金融教育フェスタ
金融教育フェスタ2018
先生のための金融教育セミナー
「市場体験型シミュレーションゲーム『Market Game』の開発と実践」
(小学校3~6年、社会)
講 師
山梨学院小学校
鈴木 崇 教諭
【進行・コメント】 玉川大学教育学部 樋口 雅夫 教授
<実践発表>
市場体験型シミュレーションゲーム『Market Game』は、金融教育の中のキャリア教育の側面を取り入れた実践で、小学校中学年から高学年を対象に実施しています。起業家精神を育て、チャレンジ精神を養うゲームです。子どもたちが仲間と一緒に会社を起こし、「資材は乏しいが資金力がある」、「貴重な情報を持っている」、「全てに恵まれている」、「資金力は無いが設備が整っている」などそれぞれの状況下で次々と起こるイベントを乗り切っていきます。その過程で、自己発見力や問題解決力、マネージメント力やリーダーシップ、企画・開発力といった能力を育成することを目指しています。
『Market Game』を低学年で行うことはありません。お金ゲームの要素が強くなってしまいがちだからです。低学年では、生活科と連携し、お芋を苗から育てて収穫して販売するというような体験学習を通して、生産者の苦労や流通の仕組みを学びます。会社見学を行ったり、企業から講師を招いてお話を伺ったりもします。 先ほど「キャリア教育」と申しましたが、「キャリアを積む過程で階段を踏み外したら人生が終ってしまう」と捉えさせてしまうのではなく、金融教育を通して「働くこと、生きることって楽しいんだな」と感じてもらいたいと考えています。
低学年のうちから働く人々の努力や苦労に触れるという経験を経て、いよいよ『Market Game』を行います。まず社長や販売部長、開発部長などの役割分担を決めますが、教師が決めるのではなく、子どもたちが仲間の能力や資質を理解しあったり、自ら主張したり、譲りあったりしながらうまく決めていくようにします。役割が決まったら、市場のニーズに応じて商品を供給します。私はゲームの中で重要な情報は一度しか言いません。情報を正確に早く掴むことの重要性にも気づいてもらいたいと思っているからです。また、お金を借りることに悪いイメージを持っている子どももいますが、お金がないからといって未来を諦める必要はないことも伝えたいと考えています。多くの場合、起業するにはお金を借りることも必要です。消費者トラブルに子どもたちが巻き込まれないようにすることももちろん重要ですが、銀行からお金を借りることが正当な手段のひとつとしてあるのだということを教えても良いと考えています。
『Market Game』を通して見えた成果は、課題発見・解決能力の育ち、批判的な思考力の育ち、コミュニケーション能力・発信力の育ちなど色々あります。ただ、改善したいと考えているのは、夢を持つ子どもたちがあまり増えなかったという点です。今の仕事の何割かは今後なくなってしまうということを聞いた子どもたちの中には、将来の職業について夢が持てなくなってしまっている子がいます。金融教育を通して心を育てることをより大切にしていきたいと考えています。
<ワークショップ>
市場体験型シミュレーションゲーム『Market Game』を参加者に体験していただきました。グループごとに異なる条件下でどのようにして商品を作り、売上げを増やすかを体験し、大いに盛り上がりました。参加者から「このゲームでは、会社のメンバーはいつも同じにしていますか」という質問がありました。鈴木先生からは、「毎回変えています。普段はおとなしい生徒が、それまで見えなかった資質を発揮することもあります」との回答がありました。
<コメント>
樋口雅夫先生より、次のようなコメントがありました。
鈴木先生の実践は、新しい学習指導要領の求める内容そのものだと感じました。キャリア教育を社会科の授業の中で行うとすればこのようになる、という事例であり、働く意義、生きる意欲、社会への感謝・貢献が見事に身に付いていく内容だったと思います。また、このゲームがキャリア教育に特化した内容であることを明確にされていた点もポイントです。金融教育の4つの領域のうち、キャリア教育は社会科のこの実践の中で行うことがはっきりしているので、その他の領域は社会科の他の時間あるいは他の教科で取り組もうということになります。自分が担当している授業はどの部分を担うか、どのように行うのか、と考えていただくと先が見えてくるのではないかと思います。
鈴木先生は、「このゲームではスローガンが明確な会社が成果を上げる」とも仰いました。これは学校教育全てに通じると思います。金融教育においても、「この教育で何を身に付けさせたいのか」、「どのような子どもたちを育てたいのか」が明確であれば、そこに向かって効果的に授業が行われていくものだと思いました。
小学校では、このシミュレーションゲームのように楽しく学ぶことも大切です。たとえば高等学校で金融の働きについて学ぶとき、「小学校のときにやったあのゲームは、こういう意味だったのか」と気づくことがあると思います。小学校段階での学びは、子どもの中に感覚あるいは体験として残っていき、生きる意欲、社会への感謝、貢献、そして最後の働く意義という金融教育の大きな目標が小中高を通して達成できる、その基礎となる部分を今日は鈴木先生にお示しいただいたと思っております。
実践発表・ワークショップ1の模様
- 主催:金融広報中央委員会、大分県金融広報委員会
- 後援:文部科学省、金融庁、消費者庁、日本銀行、日本PTA全国協議会、大分県、大分市、大分県教育委員会、大分市教育委員会、大分県小学校長会、大分県中学校長会、大分県立学校長協会