生徒を放課後に残さないと、シナリオの添削ができず、近年11時間に増やし、授業時間内にこうした指導もできるようになって、効果が上がるようになりました。正直なところ、シナリオも教師が目を通して手を入れないと、焦点が絞り切れず、論点もあまり明確になりません。

さて、11時間を消費生活に当てるためには、家庭科の1年間の授業時間数88時間のうち、他の部分で時間を捻出しなければなりません。私の場合は、調理実習も被服の製作も行っており、どこを省略しているというわけではありません。とはいえ、被服の製作の前に段階見本(製作の各段階ごとまで作った見本)を作っておくことにより、生徒の理解を早める工夫をしています。また、調理実習の説明を実習の冒頭に手短かに行うことにより、時間を節約しています。実際、家庭科は週に1回しかありませんので、前の週に説明しても生徒がほとんど忘れてしまいます。そういう意味でも合理的な方法かと思います。

Q.6 指導案を作成する際に、どのような工夫をされていますか。

A.6

(1)ワークシートに記入する際に、生徒が気づいたことは「えんぴつで」、教師の板書や指摘は「ペンで」書くように指導しています。このようなきめ細かい指導をすることで、生徒自身も振り返りやすく、理解も深まります。

(2)また、販売方法を単純に3つに分類しています。もっと詳しく見れば、通販にもインターネット通販、カタログ通販、テレビ通販と大別して3種類がありますが、あまり細かく分ける必要もないので、通販は一括りにして、問題点やシナリオを考える時に生徒に選ばせるようにしています。

(3)評価シートでは、3つの販売方法の良い点と悪い点の合計6つの項目について、表「いろいろな販売方法」に記入させています。また、次の項目で、よく演じられた人、自己評価(参加、理解度)を書かせています。このように、具体的な記入項目を示すことで、真剣な取り組みを促すことができます。

ワークシート1「消費生活について考えよう3(1)(各販売方法の利点と問題点)(PDF 293KB)

(4)役割りを表すカード、薬の箱、宅配便屋の帽子など、ロールプレイを盛り上げるグッズを用意します。首からかける役割りカードは最初の年から私が用意しましたが、薬の箱や宅配便屋さんの帽子などは、生徒が持ってきます。


Q.7 実践を行ってみて、生徒たちの反応はいかがですか。

A.7

授業のねらいに迫ることができるように十分な支援が必要ですが、生徒は大変意欲的です。興味・関心が高いと理解が深まり、定着も良いので、この実践を導入して良かったなと思っています。

なお、根上中学校は、前任の安宅中学校より学級数が多く、1学年5クラスです。したがって、この指導をする際には、5クラス×6班=30班の指導をすることとなり、安宅中学校で上手く行き始めていたやり方のままでは時間が足りなくなっています。何か新たな工夫をしないと11時間を当てても丁寧な指導ができない心配があり、今後の課題だと思っています。

販売方法を扱う際に、バランス良く、これからの生活に役立つ知恵を身につけさせてあげたいなと思っています。例えば、訪問販売はすべて良くないと決めつける必要もないと思います。インターネット通販もすべてが危険なのではなく、ネットでの買い物も良い面もあります。店頭販売はサイズの品揃えも含めて在庫切れとなりやすい面もあるので、さまざまな販売方法のメリット、デメリットを理解し、生活に生かしていく力をつけることができればと思っています。

Q.8 『金融教育ガイドブック-学校における実践事例集-』に実践事例をご執筆いただいた際には、外部講師を招いておられましたが、ロールプレイ以外の指導の工夫についてはどのようにお考えですか。

A.8

『金融教育ガイドブック-学校における実践事例集-』に執筆した際には、消費科学センター長を招いてお話を聞きました。内容は大変良かったのですが、さらに2時間必要となるため現在はしておりません。限られた時間をどのように使うかいつも悩んでいます。

その他の工夫で、1年でやめてしまったものもあります。労力と効果、充実度などが見合わなければ長くその実践をしようとは思いません。労力に見合わないので実践しない授業の例として、たとえば、日常食の調理のところで、本だしと粉末だしの素、化学調味料を使った3種類の味噌汁の味を比べるという授業があります。その部分だけに何時間もかけるわけにはいかないので、教師が3種類の味噌汁を生徒人数分、授業前に調理しておくことになります。3種類の味噌汁を生徒全員によそい分ける手間とこれを実践した場合の効果などを考えると、とても実際にはできない授業です。

今年度の1年生では、自分の筆箱の中身調べや、実物を使った商品選択を取り上げました。まだ改善しなければならないところばかりですが、生徒は大変意欲的に取り組んでいました。

Q.9 教科書とこの実践との関連についてお聞かせください。

A.9

この授業は教科書に即した授業であり、その面での葛藤はありません。ロールプレイの導入によって生徒の理解度も高く、効果を実感していますが、教科書の最後の「消費者の権利」のところが、どうも面白味を欠く展開となっており、今後の課題です。また、「環境に配慮した消費生活」の所も、過去にディベートを取り入れたりしましたが、時間が取れず、さほど深みのある授業はできていません。

Q.10 最後に他の教科との連携についてはどのように工夫しておられますでしょうか。

A.10

社会科の教師と授業内容について話し合い、相互に関連づけるように意識して取り組んでいます。また、学級活動などで、進路選択や生まれてから高校を出るまでにいくらかかるか、また、簡単な金利の計算など具体的なエピソードに触れつつ、取り上げるようにしています。これらのことは、金銭教育研究校としての実践をきっかけに取り組むようになったことですが、生徒たちにとっても役に立つ内容だと思っています。

(3)中学校(技術・家庭<家庭分野>)における入門ガイドの目次

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