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金融教育のすすめ

(3)いますぐ家庭でできるお金教育

昔は畑仕事や魚釣り、今はお金教育

かつて、親は子ども達にサバイバル術として畑仕事や魚の釣り方を教え、速やかな自立を学ばせていったものです。それが親の務めでした。

時移って現在では、「お金教育」が子どもの自立に必須となっています。共働きが増え、交通費、おやつ・昼食代、お稽古代等、自ずと子どもがより多くのお金と接触せざるをえない、いわばお金の低年齢化が進行しているのです。早い時期からきちんとしたお金の扱い方を教えておかないと、週刊誌上を賑(にぎ)わすようなとんでもない事件を引き起こしかねません。

では、どのようにお金教育をしたらよいのでしょう。家庭で、日常の暮らしのなかで出来ることが実に多いのです。「お金教育」というと「子どもに投資のことを教えるんですか!」という方がおられますが、そうではありません。お金との付き合い方、どう子どもを自立へ導いていくかが目的なのです。働いてお金を稼ぐ、収入(小遣い)内でのやりくり、貯金やその管理(投資)、そして上手にお金を使う、その全てがしっかりできる大人に育てていくのが目標です。

日本では「お金のことを言うのは、はしたない」とか、「お金のことを教えると子どもがお金人間になってしまう」と心配する風潮が、いまだに色濃く残っています。でもそれは間違っています。

お金一辺倒にならないこと、何でも、時には人間の価値までも、お金(給料)で推し量るのはおかしいこと、またお金やエネルギーを他人のために使うことの大切さ、そして何よりお金に使われるのではなく、お金を上手に道具として使っていくことを教えていくのが、お金教育なのですから。

お金教育の題材は私達の身近な日常生活に溢(あふ)れています。学校だけでなく、家庭で、親子で楽しくお金の勉強ができます。お金のことを教えながら、同時に子どもの人作りもできるのですから、お金教育は本当に重要です。いくつかの具体的なプロジェクトを通してご説明しましょう。(*)

(*)プロジェクトについては拙書「わが子が成功するお金教育―よい小遣い・悪い小遣い―」(講談社α新書)より一部引用しています。

月に一回親は仕事の話を

現在は、働く親の姿が子どもに見えにくくなっています。家計を支えるために働くことを子どもに実感させ、また子どもに経済や社会のことを総合的に学ばせるためには、親が自分の職業について話すのが一番です。可能なら、職場見学をさせたいですね。月に一回はお父さん、お母さん達の職場で起きたこと、それが世の中の動きとどう関係しているかなど、子どもに話してあげてください。

お父さんの勤めている会社は機械を作っていて、それを他の会社に売って儲けています。お父さんは機械の設計をしていますが、競争相手より良い機械を、いいえ世界で一番良い、出来ればまだ誰もみたことがないような新しい機械を作りたいと思っている、などの夢を話してください。きっと子どもは「大人になったら自分もお父さんみたいに頑張って働きたい」と思うでしょう。

機械の材料や部品の一部はアジアやアフリカの国から輸入しているので、そこで戦争が起こったりすると材料が入らなくなることなど、説明してあげてください。またとない経済教育です。

生産する側やサービスを提供する側からの話を聞くことは、物事を違う角度から見ることになり、視野がグッと広がります。家族からだけでなく、いろいろな職業についている親戚、地域の町工場の社長さん、お医者さん、トラックの運転手さん、花屋さん、学校の仲良しを募らせてみんなで一緒に話を聞かせてもらったら、活きた社会勉強になること請け合いです。

夕飯の買い物で総合学習

子どもはある一定の年齢になると、自分の小遣いでの買い物、自分関連の買い物だけでなく、テレビ、車、ステレオやDVDなど「家族の購買」に影響力を及ぼすようになります。

大きな買い物についての話し合いは、学習の機会です。消費者教育になるだけでなく、情報収集したり、専門家の意見を調べるなど意思決定の仕方の勉強にもなります。ぜひ子どもを参加させてください。

買い方についても、店頭での購入だけでなく、通信販売、ネットショッピング等子どもと一緒にやって注意点など教えておきましょう。エッ、子どもが一人でネットショッピングをしてしまった?返品できないのなら、当然子どもに払って貰います。


時には、子どもに買い物を任せてみましょう。物の値段を知るようになるだけでなく、予算内に収めること、衝動買いをしないこと、品質表示や賞味期限に注意することなど、またとない総合学習の機会となります。

日曜日の夕食の買出しを子どもに頼むとします。予算は親が決めます。子どもでも準備できそうなすき焼き鍋ではどうでしょう。材料が書き出せるでしょうか。冷蔵庫や食品棚にあって買う必要のないものは、分かっているでしょうね。

新聞とじこみの安売り広告もチェック、およその値段の目星をつけさせます。予算内に収まるかどうか、初めのうちはスーパーへ下見に行った方がいいかもしれませんね。牛、豚、鶏肉では値段が異なることに気付くでしょう。同じ鶏肉でも、ブロイラーと地鶏では値段が違う。「体にいい、値段が高くても地鶏にする」と子どもは主張するかもしれません。買い物をしたらレシートを受け取り残金と照合してから、親に渡させます。

誕生パーティーの企画

パーティーの企画は、子どもにお金を使うことの楽しさを教える格好の機会になります。お金を上手に使うことの勉強だって重要なお金教育です。またこうした企画は、自分のアイディアや創造力を発揮させる機会になります。親が気付かなかった子どもの素晴らしい才能が発見されるかもしれませんよ。まず手始めに、自分の誕生パーティーの企画をまかせてみてはどうでしょう。

予算は親が決めてもいいし、子どもに総額を算出させてもいいでしょう。予算に応じてカレーパーティーとかケーキとジュースの簡単なパーティーにするか、大筋を決めます。

招待者数、誰を呼ぶか、招待状は作るかどうか、何をして遊ぶのか、どんなゲームにするか、その時賞品も出すのか、賞品は買ってくるのか、手作りにするのか、花は買って来て飾るのか、自分の家にある葉っぱをアレンジしてみてはどうか、どんどん決めていきます。可能な限り子どもにまかせましょう。楽しいことにはアイディアが湧き出てくるでしょう。

全体の構想が決まったところで、親のOKを貰います。親は、抜けている部分や細部についてのアドバイスをします。予算どおりにアレンジでき、当日皆が喜んでくれたら最高ですね。他人が喜んでくれる楽しさを知れば、ゆくゆくはお母さんの誕生日を自分のお小遣いで企画する、そんな子どもになるかもしれませんよ。

銀行や郵便局との付き合いを始めよう

小遣いの一定割合、お年玉や祖父母からの臨時収入はそのほとんどを貯蓄に回す習慣をぜひつけさせたいものです。「余ったら貯蓄」ではうまくいきません。初めから、例えば小遣いの10%、お年玉は80%と決めて天引き貯金の習慣をつけさせましょう。

これは子どもが本当に欲しいもの、やりたいことのための夢貯金です。コンピューターを買うという夢に向かって努力する、そのためには買い食いやマンガ本を諦めるというように、欲望のコントロールを教えることになります。

実際、本当に欲しいもののためなら、子どもはアイスクリームの買い食いを我慢するのが誇らしくすらなります。夢の実現のために、親や祖父母が同額補助をしてあげる家庭もあります。目標額を貯めて夢のコンピューターを手にした時、子どもの心は震えます。


天引き貯金の習慣がつけば、大人になっても収入の一部を絶えず貯めることができ、あこがれの海外旅行やマイホーム、場合によっては起業の種銭となります。なるべく早い時期から習慣づけたいですね。励まし続けましょう。

銀行や郵便局で子どもの口座を早速作ってください。そして、毎月子どもに貯金させるのです。銀行や郵便局へ足しげく通えば、自然と投資信託、保険、そのほかのサービスのチラシを目にします。ほとんど理解できなくても、パンフレットを眺め、金融用語に慣れ親しんでいると、大人になって必要になったときフト思いだすのです。ATMでの入出金や送金のやり方を教えましょう。

何でも出来る力が与えられたら?― 将来像の構築

「仮に何でもできる力が与えられたとしたらどうする?」子どもに聞いてみます。プロ野球の選手になる。パイロットになって世界を飛び回る。漫画家になる。子どもの描く将来像が見えてくるかもしれませんよ。そして、想いが強ければそれは夢ではなく現実化します。

村上龍の「13歳のハローワーク」を参考に、自分の就きたい職業について考えさせてみましょう。その仕事につくのには、どんな資格や能力そして勉強が必要ですか。そのなかには、今から準備できるものもあるでしょう。同時通訳者が希望なら語学の勉強、昆虫学者ならもうスタートのグッドタイミングです。

ビル・ゲイツのようにビジネスを始める?どんなビジネスですか?今すぐにでもできるアルバイトや子どもビジネスで鍛えるのも手ですね。親の友人や隣人の犬の散歩、留守中のえさ係、お年寄りにコンピューターを教える、庭の草取り、窓拭きに洗車。

しかし何であれ責任が発生します。その責任の取り方や雇い主からのお小言も、また人生のよい勉強です。外でのアルバイトが無理なら、家庭内アルバイトをやらせてみましょう。小遣いを稼ぐという意味あいだけでなく、責任を持って仕事をしていく姿勢を教えるチャンスになります。

どこまでが家族の一員としての手伝いで、どこからが家庭内アルバイトになるのか、線引きが必要です。手伝いにせよアルバイトにせよ、掃除、料理やアイロンかけ等の家事は、女の子だけでなく男の子にも均等に割り当て、男女とも生活面で自立した人間に育てましょう。

お金教育で育む思考力、積極性

以上、ほんの数例、お金プロジェクトのご紹介をしました。毎日の買い物やテレビを見ながらでもできます。そしてやり方次第で、お金教育は21世紀を生きる子どもに肝要な「考える力」や「創造力の強化」、「積極性」を教える機会に、そして自分で目標を見つけて走ることが出来る自走人間を作る手がかりにすらなるのです。

誕生日パーティーに呼びたい友達は多いけれど、予算が限られている。頭の使い所です。そうだ、お菓子は自分で作ろう。ゲームはみんなゲラゲラ笑うのがいいな。ひとつ、自分で考えてみるか。招待状はどんなデザインにしようか。興味あることを追求する時、好きなことをやる時、夢中になっている時、創造力が発揮されます。生活に密着した「知恵」が育(はぐく)まれます。

小遣いを貯めて一日も早く自分のコンピューターを手にしたい。そうだ、おばあちゃんの家の庭の草むしりをしてお小遣いを稼ごうか。自分の古いゲームを売ろう。借り入れという手もあるな。頭はフル回転します。

自力ですき焼き鍋の買い物が予算内ででき、「ありがとう凄いね」とお母さんに褒められた時、自分で企画した誕生パーティーがお金をかけないで、しかもすごく盛り上がった時、また小遣いを苦労して一年がかりで貯めてコンピューターを手にした時、子どもは達成感を味わいます。

達成感を味わうということは、その感覚を脳の回路に植えつけるということです。心地よい達成感を覚えた子どもは、自力で物事をなすことに積極的になります。意欲のある子ども、自分で目標を見つけて走ることが出来る自走人間の誕生です。

今の子どもは物質的に恵まれている反面、夢を見る力、夢を実現させる力が弱くなっていると思われませんか。長い間親の厚い庇護(ひご)のもとで育ち、成人しても社会参加する精神力を持たない若者が増えています。些細なことであろうと達成感の積み重ねが自分で自分の道を切り開いていく生命力につながるのです。

豊かな時代のお金教育

日本は確かに豊かな国になりました。エッ、自分は生活で精一杯なのに、と言われるかもしれません。でも世界的な水準からみたら、停電しない、水が出る、三度の食事が食べられるだけでトテモ豊かなのです。あなたのお子さんはおやつを貰って感激しますか?玩具をもらってむさぼるように見つめますか?物を大切にしますか?

戦後やっと豊かになった日本は、まだまだ恵まれた環境下での躾(しつけ)のノウハウがありません。豊かな環境下、どう子どもに幸せ感を持たせるのか、サバイバル力をつけさせるか、どう子どものモチベーションを高めていくか、今まさに問われている課題です。

玩具・服・菓子など与え過ぎないで、「ああ欲しいなあ」、「一度やってみたいな」と思うことをたくさん残してやり、それを自分の力で手にいれるような環境を意識的に作っていかなければなりません。子どもには強烈な感激や達成感を経験させたいのに、恵まれている子どもほど、そんな大事な経験ができにくくなっています。ハングリーでないと、モチベーションが湧きにくいのです。スポーツや勉強に目が向いたらひたすら励まし、どんな小さい「達成」でも褒めてあげましょう。それが意欲につながります。

社会に余裕が出来ると、「危ないから」といって、子どもが失敗する前につい教師や親が手を出してしまいます。それでは失敗して自己責任を取っていくことも学べず、生活力やサバイバル力はつきません。何かあったら他人を当てにするパラサイト人間をつくるのがオチです。大人が解決策を出してしまっては、子どもは頭を使う必要がなくなり、自信などつくはずもありません。

いったんお金プロジェクトを開始すると決めたら、可能な限り子どもに任せ、そしてその結果を引き受けさせ、大いに頭や意志を鍛えるきっかけとして欲しいのです。もちろんアドバイスは必要ですが、子ども自身の力でチャレンジする機会を与えてください。失敗するでしょう。それを知恵に変えて、21世紀を生き抜く逞しい子どもになるよう、導いてください。

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  • 日本文学研究者・早稲田大学特命教授 ロバート キャンベルさん
  • 歌手・タレント・女優 森公美子さん
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