金融教育フェスタ2016

講師：
昭和音楽大学・短期大学部　梶ヶ谷 穣 非常勤講師（元 神奈川県立海老名高等学校 教諭）

進行・コメント：
国立教育政策研究所　大杉 昭英 初等中等教育研究部長

実践発表

私は現在、音楽大学で社会教育計画という科目を担当しています。それ以前は、神奈川県の海老名高校で「政治・経済」や「現代社会」を担当していました。

書店に行くと、老後破産、隠れ貧困等、暗いタイトルの書物が並んでいます。さらには、消えた年金問題、あるいは情報流出等。GPIFの5兆円の運用損のような行政側のトラブル等もあり、年金や社会保障について不安やネガティブなイメージが高まっています。一方で、自分たちが将来受け取る年金や社会保障について、実は高校生は高い関心を持っています。選挙権年齢が18歳に引き下げられたことや主権者教育という観点からも、生徒が年金や社会保障について正確な知識を持つことは大切だと考えています。

高校で年金の授業を行う際の導入として、自分だったらどういうサービスを受けたいか、手厚いサービスがよいか基本的なサービスのみでよいのか、また、負担額についてどう思うかを生徒に考えさせることから始めました。そのうえで、社会保険である公的医療保険も年金保険も保険なのであり、積み立ての貯蓄ではないということ、共に助け合う仕組みなのだということを教えました。

年金制度については、将来、年金が破たんするのではないか、方式は賦課方式か積立方式か等の議論がありますが、教育の現場では、現在の年金制度のもとでどうすれば格差や不公平を減らすことができるのかというアプローチを考えることが望ましいのではないかと思います。 自分がよければそれでよいということではなく、社会全体にとって良い方向に進むにはどうしたらよいのか、持続可能な年金制度のために自分たちには何ができるのかを考えさせることが重要だろうと思います。

年金や社会保障の授業で、ある生徒が「学校を卒業して、普通に働いて、普通に保険料を納める、それが結果的に自分たちの年金にとっての幸せな姿につながるんですよね」と発言したことが印象に残っています。年金の問題、社会保障の問題は、制度そのものだけでなく労働の問題等にも目を向けなければ解決できない。社会保障の授業からそういうところまで考えられる生徒になってほしいと思いますし、教える側も生徒が自分で考え、判断する力、将来にわたって生きる力を身に付けられるよう十分に意識しなければいけないと思っています。

ワークショップ

「医療保険についてどうしたら保険財政をプラスにできるか」、「自分がGPIF（年金積立金管理運用独立行政法人）の資金運用担当者だったら、保険料をどういうポートフォリオで運用するか」、「年金制度を持続させるためにどういう改善策や行動が考えられるか」というテーマについてグループで議論・意見交換をして頂きました。

医療保険の財政をプラスにするためには「保険を使う側だけでなく、医療を行う側が無駄をなくす意識を持つことが重要ではないか」、年金制度の改善策として「女性や高齢者を含め、年金制度を支える側が少しでも長く働けるように、労働環境や制度を整えるべき」等の意見が出されました。

コメント

大杉昭英先生より次のようなコメントがありました。
人は危険が明確に見えるときや目の前にあるリスクにはきちんと準備をします。人生におけるリスクは自分にどう降りかかってくるかが見えにくいですが、社会保険はそのリスクへの備えの一つです。今は確定拠出年金のように、自分で人生のリスクの備えを決定する機会や必要性も増えてきています。そういう意味でも、金融教育を通して自分で考えて行動できる児童、生徒を育てることが大切だと思います。