やさしいデリバティブ
4 スワップ取引
4-2 金利スワップの仕組み
金利スワップでは、同じ通貨で異なるタイプの金利を交換しますが、中でも変動金利と固定金利の交換がもっとも典型的な金利スワップです。これを簡単な例で見ていきましょう。
福岡さんは今後金利は低下すると考えています。しかしローンを固定金利で借りているので、そのあいだ現在の水準の固定金利を支払い続けなければなりません。できることなら変動金利型ローンにしたいと感じています。
他方、名古屋くんは今後金利は上昇すると考えています。しかし変動金利型ローンを借りているので、その支払利息負担が膨らんでいくのではないかと懸念しています。できることなら現在の水準の固定金利型ローンにしたいと感じています。
〔図4-1〕 福岡さんと名古屋くんの悩み
こんな場合、両者の悩みを一気に解決するよい方法があります。図4-2を見てください。福岡さんの固定金利を名古屋くんが代わりに支払って、逆に名古屋くんのローンの変動金利を福岡さんが代わりに支払うことにすればいいのです。
2人のローンの金利タイプ以外の条件が全く同じであれば、そうすれば、実質的に福岡さんのローンは毎回の利払いが変動金利型になり、名古屋くんのローンは毎回の利払いが固定金利型になったことと同じになります。
そして、金利低下を予想する福岡さんは満足。金利上昇を予想する名古屋くんも満足。ということになるでしょう。
〔図4-2〕 2人の悩み解決策(1)
ただし、当初2人が行なっていた銀行とのローン契約内容を変更して「債務者を福岡さんから名古屋くんに代える」なんてする事は普通できません。ですから実際には福岡さんと名古屋くん2人の間で以下のような金利のやり取りを行なうことになります。
次の図4-3を見てください。
〔図4-3〕 2人の悩み解決策(2) 福岡さんと名古屋くんの金利スワップ
図4-3の中央に太い矢印で表されたとおり2人の間で金利のやり取りを行なえば、相手からもらった金利を銀行への利払いに充てることで、実質的には固定金利と変動金利のローンを交換していることと同じ意味になります。この2本の太い矢印がまさしく固定金利と変動金利を交換する金利スワップです。
この福岡さんと名古屋くんの間の取引のように、金利スワップでは元本を交換することはありません。しかし利息を計算するためには元本を決めておく必要があります。このような、実際の受払が行われない利息計算のための元本のことを「想定元本(*)」と呼びます。
金利スワップは確かに金利の交換をするだけですが、他の資産や負債と組み合わせて金利スワップを利用することで、キャッシュフローを変幻自在に操ることができるのです。
そこのところを、もう少し具体的に見てみましょう。
* 想定元本/金利が決まっていても元本が分からなければ利息額がいくらになるか計算できません。利息計算のために設定する計算上の元本のことを想定元本といいます。金利スワップでは実際にこの元本の受払いは発生しません。
スワップ取引利用例
たとえば、変動金利で以下の借入をしていると想定します。
借入期間 | 2年 |
---|---|
利息支払い | 半年毎 |
借入れ元本 | 100万円 |
金利のタイプ | 変動金利 |
この場合、この借入に、変動金利を受取って固定金利を支払う金利スワップを組み合わせます(前述の名古屋くんと同じパターンです)。
スワップを行う期間 | 2年 |
---|---|
利息交換 | 半年毎 |
想定元本 | 100万円 |
2年間の固定金利 | 年率4%(仮定) |
すると、下表のようなキャッシュフローに変更することができ、実質的に固定金利建てローンに変換できます。
変動金利建て 借入れ(A) |
スワップ取引 |
合成された 借入れ(A+B+C) |
||
---|---|---|---|---|
変動金利受取り(B) | 固定金利支払い(C) | |||
本日 | 100万円 | なし | なし | 100万円 |
半年後 | -?円 | ?円 | -2万円 | -2万円 |
1年後 | -?円 | ?円 | -2万円 | -2万円 |
1年半後 | -?円 | ?円 | -2万円 | -2万円 |
2年後 | -?円 -100万円 |
?円 | -2万円 |
-2万円 -100万円 |
*?マーク:変動金利なので、いくらになるかは不明です。先行き金利が上昇すると、膨らんでしまいます。
*-(マイナス) : 支払いを意味しています 。
もともとの変動金利建て借入のままでは、金利上昇時に利払い負担が増す心配があったのですが、金利スワップで同額の変動金利を受取りますから、受取りと支払いの変動金利同士が相殺され、残るのは金利スワップの固定金利の支払いのみとなり、固定金利での借り入れと同じことになります。
このようにして、金利上昇の心配はなくなります。ただし、予想に反して金利が下落した場合には、もはやそのメリットが受けられなくなることは理解しておく必要があります。
やはり、将来の金利変動はどうなるか分からないので、金利リスクが全くなくなることはありませんが、スワップ取引のおかげで、金利に関する自分の将来の見通しに合わせて借入の金利変動リスクをコントロールできるという点は、お分かりいただけたのではないでしょうか。
また、借入だけでなく、債券投資などの資産運用とスワップ取引を合成させることもできます。
スワップを用いた金融商品
(1)リバースフローター債
通常、クーポンが変動金利建ての債券をフローター債とよびますが、受取るクーポンの額が市場金利の変動と逆(リバース)方向に変動するよう設計された債券が、リバースフローター債と呼ばれています。
投資家にとっては金利が低下すれば受取り利息の額が増え、金利が上昇すれば受取り利息は減少するため、金利低下見通しを持つ投資家にとっては魅力的な商品となります。債券の発行体は、金利低下による利払い負担増大のリスクをヘッジするために一般に金利スワップを行っています。
・金利低下局面で多く発行される傾向があり、取り扱いは証券会社です。現在はそれほど多く発行されていません。
(2)リバース・デュアル・カレンシー債
発行と償還は円建てで行われますが、途中の利払いはドルなどの外国通貨の金利が外貨建てで支払われる債券です。
投資家にとってはクーポンが高い点が魅力的ですが、反面為替リスクがあります(償還が外貨建てで行われるデュアル・カレンシー債よりも為替リスクは小さくなります)。一般にクーポンスワップを組み込むことで組成されています。
・取り扱いは証券会社ですが、最近の発行額は減少していますのでいつでも購入できるとは限りません。