金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-
(全面改訂版)
1.金融教育のねらいと基本的性格
(2)いま、なぜ金融教育か?
<1> 金融教育は時代の如何にかかわらず必要な基礎教育
人は生活していく上でお金とは切っても切れない関係にある。「お金を使う」、「お金をためる」、「(働いて)お金を得る」、「お金を借りる」など、私たちは日々、様々なかたちでお金とかかわっている。本来こうした行為ひとつひとつは、必要な情報を集め、慎重に考え、納得した上で選択することが必要である。よりよい暮らしを築くため、しっかりした意思決定の力を若いうちから養っておくことは、時代の如何にかかわらず、基本的でかつ大切な教育である。
<2> 時代環境の変化と金融教育の必要性
近年、金融教育に対する関心が高まっているが、その背景には、上で述べた基本的な要因に加えて、以下のような生活環境の変化や経済社会環境の変化が大きく影響しているように思われる。
ア.生活環境の変化
現在の子供たちは、お金やものに囲まれた豊かな環境の中で育ち、カードやインターネット、携帯電話の普及などもあって、欲しいものが容易に手に入る生活を送っている。また、親の働く姿を見る機会や自ら働く機会が減少し、働いて生計を立てる自覚や現実に即した職業観をもちにくくなっているといわれる。
お金の価値に関する実感や生活感が薄れ、安易な購買行動や借入態度が広がっていけば、将来、生活力に乏しい大人や多重債務者の増加を招くことにもなりかねない。既に、子供に関連した金融トラブルが増加しているほか、フリーターやニートの増加が社会的な問題として指摘されている。
豊かで情報技術が発達した時代だからこそ、改めて子供たちにお金の価値を実感させ、お金をしっかり扱う態度を身に付けさせることが強く求められている。
イ.経済社会環境の変化
わが国経済は、少子・高齢化や人口減少という成長制約要因を抱えながら、キャッチアップ型ではなく、自らの力で新しい発展の道を切り開かねばならない時代に移行している。この間、グローバル化やIT化の進展に加え、金融をはじめとする多くの分野で規制緩和が進められている。これらは一面で新たな成長の種を提供するが、他方では個々人や企業間の競争が一段と厳しくなることを示唆している。さらに、これまで政府や企業が提供してきたセーフティネットの力が衰えるとともに、様々な犯罪や事件が増え、社会的なストレスも増大している。
こうした中、次の時代を担う若者には、第一に、ひとりひとりがそのもてる力を最大限発揮して、経済社会の活力向上に寄与することが求められる。第二には、自由度や選択肢が広がる一方で、生活(職業)、財産、人生経路等に関する不確実性が高まっているため、これまで以上に、個々人がリスクをしっかり認識し、判断に必要な情報を収集して、自己の責任で的確に意思決定していくことが求められる。第三には、個人が自己の利益のみを追求するのではなく、ルール・法律を守る意識や倫理観の再構築、社会(国際社会を含む)への貢献、伝統や文化の再認識、地域コミュニティの再興、自然環境の保全など、いろいろなかたちでよりよい社会づくりにすすんで寄与することが求められている。