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なんとかなると思っていませんか 長い老後の生活資金
─人生100年のライフプランを考えよう─

長い老後への漠然とした不安から抜け出そう

日本人の平均寿命は年々延び、平成28年では男性で80.98歳、女性で87.14歳です。注目したいのは簡易生命表からみた90歳まで生存する人の割合です。年々増え続け、平成28年のデータでは女性の2人に1人、男性でも4人に1人が90歳まで生きています。今後その割合はさらに高くなるでしょう。

図表1:90歳生存割合の年次推移(単位:%)
 
昭和22年 0.9 2.0
昭和30年 2.7 6.2
昭和40年 2.3 6.5
昭和50年 5.4 12.0
昭和60年 9.4 21.2
平成2年 11.6 26.3
平成12年 17.3 38.8
平成22年 21.5 46.2
平成28年 25.6 49.9

厚生労働省 平成28年簡易生命表の概況より作成

多くの人が老後の生活を心配していますが、老後の生活破たんに関する週刊誌の記事などに惑わされ、漠然と不安を感じているような方が多いという印象をもちます。①老後生活の具体的イメージが描けず、将来の収支見込みがわからない②年金・医療・介護といった社会保障制度がよくわからない。この2つが不安の原因かなとセミナー講師や相談を受けていて思います。この〝わからない〞を〝わかる〞にすることが漠然とした老後不安から抜け出すポイントだと思います。

増える将来の老後生活費と抑制される公的年金の給付水準

特に贅沢をしなければ、老後は食費、交際費も減って、現役時代より少ない額で公的年金だけで生活できると思っているかもしれません。ところが、少子高齢化がさらに進むなか、これからの社会経済の状況を考えると、そうは言っていられません。まず、日本では長い間デフレが続いていますが、インフレの時代を迎える可能性も考慮しなければなりません。また消費税が増税されることも織り込んでおく必要があるでしょう。

その上、医療・介護については、団塊の世代が70歳を迎え、今後介護・医療費が大幅に膨れ上がるなか、健康保険料・介護保険料や医療・介護負担割合が増え、そして自身の加齢による医療費・介護費のアップが見込まれるため、将来の老後支出は現在と比べじわじわ増え続けることは避けられないでしょう。

図表2:年齢階級別1人当たりの医療費(平成26年度医療保険制度分)
年齢 1人当たりの医療費
50~54歳 21.9万円
60~64歳 36.0万円
70~74歳 61.9万円
80~84歳 92.3万円
90~94歳 109.3万円

「医療給付実態調査報告」(厚生労働省保険局)等より作成

一方、収入の主たるものは公的年金です。「公的年金は破たんする」などという見出しを目にすることもありますが、私自身は将来にわたり老後の生活を支える重要な柱であると考えています。ただ、高齢化が進んで平均余命が延び、少子化の影響で制度の担い手が減少することにより、現在年金支給開始年齢が60歳から65歳に引き上げ中ですが、将来的にはさらにもう少し引き上げられることもあるかもしれません。また、本来年金額は物価の上昇に応じて引き上げられるものですが、引き上げ幅を抑制・調整するマクロ経済スライドが実施されることで、給付水準が抑制されることが考えられます。すなわち、医療・介護などの支出の増加に見合う形では、年金給付が増えていかないことを想定する必要があります。

100歳まで生きる自分をイメージする

老後の家計収支が年々どうなっていくのかイメージしてみましょう。図表3には、退職した夫妻世帯の平均収支を表しています。収入から税金や社会保険料を差し引いた実収入(可処分所得)から支出を差し引くと、年間で66万円の赤字です。例えば貯蓄と退職金を合わせ2400万円あるとして、ここから毎年66万円を取り崩していくと、貯蓄は102歳で底を突きます。ところが今後は前述のように老後生活費が増え続け、それに見合う形では年金が増えないことを想定すると、図表4のように赤字額は年々膨らみ、86歳で貯蓄が底を突く可能性があります。人生100年時代にこれでは安心できません。貯金もあり、退職金もある一般的なサラリーマンでも、何か対策を講じなくてはならないというのはこういうことなのです。

図表3:高齢夫妻無職世帯(夫65歳・妻60歳以上)の1ヵ月の家計収支(例)

実収入は212,835円、うち社会保障給付は193,051円で実収入の90.7パーセントを占めています。税金・社会保険料など非消費支出29,855円を除く可処分所得は182,980円です。一方、消費支出は237,691円で、内訳は食費27.3パーセント、住居6.2パーセント、光熱・水道7.9パーセント、家具・家事用品3.8パーセント、被服・履物2.8パーセント、保険医療6.3パーセント、交通・通信10.6パーセント、教育0パーセント、教養娯楽11.1パーセント、その他24.0パーセントとなっています。なお、その他に含まれる交際費は12.2パーセントとなっています。収支は54,711円の赤字となります。また、以上を年額でみると、手取り収入219万円、支出285万円、収支はマイナス66万円となります。

総務省「家計調査」平成28年

図表4:高齢夫妻無職世帯(夫65歳・妻60歳以上)の将来収支(例)(単位:万円)

収入(毎年1%UP)支出(毎年2%UP)貯金・退職金2,400万円(運用利率0%)

  65歳 70歳 75歳 80歳 85歳 90歳 95歳
収入(可処分所得) 219 230 242 254 267 281 295
支出 285 315 347 384 423 468 516
収支 -66 -84 -106 -129 -156 -187 -221
貯蓄残高 2,334 1,949 1,465 867 141 -730 -1,765

貯蓄残高は86歳でマイナス

自分の将来の老後収支を考えてみよう

老後のお金はいくらあれば足りるのでしょうか。「1億円必要だ!」などという記事も目にします。しかし、支出というのは暮らし方で大きく変わるものです。大切なのは現在の各個人の家計収支を出発点に考えること。マスコミで取り上げられる数字はあまり意味がありません。

まず現在の家計収支をチェックします。「可処分所得」を把握し、食費、光熱費など項目ごとに支出額を算出、現在の収支状況を把握・確認しましょう。それをもとに老後の生活をイメージし、老後減るだろう支出、増えるだろう支出および収入見込みなどを考え合わせ、およその老後収支が予測できたら、図表4のような将来収支予測表を作成しましょう。子どもの結婚や自宅のリフォーム、車の買い替えなどの費用も忘れてはいけません。

次に現在の資産と負債を確認しておきます。資産として各種金融資産のほか、不動産、金や宝石などの時価での集計表を作成します。負債として住宅ローン、カードローンなどの残高を確認します。将来の資産の換金、負債の返済も将来収支予測に含めて考える必要があります。

老後の収支予測をするのは怖いという人もいますが、現在の家計収支をベースに予測し、資金が枯渇する結果が出ても気にすることはありません。ここで問題を発見し、家計の見直し・対応策を考えることが大事です。将来の家計収支における課題が何なのか、わかるのが早ければ早いほど多様な対応策が考えられます。80歳あたりで貯蓄が底を突いてびっくりする前に、できることを考えてみましょう。

今すぐ始める、老後収支改善の方法

100歳までの老後を安心して暮らすために、老後収支を改善するには何をしたらいいでしょう。やるべきことはシンプルです。①収入を増やす②支出を減らす③貯める・資産を活用する。この3つしかありません。

図表5:収支改善の処方箋

1 収入を増やす
  1. ①働く(できれば家族で)
  2. ②任意加入制度、付加年金、繰下げ受給などで公的年金を増額
2 支出を減らす
  1. ①無駄をなくす(保険の見直し、住宅ローンの繰上げ返済、車の売却ほか)
  2. ②安易な借金をしない(借金は早く返済)
  3. ③高額療養費などの制度を利用する
  4. ④運動などをし、健康を維持する
3 貯める・資産の活用
  1. ①天引き貯蓄、個人型確定拠出年金(iDeCo)や、つみたてNISAなどの活用
  2. ②金融資産の運用(ただし得意じゃないことはしない)
  3. ③不動産の活用(アパート・駐車場賃貸など)

①収入を増やす

確実に収入を増やす手段は、健康で、できるだけ長い期間、自分らしく働くことです。家族も週1〜2日でもアルバイトをすれば収支改善につながります。

公的年金の受給額を上げる方法もいくつかあります。国民年金付加保険料の納付、受給年齢の繰下げです。なお満額受給できる40年納付期間に満たない場合は60歳から65歳まで任意加入できる制度もあります。

②支出を減らす

支出を減らすには、節約よりまず無駄をなくすことです。保険、マイカー、住宅ローン、携帯電話・スマホなどを一つひとつ見直してみましょう。

医療・介護費用についても、高額療養費・高額介護サービス費制度など、自己負担上限を超えた分は払い戻される制度もありますので、支払額が高額になった場合は必ず利用するようにしましょう。よくわからないときは市区町村や健康保険組合等に相談してみることです。

③貯める・資産を活用する

「貯める」こつは余ったお金を貯めるのではなく、使う前に「天引き貯蓄」でこつこつ貯めることです。給与天引や口座振替などさまざまな制度や商品を利用することもできますし、自分で別口座を開設してもいいでしょう。例えば収入の20%を目標に積み立てます。若い人なら個人型確定拠出年金(iDeCo)や、来年から始まるつみたてNISAなどお得な税制優遇投資・積立制度の活用も検討の価値があります。よく、50歳で貯金もないけど大丈夫ですかと聞かれることがありますが、老後の収支見込みを考え、計画的にワーク・プランを含め資産形成を始めれば決して遅くはありません。

金融資産運用は金融商品のリスクをよく理解した上で、リスクを軽減するため長期分散投資、コツコツ投信積立などを余裕資金で検討されてはと思いますが「わからないものには手を出さない」「やりたくないものはやらない」「人任せにしない」ことが大事と私は常々言っております。

収支改善方法は各個人によりそれぞれ違いますが、①収入を増やす②支出を減らす③貯める・資産の活用、3つの合わせ技で効果と難易度を考え、できることは「すぐ、すべて」実行することが収支改善のポイントです。

例えば、55歳から10年間で500万円貯める、65歳から70歳まで夫婦合わせて年収250万円程度で働く、60歳で保険を見直し年間保険料24万円削減、金融資産を1〜2%運用することで、老後収支は大幅に改善します。まだ問題がある場合は家計経費の優先順位を考えて見直すことを検討するという手順になります。私の経験では無駄をなくし、少し長く働くことなどで多くの方の老後収支は大幅に改善し、安心して過ごせるようになると思います。ただし本当に困った状況になったときには、安易に借金などをする前に、早めに行政などに相談することも大切です。

自分らしく充実した老後を!

人生100年の収支表は、ケチケチ節約生活をするために立てるのではありません。たった一度の人生を自分らしく安心して生活するため老後資金を計画的に使うことができるようにするものです。老後のことを具体的に考えるのは気が重いかもしれませんが、それからは逃げられません。だったらできるだけ早めに問題を見つけ、対応策をとりましょう。

今回のまとめ

  • 人生100年、老後支出が増え、年金収入が減る。老後は一世代前のようにはいかない。
  • 現在の家計収支から老後の収支を予測。問題に早く気づき、すぐ行動する。
  • 「収入を増やす」「支出を減らす」「貯める・資産活用」合わせ技で収支改善をする。
  • 人生100年の収支表は人生を自分らしく、安心して生活するためのもの。

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