金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-
(全面改訂版)
1.金融教育のねらいと基本的性格
(5)金融教育と関連する教育領域
金融教育は冒頭に述べたように、<1>生活や社会に関する知識や情報を身近なものとして深く理解すること、<2>生き方や価値観を磨くこと、<3>よりよい生活や社会を築くために主体的に考え行動できることを基本骨格としている。この点を踏まえながら、金融教育と関連する様々な教育領域との関係を後述する金融教育の目標(A.生活設計・家計管理に関する分野、B.金融や経済の仕組みに関する分野、C.消費生活・金融トラブル防止に関する分野、D.キャリア教育に関する分野…2.(1)参照)を念頭において主に知識や技能を中心に整理すれば次の通りである。
<金融教育と経済教育>
(一財)日本経済教育センターが発表した報告書では、経済教育はミクロ的には個々人の合理的な意思決定能力を養うとともに、マクロ的には実際の経済社会に対する理解とそれを踏まえた政策課題解決への取り組み態度の育成をねらいとしている。金融教育においても、ミクロ的な意思決定に関する内容は、「A.生活設計・家計管理に関する分野」において取り扱われているほか、マクロ的な理解は「B.金融や経済の仕組みに関する分野」で広く取り上げている。なお、金融教育において経済教育的な内容を取り上げる場合には、金融教育の特徴を生かして、なるべく個々人の主体的な生き方につながるような形で進められるのが望ましい。
<金融教育と消費者教育>
消費者教育は自立した消費者、行動する消費者の育成を目的に消費生活の幅広い分野を対象として含んでいる。(公財)消費者教育支援センターが平成18年に発表した報告書では、このうち主要な4つの領域(「契約・取引」、「安全」、「情報」、「環境」)を取り上げ、発達段階別の教育体系を提示している。金融教育も個々人の主体的な選択力、行動力の養成を目的としているため、消費者教育とは深く関係しており、その内容は、「A.生活設計・家計管理に関する分野」や「C.消費生活・金融トラブル防止に関する分野」で幅広く取り上げている。
平成25年6月に閣議決定された「消費者教育の推進に関する基本的な方針」では、「金融リテラシーは、自立した消費生活を営む上で、必要不可欠であり、消費生活の重要な要素であることから、金融経済教育の内容を消費者教育の内容に盛り込むとともに、金融経済教育と連携した消費者教育を推進することが重要である」としている。
<金融教育とキャリア教育>
キャリア教育は個々人に相応しいキャリアを形成していくために必要な意欲・態度や能力を育てることを目的とするものであり、金融教育の「D.キャリア教育に関する分野」とほとんど重なっている。両者は生き方を考える、自己実現、社会への貢献といった点で当然共通点をもっているが、金融教育としてキャリア教育を位置付ける場合、生計を立てる手段、あるいは将来の生活設計の基盤としての労働を強く意識させるほか、職業選択に関しても金融・経済の働きや現状を踏まえて考えさせることが大切である。
<金融教育と法教育>
法教育はルールをつくり、ルールを守ること、法律の内容を理解しそれを活用する能力を養うことなどを目指している。金融教育はそうした法教育の内容を多く含んでいる。法教育研究会が発表した『はじめての法教育』の中でも「C.消費生活・金融トラブル防止に関する分野」に深く関連した指導事例が紹介されているほか、金融教育の中で取り扱う起業、労働者の権利、金融商品運用などでも法教育と直接関連する要素は多い。金融教育の中で法教育的な内容を取り上げる場合は、当該の法の内容を理解しそれを現実の場で行使できる能力を養うことに重点を置いて取り扱っている。
<金融教育と金銭教育>
金銭教育はものやお金を大切にすることを通じて、お金や労働の価値を知り、感謝と自立の心を育てることによって、人間形成の土台作りを目指す教育である。金融教育はそうした金銭教育の伝統を十分継承しながら、実践的な消費者教育やキャリア教育、さらにはマクロ的な金融・経済の把握といった要素を取り込みながら組み立てられている。その意味では金融教育は金銭教育を包含し、より幅広い内容に発展させたものと位置付けることができる。
<金融教育と環境教育・食育>
現在多くの学校で環境教育や食育への取り組みが行われている。これらの教育が目指す直接的な目標は金融教育の目標と必ずしも同じものではないが、多少視点を広げてみると、金融教育との接点は少なくない。例えば、環境教育の中で問題を金銭に換算して事態の深刻さや対応のあり方を考えたり、水やエネルギーを題材に価格や産業の働きと関連付けて環境問題を取り上げることなどがあり得る。また食育との関連では、調理実習での食材選択や食材の生産・流通等に目を向けたり、食育の必要性を医療費との関連で理解させたりすることなどがあり得る。