脳貯金で100歳までイキイキ
第1回 脳には8つの分類と働きがある
神経細胞が複雑にからみ合い、私たちの感覚や思考、動作、生命維持などすべてを管理制御する脳。
なかでも重要な8つの分野に注目してみましょう。
初心者・一般向け
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- 8つの脳番地
- 健康な人生を支える脳貯金
人間の脳は100歳になっても進化しています。
そう言ったら驚かれる人も多いでしょう。
一般には、歳をとれば脳機能も衰えていくと思われがちです。
ところがそれは大きな誤解。実際の脳は、適度な刺激を受けることで絶え間なく機能を高めていきます。
若いころからの成長の蓄積は高齢になっても失われません。
私はそれを“脳貯金”と呼んでいます。
決して目減りすることはなく、心と体の健康を保てるという利息もついてくるうれしい貯金です。
柔らかな組織である脳は枝ぶりを伸ばしつつ成長していく
私は14歳ごろから考えていた脳の謎を知りたくて医学の道に入りました。
年齢・性別を問わず1万人を超える人々の脳のMRI(強い磁石と電波を利用して体内の状態を断面像として描写する検査)画像を解析するなか、気づいたのは脳にも個性があるということです。
それまでは脳の成長は誰でもおおむね決まった手順を踏むと思われていたのですが、脳画像を比較すると人によって発達の大きい部位が異なるのです。
たとえば運動発達の遅れで手術も検討されていた幼児が、知的発達には優れていたため、私の判断で手術無期延期としたこともありました。
その人はその後成長し、大学でイキイキと学んで社会人になりました。
手術を行っていれば脳に影響し、そうした人生を送れなかったかも知れません。
スポーツ選手が文章は苦手だったり、知識に富んだ学者が、運動が苦手だったりというのも脳画像を見ればなるほどと納得のいくことです。
脳の機能がかたよるのは何も問題ではありません。
よく使う、あるいは得意な機能が発達する――それが人それぞれの個性を生み出しているのです。
「脳は部位ごとに機能を分担している」ということは、約250年前のドイツ人医師、フランツ・ガル博士の発見です。
約100年前には同じくドイツの解剖学者ブロードマン博士が脳表面の複数の細胞集団に52の番号をふりました。
その後もさまざまな研究者が各自の方法で脳の機能分類を考えてきました。
こうした研究の蓄積を踏まえつつ、多くの脳のMRI画像分析の経験から私自身が確立したのが“脳番地”という概念です。
脳番地の詳細を説明する前に、脳の成長とは何かについてお話ししておきましょう。
頭蓋骨の大きさはある時期から変わらないのに、脳がどうやって成長するのか、不思議ですよね。
生まれたての赤ちゃんの脳は350g程度の重さです。頭蓋骨の骨もつながっていません。
1歳半から2歳くらい、脳が1㎏くらいになるまで骨も成長して広がり、そのころにつながります。
そして男性の脳は18〜20歳あたりで平均1,450g、女性は16〜18歳で平均1,350gという最大の重さになります。
決まったサイズの頭蓋骨の中で大きくなれるのは、脳の水分が、働く神経細胞に置き換わっていくからです。
大人の脳も65%以上が水分。
柔らかな豆腐のような大脳は内側から成長し、スペースに圧迫されても、重量が最大になったあともずっと、神経細胞同士の枝ぶりを伸ばしながら性能を高めていくのです。
右脳左脳で働きも違う8つの脳番地に注目しよう
この脳を、部位の働きごとに分けて住所(番地)を付けた脳番地は、右脳左脳合わせて約120にも及びます。
なかには呼吸や消化、睡眠など生命維持を司(つかさど)る脳番地もあります。
これらは自分の意思とは関係なくほぼ自動的に働く部位です。
一方、意識的に鍛えることにより、確実に成長させられる部位があります。
それが大脳の8つの脳番地です。
これらは右脳と左脳に対照形で存在するので計16カ所。左右で働きも微妙に違っています。
またそれぞれの脳番地は互いに連携して働きます。
なかでもとくにほかの脳番地に影響を与えるのが、思考系脳番地と感情系脳番地です。
思考系脳番地には、判断力や集中力を使って物事を実行する機能が集まっています。
左脳側では言葉で具体的な回答を出し、右脳側では言葉では表現できない映像や音楽などを処理します。
理解系・聴覚系・視覚系・記憶系の脳番地に、必要な情報を集めるよう指令を出すのもここです。
脳番地の場所
脳番地の役割
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思考系脳番地
前頭前野にあって思考や意欲、物事の判断などを受け持つ。
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理解系脳番地
側頭部から頭頂部にまたがり、与えられた情報を理解する。
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記憶系脳番地
海馬を中心とした部位で、記憶の形成や蓄積に深く関与する。
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感情系脳番地
脳深部の扁桃体とその両側の部位で、感情面を表現する。
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伝達系脳番地
思考系とつながり、自分の考えや感情を他者に伝える。
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視覚系脳番地
後頭葉と前頭葉にあり、目からの情報を脳に集積する。
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聴覚系脳番地
理解・記憶系脳番地と連動して耳からの情報を脳に集積する。
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運動系脳番地
脳のてっぺんから左右に広がっていて、体の動きを管理する。
喜怒哀楽を受け持つ感情系脳番地は、記憶系脳番地と密接につながり、人格を決定づける部分です。
ときに思考系脳番地に影響を及ぼし、思考を抑制することもあります。
右脳側は他者の感情やその場の雰囲気を敏感につかみ、左脳側は自分自身の感情を生み出します。
それ以外の脳番地も見ていきましょう。
言語コミュニケーションと、絵や映像、しぐさなどの非言語コミュニケーションを受け持つのが伝達系脳番地。聴覚系や理解系脳番地とつながっています。
運動系脳番地は体の動きを司る部位で、ヒトの脳の中では早くから発達した部分です。皮膚感覚や感情系脳番地とも強く連携しています。
ここまでの4つはいずれも自発的な考えや行動を促す脳番地。
一方、次に挙げる4つは考えや行動の材料になる情報を取り入れる脳番地です。
理解系脳番地は、耳や目から入った情報を集めて理解する部位で、視覚系脳番地を取り囲んでいます。左脳側は文字や言葉などの言語情報、右脳側は図形・映像・空間などを処理します。
聴覚系脳番地は、聞こえる音を脳に集積します。起きているあいだ、ずっと働き続けている部位です。理解系や記憶系脳番地とも連動しています。
見る・動きを捉える・目利きをするという3つの機能を持ち、眼球の動きにも関わるのが視覚系脳番地です。
記憶系脳番地は、得た情報を蓄積し、使いこなす部分です。知識の記憶は思考系脳番地、感情の記憶は感情系脳番地と深く連携しています。
脳番地の成長こそが健康な人生を支える脳貯金に
ご紹介したように、どの脳番地の働きもほかの脳番地とつながっています。
それぞれの機能が関連しあって、日々の行動や感情として表れます。
私たちは実に緻密かつ高次な機器を備えているのです。
それぞれの脳番地は日々鍛えられ成長します。
それが脳貯金です。
しかしどの脳番地でも使わなければ貯金は増えません。
ことにコロナ禍の続く今は、マスク着用で脳が働くために必要な酸吸収量が減る、相手の顔がわからないなどで、得られる情報が少なくなり、脳貯金に影響するかも…。
しかし脳の成長を止めてはもったいない!
次回は、脳は年齢を重ねてもいかに成長を続けていくのか、その仕組みを含めてお伝えしましょう。
本コンテンツは、金融広報中央委員会発行の広報誌「くらし塾 きんゆう塾」Vol.61 2022年夏号(2022年(令和4年)7月発刊)から転載しています。
広報誌「くらし塾 きんゆう塾」目次