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金融教育のすすめ

(2)『カレー作りゲーム』と『おこづかい』で教える経済の基礎概念

PROBLEM 『おこづかい』なんて、必要ない!

「浪費家の小学生を取材してほしい」といわれて出会ったM子ちゃん。お会いしてみると、ごくごく普通の小学5年生の女の子です。さっそく彼女にお小遣いの使い道について尋ねてみると…。意外なことに、答えは「貯金」。彼女の言葉通り、お小遣い帳には、30,000円近い貯金額が記されています。

ところが、彼女の机の引き出しを見せてもらうと、中からでてくる、でてくるメモ帳の山! 今、学校でメモ帳がはやっているからと、手当たりしだい買い集めているのだとか。そして机の下のダンボールからは、これまた山のような筆箱が。これも学校で流行していた頃に、買い集めたものだといいます。

これで「浪費家」と呼ばれる意味がわかりました。M子ちゃんは、自分のお金ではなく、両親や祖父母のお金を「浪費」していたのです。

Kくんは、小学4年生。そろそろお小遣いをと、両親は考えました。お金は労働の対価として得られるのだということをわかって欲しくて、お手伝いに応じてお小遣いをあげることにしました。「お風呂掃除10円、食器洗い15円…」お父さんが一生懸命リストを作りました。

ところが、です。Kくんは、「お小遣いなんていらない」と働こうとしないのです。それどころか、それまでお母さんに言われてやっていたお風呂掃除も「お金いらないから」とサボるようになってしまったといいます。

さて、このM子ちゃんとKくん。どこか似ていると思いませんか? そう、自分のお金、すなわち『おこづかい』がなくても、まったく日常生活に不自由がないという点がそっくりなのです。実は、こうした傾向は、今の子どもたちに少なからずあります。

CAUSE エンジェル化する子どもたち

今の子どもたちは、両親、両家の祖父母、さらには独身貴族のおじおばという「8つのポケット」(財布)を持っているといわれています。M子ちゃんやKくんのような“恵まれた”子どもたちの背景には、こうした少子化による影響が見え隠れしています。

長引く不景気で、お父さんのお小遣いが激減しているのに比べ、子どもに与えられるお年玉は横ばい状態(表1)。大人のフトコロが痛む一方で、子どもばかりは、“聖域”というわけです。

また、(表2)は祖父母から高校生以下の子どもたちにどのくらいの援助があるかを調査したものですが、現金だけでも、年間約35,000円ももらっていることがわかります。そのほかに「おもちゃ」など現物でもらうこともあり、祖父母の“貢ぎ額”は年平均約13万円! 欲しいものを、自分のお小遣いで買わなくてもすむ、理由はここにあるわけです。

社会が経済的に豊かになったという“質的変化”と、ひとりの子どものためにお財布を開く人数の増加という“量的変化”が相乗効果を生み、まるでエンジェル(天使)のように扱われる子どもたち。しかしそれで子どもたちは、幸せかというと、ことはそんなに単純ではありません。フランスの思想家ジャン・ジャック・ルソーは、教育書『エミール』の中で次のように述べています。

「子どもを不幸にする一番確かな方法は何か。それは、いつでもどこでも欲しいものを手に入れられるようにしてやることだ」。

時代はもはや「自己責任」。自分のライフプランに合わせ自分自身で金融商品を選ぶのはもちろん、将来もらう年金の運用までもが個人にまかされる時代です。子ども時代に「お金には限りがあること」や「計画的に使うこと」を体験できず、お金のなる木があるかのごとく育てられることは、むしろ不幸なことといえるのかもしれません。

社会では、個人のマネーマネジメント能力が多く問われるようになってきているのに、子どもたちの実態は、エンジェル…。今の子どもたちとお金のかかわりを取材していると、この乖離した状況に危機感さえ感じます。

不景気も関係ない子どもだち

祖父母から「おこづかい」は、年間3万5,000円

PLAN1  「カレー作りゲーム」の挑戦

こうした社会的現実と子どもの実態との乖離をかんがみて考案したのが、『カレー作りゲーム』というワークショップです(図1)。おねだりすれば欲しいものが手に入る子どもたちに、『カレー作りゲーム』を通して、「お金は限られていて、何かを買ったら何かが買えなくなる」という経済用語でいうところの“トレード・オフ”を体験してもらい、買うものを選択する際に“機会費用”といったことも考慮しつつ判断できるようにするのが、このゲームの狙いです。

図1 カレー作りゲーム


ゲームのルールは、いたって簡単。限られた予算=おはじき10個の中でカレーの材料を買うだけです。ただし、このカレーはビーフ(牛肉)カレーの好きな両親のために作るという前提があります。材料と価格は図1の通り。どうぞ、試しに挑戦してみてください。

さて、選んだのは、そして諦めたのは、どの材料でしょう?

実は『カレー作りゲーム』には、ひとつの仕掛けがあります。それは、両親の好きなビーフ(牛肉)を買ってしまうと、カレーに必要な基本的な材料(カレー粉、ジャガイモ、にんじん、たまねぎ)を全部買うことができないというもの。こうした、あちらを立てたら、こちらが立たず…といった“トレード・オフ”の状況下で、何を考え、どう判断していくかを、ワークショップを通して考えていくことになります。

このゲームを小学生対象に行うと、実にいろいろな解答が得られます。両親の好きな牛肉を買い、自分が嫌いなにんじんを買わないようにする子。シーフードカレーにして、自分が創意工夫した味を両親に堪能してもらおうと考える子。中には、「スーパーの閉店間際に、安売りされる牛肉を買ってもいい?」と独自のアイデアを披露する子や、「自分は食べないで、半分だけ牛肉を買ってお父さんとお母さんに食べてもらう」という、泣かせる台詞を口にする子までいます。

そして、いろいろな意見が出揃ったところで、今度は振り返り学習へと移ります。実は、ここが最も大切なところ。『人生ゲーム』をたくさんやった人が、よりよい人生を歩めるかといったら、そうではないのと同じように、『カレー作りゲーム』をやっただけでは効果はありません。

このようなゲームによる学習は、ともすると「楽しかった」で終わりがちですが、問題は『カレー作りゲーム』から、何を学べたか、そしてどう自分の生活に生かしていくかです。振り返り学習によって、「みんなが持っているから自分も持つ」という考え方の子どもたちが、自分で解決策を見いだし、自身の価値観によって選択することを理解し、コスト・ベネフィット分析や、機会費用まで考慮に入れることを、“発見”できるようにするのです。

『カレー作りゲーム』は、1回限りのアクティビティですが、できれば、このゲームをさまざまな形に変化させ、繰り返し、子どもに伝えていけたらと思います。

学校なら、修学旅行のお小遣いの使い方や総合的な学習の時間を利用した買い物体験で、応用できるでしょう。また家庭でも、家族旅行のおやつ購入担当を任せ、予算を与えてやりくりさせたり、後述する『おこづかい』によって体験させたりすることもできます。

限られたお金の中で、どれを選ぶかを子ども自身に考えさせ、そして自身を振り返りながら、検証していく機会を繰り返し与えること。そばにいる大人は、こうした体験の中で、子どもの“失敗”がより多くの実を結ぶよう、見守っていけたらと思うのです。

PLAN2  「おこづかい」を教材に!

『カレー作りゲーム』のワークショップで毎回、子どもたちのさまざまなアイデアに接し、「生きる力」に感動しながらも、こうした力を得る機会が日々の生活の中で奪われている現実をとても残念に思います。

「おこづかい」を教材にするための3か条


実はこの『カレー作りゲーム』、本来なら毎日の生活の中で体験できるものです。家計をやりくりしている大人は、少なからず、こうした体験をしているのではないでしょうか。限られた家計の中で、どれを選ぶのか、日々格闘しているのですから。

しかし残念ながら、子どもがお父さんやお母さんのこうした苦労をうかがい知る機会は、あまりありません。そして、子どもが日常的に『カレー作りゲーム』を体験できる機会になるはずの『おこづかい』も、最初に紹介したM子ちゃんやKくんのように、今や教材として機能しづらくなっています。

ところがこのような状況でも、いくつか工夫をすることで、『おこづかい』を教材に変身させることが可能です。工夫の基本、として提案したいのが、次の三か条です(表3)。

まず一つ目は、『おこづかい』で何の費用をまかなうのかを明確にすること。欲しいものを、お小遣いからでもおねだりからでも手に入れられないようにするためです。お小遣いでまかなうのは、お菓子代なのか、文房具代なのか、それともおもちゃ代まで含むのか…。親子で話し合い、コンセンサスをとっておくことが大切です。

どんな費用をお小遣いでまかなうのかを決めるとき、いわゆる“必要経費”もお小遣いでまかなわせるようにするのも、子どもにとっては良い経験になるでしょう。そうすれば、将来独立したとき、お給料日前に引き落とされる光熱費を使い込むようなことにはならないはずです。

前出のM子ちゃん。取材を受けたことをきっかけに、文房具代まで自分で管理するようになったそうです。お小遣いは、今までの月500円から月1,500円に大幅アップ。でも塾に通っているM子ちゃんは、ノートが頻繁になくなります。必要なものであるノート代を手元に残しながら、好きなキャラクターのついた文房具も買わなくてはいけません。

M子ちゃんは考えて、毎月ノート代を別にとっておくことにしました。「必要なもの」(ニーズ)と「欲しいもの」(ウォンツ)を分けて考えるようにしたわけです。そしてさらに、常に「必要なもの」が「欲しいもの」に優先されることも覚えたといいます。

小学校低学年なら「必要経費」は、交通費やお稽古事の月謝といった定額のものがわかりやすいでしょう。もう少し大きくなったら、次第に文房具や衣料費…へと子どもにかかる費用を子ども自身でやりくりするように権限委譲していきます。アメリカでは、ティーンエイジャーでも、半年分の衣料費を親からもらって、自分でやりくりしている例もあるといいます。

二つ目は、お小遣いの額をきちんと決めるということです。決められた費用は、決められた予算でやりくりするようにしていかなくてはいけません。そのためには、相場でお小遣い額を決めていては、不足することも出てくるでしょう。したがって、今現在、親が払っている該当費用を参考にしてお小遣い額を決めていくことになります。

こうした話をPTAの講演会などですると、戸惑いの声があがります。実は子どもにかかっている費用を親自身、把握していないことが多いからです。『おこづかい』の項目決めとお小遣い額の決定のプロセスは、一方で子どもにかかっている費用を見直すいい機会にもなるのです。

三つ目は、費用と予算が決まった『おこづかい』は、足りなくなっても決して補填しないということ。これが案外難しいのです。

前出のKくんは、3世帯同居。欲しいものがあると、おじいちゃんやおばあちゃんにおねだりをしていました。だから「お小遣いは、いらない」のです。

Kくんのように、日常的に「補填」してもらえなくても、子どもたちは、定期的にたくさんのお金を手にすることが多いもの。例えば、夏休み。雑誌「小学六年生」のアンケート調査によると、夏休みに「特別なお小遣い」をもらう子は、全体の75%にのぼり、その額は平均8,333円(*1)でした。お年玉の平均額は約25,350円(*2)です。小学校高学年の毎月のお小遣い平均額が、約1,320円(*3)ですから、夏のボーナスは6か月分、冬のボーナスは19か月分ということになります。これは毎月30万円でやりくりしている家計に換算すると、夏のボーナスは180万円、冬のボーナスは570万円!

うらやましい限りですが、子どもが一度に大金を手に入れるのは、考えもの。ここから『おこづかい』の不足分を補填してしまっては、やりくりを学ぶことなどできません。

こうした「特別なお金」は、月々のお小遣いからのものとは別に貯金し、運用していくことにして、まず補填の道を一つ封鎖。「特別なお金」は将来の進学などのために長期運用に。また『おこづかい』からの貯金は、欲しいものを手に入れるために貯めておいたり、友達のお誕生プレゼントなど“もしも”の時に使えるよう短期運用する…といったように教えることができます。

そしてもちろん周囲の大人の8ポケッツも封鎖。モノを買って失敗したと心底後悔する機会、お金がなくて困る体験、こうした負の経験から、子どもは多くのことを学ぶもの。社会人になったら、お給料を使い切ったからといって、だれかからもらえるわけではありません。社会とはそういうものだということを、教えておく必要があるのです。

*1 小学館「小学六年生」2003年12月号
*2 みずほ銀行「お年玉調査レポート」2003年
*3 金融広報中央委員会「家計の金融資産に関する世論調査」

DIRECTION 「持続可能な社会」を目指して

子どもに「お金は限られている」という現実に向き合わせるということは、希少性について考える機会を与えることにもなります。希少性に気づき、さまざまな希少なものに接する時に、経済の基礎概念として学んだ考え方を応用していくことは、子どもたちが生きていく上でも、とても有用です。

例えば、人生として与えられた「時間」もまた希少なものです。友達と遊びに行けば楽しい。でも一方で勉強する時間を失うことになる…。こうした場面でもまた、子どもたちは『カレー作りゲーム』や『おこづかい』の使い方を通して理解した方法で、自分なりの結論を導くことができるようになるでしょう。

そして何よりも次世代を担う子どもたちには、「持続可能な社会」の実現という大命題が課せられています。希少な環境をどう配分していくのか。環境と経済という二つの相反する目標を掲げながら社会を再構築していくには、この希少性、トレード・オフ、コスト・ベネフィット分析、機会費用といった考え方はとても重要です。

欧米では、ローハス(LOHAS=Lifestyles of Health and Sustainability)という環境・自然・健康にやさしいライフスタイルの志向といった価値観をもった人たちに支えられた「ローハス市場」が形成され、その産業規模は2000年で全米だけで2,268億ドルにものぼるといわれています。個人の価値観が新たな市場を形成し、「持続可能な社会」に寄与していくという姿は、現実のものとなりつつあります。

金銭教育の目標は、個人のよりよい生活を実現するといったレベルにとどまるものではありません。よりよい社会を実現できるように、市民としての判断力を養うこともまた「金銭教育」の目標ではないかと考えます。経済知識のみならず、経済の基礎概念を学ばせる『カレー作りゲーム』や『おこづかい』の実践が、ひいては持続可能な社会の実現に向けての第一歩になることを、願ってやみません。

参考文献 早稲田大学経済教育総合研究所「消費者・経済教育の考え方 進め方」2002年

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