金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-
(全面改訂版)
1.金融教育のねらいと基本的性格
(6)学校における金融教育の位置付け
以上のように金融教育は知識・技能という点からみれば、関連する教育領域との間でその内容が重なり合う面がある。また、関連する教育領域間でも同じような重なり合いが存在している。一方で、それを受け取る学校側からすれば、○○教育を提供・提言する側の意図や目的は分かるとしても、それが多数に上り、相互に重複しているため、戸惑いを感じる場面も少なくないように思われる。特に授業時間の制約や様々な教育課題の対応に追われる学校現場からすれば、何を、どの教科で、どのように取り上げればいいのか、苛立ちを感じる面もあるように思われる。
金融教育は新しい教育分野として新たな教育領域をことさら主張するものではない。むしろ金融教育は既存の教科等における学習内容や上で紹介した様々な教育領域の知識などを基本として、それを子供たちの生き方や価値観の形成につなげていくトータルな過程そのものを指すといった方が適切であろう(図表2参照)。なぜ金融教育がそうした役割を果たせるのかといえば、お金は子供たちにとって身近で関心のある道具であり、それを通じて知識や問題を自分のこととして把握し考えさせるまたとない手段となっているためである。
従って、学校において金融教育に取り組む際は、教科等の学習において、お金を題材に取り上げたり、自分の暮らしや将来、自分と社会とのかかわりを意識させたりしながら、それらを総合的な学習の時間につなげ、体験的学習などを交えながら、自分の生き方や価値観の形成に導いていくというかたちが望ましい。
総合的な学習の時間は「自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育成するとともに、学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的、協同的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えることができるようにする」ことを目標とし、指導計画の作成と内容の取扱いにおいて、各教科、道徳及び特別活動で身に付けた知識や技能等を相互に関連付け、学習や生活において生かし、それらが総合的に働くようにすることとされている。その趣旨からすれば、金融教育は総合的な学習の時間で取り上げてこそよりトータルなものとなり、より生きたものになるといえる。
なお、金融教育は生き方や価値観を形成することを目指すものであるため、ひとつの問いにひとつの正答が対応しているわけではない。従って、通常の意味での「教える」こととは趣が異なっている。それだけに、金融教育が投げかける課題は教師の方々にとっても、また、金融教育を支援する保護者や地域の人などにとっても自分の課題であると認識して頂き、ともに学び、ともに考えることが大切である。むしろそうすることによって、内容が現実味を増し、子供たちの心に響いていくことになろう。
図表2 金融教育と教科等の関係
