金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-
(全面改訂版)
2.金融教育の目標と方法
(1)金融教育の目標
<2>金融教育を実践する上で念頭に置いて頂きたい概念
「金融教育を実践する上で念頭に置いて頂きたい概念」とは、236項目の教育目標を効果的に達成していく上で、それぞれの項目を通じて共通のキーとなる概念を念頭に置いて教育を行って頂くことが効果的と考えられることから、こうした観点から重要と考えられる概念を整理したものである。
これらの概念の多くは、高等学校までの金融・経済や生活設計・金銭管理等にかかわる内容を含む教科や領域の中で扱われている。子供たちの年齢層に応じた金融教育を実践する際に、こうした概念を念頭に置いて指導頂き、高等学校卒業までの段階で、子供たちがこれらの概念を体得し、活用できるようになれば、子供たちにとって、生涯学習の基礎としてこれからの社会を生き抜いていくための力を培う上で大きな効果を発揮するものと期待しているところである。
なお、金融教育は、小学生から高校生までの発達段階に応じ、年齢層別の教育目標に沿って実践頂くことが基本であり、こうした概念は、この目標を達成するための指導の工夫を行う際のヒントとしてもご活用頂けるものと考えている。
ア.金融教育の目的を実現する上で重要な概念
1)「生きる力」、「自立する力」
金融教育は、「生きる力」(自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力等)を養う上で有効な手段であり、「自立する力」、すなわち「お金を通して生計を管理する基礎を身に付け、より豊かな生き方に向け主体的に工夫、努力する態度」を養うものである。
2)「社会とかかわり、公正で持続可能な社会の形成を意識し行動する力」
金融教育は、「社会とかかわり、公正で持続可能な社会の形成を意識し行動する力」、すなわち「金融や経済の働き・仕組みなどの理解を通じ、自分が社会に支えられ、また働きかける関係にあることを自覚し、社会に感謝するとともに、社会が抱える様々な課題に関心をもち、公正で持続可能な社会の形成を意識して考え、行動する態度」を養うものである。
3)「合理的で公正な意思決定をする力」、「自己責任意識」
金融教育は、上記1)、2)の力を発揮する上で必要となる「主体的な意思決定」を、合理的かつ公正に行うための基本を理解し、実践する態度を身に付けるものである。また、金融教育は、「意思決定の結果は自らが責任を負うものである」ことを自覚し、意思決定に当たっては、必要な情報を収集し、リスクをしっかり把握し適切に判断、行動する態度を養うものである。
4)「お金と向き合い、管理する力」
金融教育は、「お金」が、上記1)、2)の力を身に付け、よりよい暮らしや社会を実現していく上で必要不可欠な存在であることを理解し、日々の身近な暮らしの中で、お金の問題と向き合い、的確に管理していく態度を養うものである。
イ.個別の分野に関連付けて活用できる重要な概念
1)「希少性」(ものやお金には限りがあり、大切なこと)
<関連分野>「生活設計・家計管理に関する分野」、「キャリア教育に関する分野」
- 「希少性」は、金融教育の出発点となる概念である。小学校低学年から、ものやお金には限りがあることを理解し、それを前提に、支出は収入の範囲に収める必要があること、自分の夢や目標の実現には、限りある資源を有効活用するため、様々な工夫や努力を行い、計画的に取り組む必要があることなどを理解し、実践する態度を養う。
- 一方で、このように大切なお金を、自ら得て、殖やすためには、勤労や貯蓄・運用などが必要なことを理解することも重要である。
2)「選択」(限りあるものやお金をどのように得て、どのように使うかということ)
<関連分野>「生活設計・家計管理に関する分野」、「消費生活・金融トラブル防止に関する分野」、「キャリア教育に関する分野」
- 日々の消費行動における選択から、将来の生活設計や職業の選択、貯蓄・運用や保険の利用等における選択まで、生きていく上では様々な選択が必要となる。こうした選択を適切に行う力を身に付けることが重要である。
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選択を適切に行う上では、以下のような概念や視点を意識することが大切である。
▽「機会費用」:他の選択により得られたであろう利益(機会費用)の大きさを踏まえて選択すること
▽「トレード・オフ」:「労働の負担と賃金の多寡」や「リスクとリターンの関係」など、本来両立しえない二律背反の関係が存在すること(換言すれば「都合のよい話はない」ということ)を踏まえて選択すること
▽「長期的視点」:生活設計や職業選択に当たっては、長期的視点に立ち、自分の将来を現実的に考え選択する必要があるほか、消費や貯蓄・運用に当たっても、目先の利益に目を奪われず、長期的な視点に立って選択することが大切であること
▽「情報の非対称性」:個人-企業間などに情報の非対称性が存在すること、そしてこれが消費者問題の原因となりうることを理解し、選択に当たっては可能な限り情報を収集しつつ、リスクを踏まえ適切に判断すること
3)「市場」
<関連分野>「金融や経済の仕組みに関する分野」
- 各人の「選択」の前提として必要となる「市場」の仕組み、働き、機能と、その集合体としての経済全体の動向や経済政策について理解を深め、自らの暮らしとの関係や経済の諸課題について主体的に考える態度を身に付けることが重要である。
4)「公正で持続可能な社会」
<関連分野>「キャリア教育に関する分野」、「生活設計・家計管理に関する分野」、「消費生活・金融トラブル防止に関する分野」
- 個人の消費行動、職業選択等が社会に与える影響について理解し、自分の日頃の消費活動と職業選択とを関連付けて、公正で持続可能な社会の形成に向けて考え行動する態度を身に付ける。
図表3 金融教育の4つの分野と重要概念
