金融教育フェスタ
金融教育フェスタ2018
先生のための金融教育セミナー
「少子高齢化社会における社会保障制度について多角的に考えてみよう」
(高等学校3年、政治・経済)
講 師
東京都立国際高等学校
宮崎 三喜男 主任教諭
【進行・コメント】 玉川大学教育学部 樋口 雅夫 教授
<実践発表>
今日は公民科の教師として、これまで社会保障教育で行ってきた実践や、その中で感じたことをお話させていただきます。
まず、社会保障教育の現状です。「支払った年金が戻ってこなかったら損ではないか」、「少子高齢化が今後ますます進んでいく中で、積立金が不足し、制度自体が危ないのではないか」、「高齢者は得で若者は損。給付と負担が不公平ではないか」。これは、アンケートにて高校生が書いた言葉です。一方で、社会保障制度が大切だということは、教師も生徒も分かっています。教師としてはしっかりと教えたいけれど、時間がない。年金制度を中心とした保険の概念は、今を考えることで精一杯の生徒にとっては難しく、また丁寧に教えようとすればするほど時間がかかってしまう。アクティブ・ラーニングを取り入れたいが、どうすれば深い学びにつなげられるのだろうか、新科目「公共」では社会保障についてどう教えていくのがよいのだろうか、このようなことが私の数年来の課題でした。
このような現状を踏まえて、本校では「幸福を分かち合う社会保障制度」というテーマのもと、社会保障制度の概要を学ぶだけではなく、社会の現状を踏まえて今後どのような社会にしていきたいのか、社会保障制度を通してどういう社会を作っていきたいかという視点で7時間かけて実践しています。
この実践で力を入れているのは、社会保障制度の意義の部分です。最初の1、2時間目に社会保障のあり方を考える授業を行います。3、4時間目は年金と医療に関する授業、5時間目は教科書の基礎的な知識を確認する授業を行います。最後の6、7時間目で、社会保障制度の提言を行います。持続可能な社会保障制度のために、どのような制度がいいのか、政策を考え、発表させます。なお発表の際には、例年、厚生労働省の方や新聞社の方に来て頂き、発表に関しても講評もして頂いています。
生徒には、「財源についても考えながら、夢物語的な提案ではなく現実的な提言をしなさい」と指導しています。「支払った保険料が戻ってこないと損だ」という国民感情は無視できませんが、損得ではなく「支え合い」の視点も忘れてはいけない、ということをしっかり伝えています。
ここで実際の生徒たちの提言を紹介します。今年度は「子育てしやすい社会づくりのため、男性の育休取得率が高い企業に対して補助金を出す」、「定年制の廃止・年金受給年齢の引き上げ・消費増税をセットで行い、社会全体で負担を分かち合い、その前提として高齢者や女性が働きやすい環境にする施策を実施すべき」などの提言が出されました。
発表では、講評をお願いしている厚生労働省の方や新聞社の方に「厳しくジャッジしてほしい」とお願いしています。生徒たちはかなりの時間をかけて発表の準備をします。中には睡眠時間を削って準備する生徒もいます。それだけ準備をしても、発表ではかなり厳しいコメントをもらうことになりますが、その経験がさらなるモチベーションにつながっているように思います。
<ワークショップ>
2つのテーマでワークショップを行いました。まず、生徒になったつもりで、社会保障制度の3つの型(家族依存型、政府依存型、市場依存型)のうちどの型が望ましいかをグループで話し合い、その理由と併せて発表しました。次に、教師の立場で、年金についての授業を行う場合にどのように行ったらよいかを検討し、発表しました。
各グループで真剣な議論が交わされ、充実したワークショップとなりました。宮崎先生からは、「社会保障教育の実践で重要と考えているのは、政策提言をした後の振り返りをしっかり行って深い学びにつなげるという点です。また、社会保障制度はどうしても財政と関連付けることになりますので、お金のことだけでなく、支え合いの気持ちや社会保障の意義を生徒がきちんと考えられるようにしていきたいと思っています」と述べられました。
<コメント>
樋口雅夫先生より、次のようなコメントがありました。
金融教育は、非常に幅が広い教育です。社会保障教育も、租税教育も、アントレプレナーシップも金融教育です。金融広報中央委員会の『金融教育プログラム』をご覧頂くと、公民科だけでなく、家庭科、商業科、総合的な学習の時間、様々な教科で金融教育を進められることがわかります。その中で、宮崎先生は、公民科の立場から金融教育を実践するとこのようになるという事例を見せてくださったと思います。年金や社会保障の課題を通して、社会の在り方を子どもたちに考えさせることで、政策決定者としての立場で物事を考えるトレーニングを行っておられました。家庭科の視点であれば、パーソナルファイナンスの立場から、自分の将来の資産運用や資産形成について考え、その中で年金について学び、自らのキャリアを形成していくための手立てにつなげていくことができると思います。
本日のセミナーを振り返ると、鈴木先生の実践では、子どもたちが消費者の立場だけでなく、生産者や販売者の立場で考えていました。西村先生の実践では、地域社会の担い手としての立場、宮崎先生の実践では、政策決定者や納税者の立場で子どもたちが考えていました。金融教育を通じて、子どもたちは様々な立場で社会やお金、わたくしのことを考える経験を積むことができます。それが子どもたちの将来の選択肢を広げることにつながっていくのだと思います。これからの先の見えない社会、AIがどんどん進化していく社会において、未来の担い手を育てる学校教育の意味というのは、非常に大きいものがあると思っています。
実践発表・ワークショップ3の模様
- 主催:金融広報中央委員会、山梨県金融広報委員会
- 後援:文部科学省、金融庁、消費者庁、日本銀行、日本PTA全国協議会、山梨県、甲府市、山梨県教育委員会、甲府市教育委員会、山梨県公立小中学校長会、山梨県高等学校長協会